( 254354 ) 2025/01/24 05:36:19 1 00 近年、早稲田大学の入試制度は根本的に改革され、幅広い層の受験者を集める成功を収めている。 |
( 254356 ) 2025/01/24 05:36:19 0 00 早稲田大学の入試はどう変わったのか
近年、早稲田大学の各学部の偏差値が急上昇している。かつて早稲田大学の入試と言えば、暗記型のマークシート試験やマニアックな知識を問う問題が多く、文系3教科型受験が一般的だったが、近年の入試改革によって幅広い層の受験者を集めることに成功しているのだ。いったいどのような改革を行ったのか。イトモス研究所所長・小倉健一氏が、早稲田大学躍進の秘密を解き明かす。
* * * 「ひたすら英語、国語、地歴・公民の3教科を勉強してきた受験生が、主体的な学習を進めようとする大学教育とうまく結びつかないことがありました。大学で勉強するためではなく、とにかく早稲田に入ることを目的にしていると、入学してから学習に熱心ではない学生が一部で生じていました」
これは、早稲田大学大学総合研究センター副所長の沖清豪氏の言葉だ(朝日新聞EduA〈早稲田大が初の卒業生調査 一般入試組と附属・系属校出身に違いは?〉2021年5月28日付より)。
早稲田大学はこうした考えをもとに、入試制度を根本的に改革した。その甲斐あってか、早稲田大学の各学部の偏差値は急上昇しており、今ではライバル慶應義塾大学を凌駕している現実がある(詳細は後述する)。
早稲田が公表しているデータをもとに、この10年の変化を数字で見ていこう。
早稲田大学の2024年度の入学試験結果データによれば、一般選抜の割合は51.2%である。2014年度は55.4%であり、減少が見られる。一般入試の比率低下は、推薦やAO入試など多様な選抜方法が拡大していることを示している。附属校・系属校からの入学者割合は2024年度で18.0%に達している。2014年度は14.6%であり、こちらも増加が確認できる。附属校出身者の枠が拡大し、大学と附属校の連携強化が進んでいることが背景にあると考えられる。
指定校推薦の割合は2024年度で17.8%である。2014年度は15.0%であり、微増している。高校との関係構築が強化されていることが反映されている。AO入試・自己推薦の割合は2024年度で9.2%である。2014年度の4.6%と比べて大幅な増加が見られる。多様な才能や個性を持つ学生を積極的に受け入れる方針がうかがえる。共通テスト利用入試の割合は2024年度で2.0%である。2014年度は1.7%であり、ほぼ横ばいである。独自選抜を重視する方針が続いている。
つまり、一般選抜の割合が減り、推薦やAO入試など多様な選抜方法が拡大することで、偏差値が上がったというのが実態であろう。また、早稲田大学は入試改革を通じて、暗記型受験の見直しを図った。政治経済学部を皮切りに共通テスト導入や数学必須化を実施し、出題形式と範囲を大幅に変更した。この改革により、知識偏重の選抜から幅広い学力を持つ学生を対象とした入試へと進化した。特に、東京大学や一橋大学志望の国立大併願者をターゲットとする制度が実現した。結果として、偏差値を維持しながら受験生層の質的向上に成功し、多様な学生の確保を達成している。
こうした入試制度改革の背景を、早稲田の学長・田中愛治氏が日本経済新聞(2023年9月5日)で述べている。特筆すべきは文系学部入試における「数学の必須化」だろう。
田中総長は「早稲田大学も長年、文系と理系を分けて難解な入試問題を出してきた過去を持つだけに、大学入試が高校生に文理を分けて学習するよう強いてきたことに責任の一端を感じる」と反省する。そうした認識のもと、早稲田大学の受験制度は、文理分断を克服し文理横断教育を推進する方向に向かっているようだ。
田中総長によれば「現在の日本の入試制度は文系と理系を分けて学習を強いる構造となっており、それが教育全体の偏りを招いている」「文理分断がDXの遅れや政策の非効率性につながっている」という。早稲田大学では数学必須化や共通テスト利用を進めることで、文理融合を志向する受験生を取り込もうとしているのだ。
「(今の日本に必要なのは)自分の興味のあることを真剣に学ぶ動機づけをし、正解が定まっていない未知の問題への解決策を自分の頭で考えることを促す教育である。そのためには、偏りなく学問の基礎を修める必要がある」と田中総長は指摘する。偏りのない基礎を固めること、これが文系であっても早稲田が数学を必須化する理由だ。論理的思考、読解力には一定の数学力が必要であり、古い世代が早稲田入試に持つ「暗記をしておけば合格できる」というイメージの入試とは根本的に違うものになっているということだ。今後、そうした能力を持った早稲田の卒業生たちの活躍が期待される。
数学能力の高さは、職業的成功と密接に関連している。「数学的能力と人生の成功」(2016年)によると、数学が得意だと、論理的思考力や問題解決能力、データ分析力が優れているため、これらの能力が求められる分野で成果を上げやすい。
アメリカのヴァンダービルト大学が、数学的推論能力が上位1%に入る若者を対象に長期追跡調査を実施したところ、多くの分野で顕著な成功が確認された。研究分野では4.1%が主要大学で終身在職権を取得し、7572本の論文を発表している。企業経営分野では2.3%がフォーチュン500企業でトップエグゼクティブとして活躍し、法律分野では2.4%が主要法律事務所で活躍している。対象者は3億5800万ドルの研究助成金を獲得し、681件の特許を取得している。数学的能力の高さは、個人の職業的成功だけでなく、経済や研究分野にも大きな影響を与えることが明らかである。
他にも、基本的な数学のスキルを持っていると、日常生活の解決スキルが27~31%向上するというデータもある(“Mathematics Skills and Everyday Problem Solving”「数学スキルと日常的な問題解決」ノースフロリダ大学、2007年)。暗記に頼らず、数学的な概念を深く理解し応用する力が、実践的な場面での問題解決には欠かせない。
最後に、大学情報誌「大学ランキング2025」(朝日新聞出版)で、偏差値を確認してみよう。
早稲田とライバル慶應の偏差値を比較すると、学部ごとに特徴が異なる。社会科学系では早稲田政経、法、商が67.5で慶應法と同水準であるが、慶應経済と商は65.0に位置する。人文科学系では早稲田文と文化構想が67.5と高く、慶應文の62.5を上回る。生活科学では慶應総合政策が67.5で最も高く、早稲田人間科学は65.0である。理工学系では早稲田基幹理工が67.5で最上位であり、早稲田先進理工や慶應理工は65.0で同等である。医療系では慶應医が72.5で突出している(早稲田は医学部がない)。
学部によって優位性が異なり、分野ごとに特色が際立つが、早稲田にはない医学部を除いたところで、慶應と偏差値を比較すると、早稲田は全体的に同等か、それ以上に位置しているというのが実態だ。今年の受験偏差値においても、人生においても、慶應を完全に抜き去り、早稲田が圧勝してしまう可能性がある。
【プロフィール】 小倉健一(おぐら・けんいち)/イトモス研究所所長。1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立して現職。
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