( 254251 ) 2025/01/24 03:33:07 0 00 中央合同庁舎第2号館に掲げられる警察庁・国家公安委員会の看板=東京都千代田区で2022年8月25日午後2時38分、北山夏帆撮影
闇バイトに「雇われたふり」をする「仮装身分捜査」の実施要領を警察庁が策定したことから、捜査員が身分を偽る捜査手法が初めて実施されることになる。適用範囲が拡大することへの懸念に対して警察庁は「実施要領で範囲は限定した」と説明するが、識者からは「実施状況を公表するなど第三者のチェックが必要だ」との指摘が出ている。
警察庁は、仮装身分捜査の順守事項をまとめた実施要領を公表した。A4判2ページで、10項目からなる。
仮装身分捜査の定義は、捜査員が犯罪の実行者の募集に応じて犯人に接触する際、捜査員とは異なる顔や氏名、住所が表示された文書などを提示して実施する捜査活動とした。
本部長の承認が必要な計画書には、仮装身分捜査が必要な理由や捜査を実施する所属のほか、体制、期間、偽の身分証の必要な枚数などを記載する。身分証は計画で指定された枚数しか作成できない。捜査では本部長らの命令を受けた警部以上のまとめ役の警察官を置く。
偽の身分証の目的外利用を防ぐため、他の捜査資料とは別の場所で施錠して保管するとした。
また、実施要領に記載はないが、本来違法となる身分証の偽造について警察庁は、刑法が正当な業務による行為は罰しないとしていることから、違法とはならないとしている。
識者は実施要領をどう評価するのか。
専修大法科大学院の加藤克佳教授(刑事法)は「実施要領で捜査の範囲や手順が示されたことで、適用拡大にある程度の歯止めがかかるので一定の評価はできる」と話す。
一方で、仮装身分捜査の実施に対するチェック体制の弱さを指摘する。加藤教授によると、仮装身分捜査を導入したドイツやフランス、米国など、法律やガイドラインで罪種や適用範囲を限定している国が多いが、範囲外の事件でも用いられたケースが報告されているという。
加藤教授は「実施要領では、警察内部でチェックするとなっており、運用に幅が出る恐れがある」と指摘。「実施要領ありきでスタートしており、立法が必要かの議論がなされていないことに違和感がある」として、「捜査の正当性を裁判官ら第三者がチェックする体制を敷くことも必要ではないか」と話した。
潜入捜査などの捜査手法に詳しい熊本大の内藤大海教授(刑事訴訟法)も第三者がチェックする仕組みが求められるとし、通信傍受法のような実施状況の公表などが必要だとする。
警察の捜査に対しては以前、令状なしで捜査対象者の車などに全地球測位システム(GPS)端末を付けて居場所を把握する捜査手法が最高裁で違法とされた。内藤教授は「仮装身分捜査を実施することでどんな問題が起きるのか現段階ではよく分からない部分がある。実施要領だけで足りるものなのか、法で規定しないといけないのか、もう少し議論が必要だったのではないか」とした。
警察庁は、仮装身分捜査の件数などの実施状況を公表するかについては「今後、検討したい」とするにとどめている。【山崎征克】
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