( 254576 ) 2025/01/24 16:10:52 0 00 スポンサーの大量離れや株価の急上昇など、大混乱に陥っているフジテレビ(画像:フジテレビ公式サイトより)
1月23日、中居正広さんの女性トラブルに端を発した一連の騒動を受て、フジテレビは社員向け説明会、フジ・メディア・ホールディングスは臨時取締役会を行いました。そして27日に、今度はオープンな形で記者会見が開かれるということです。
中居さんの出演番組がすべて終了・降板が決まり、さらに芸能界引退を発表したことで世間の注目は、ほぼフジテレビ一点に絞られました。
17日のフジテレビ・港浩一社長による会見後、ネット上に批判の声が殺到したほか、75社を超えるスポンサー企業がCMを控えたことで大混乱。春以降の契約続行に暗雲が立ち込めているだけでなく、広告料の返還や契約終了の前倒しを求める企業もあるなど危機的状況に陥っています。
フジテレビは独立性や透明性が担保された第三者委員会の設置を発表しました。しかし、調査結果が出るのは3月末と言われています。はたして、ここから2カ月以上もの間、「現在は調査中」の一点張りで世間に通用するのかは疑問です。
一方、メディアや世間の人々はそんなフジテレビを厳しい目で見ていくことになりますが、このところのムードを見ていると「本当にそれだけでいいのか」という疑問を感じてしまうところがあります。
■もともと「実力優先ではない」キャスティング
ネット上の声を見ていると「フジテレビはとんでもない」という論調がほとんどを占めていて、それは一連の流れを見れば仕方がないでしょう。ただ、フジテレビに向けられた、“性接待”、社員が被害に遭ったときの対応、取引先との不適切な関係などの疑惑は、はたして同社だけの問題なのか。
あまりに「フジ憎し」が過熱しすぎて「木を見て森を見ず」になっていないか。猛批判に埋もれながらも、そんな声がネット上にチラホラと見えはじめています。
とりわけハラスメントや意にそぐわない性行為と“キャスティング”の関係性はフジテレビだけの問題と言い切っていいのか。
メディアも世間の人々も「同社を叩くだけでは根本的な解決に至らない」ことに目を向けなければいけないように見えます。
この“キャスティング”には、「番組に出たい出演者側」と「人気タレントに番組に出てもらいたい制作者側」という両者の思惑があり、中居さんとフジテレビの疑惑は後者がベースになって起きたものと報じられています。
そしてエンタメ業界におけるキャスティングは、必ずしも実力にもとづいて行われるとは限りません。個人の好みや取引先への便宜などが優先されることもあるなど、フェアであることが必須ではないからこそ、ハラスメントや性被害の余地が生まれてしまいます。
たとえば、芸能事務所やモデル事務所などは所属タレントを何とかキャスティングしたいし、そのためには担当者に好かれなければならず、万が一にも嫌われたら仕事ができなくなってしまう。
一方、テレビ局だけでなく映画・音楽・舞台などの制作関係者、イベント会社や広告代理店のキャスティング担当者などは強い権限を持っています。また、以前ほどの権限はないとはいえ、写真集やDVDなどの担当者も影響力のある存在といっていいでしょう。
そんな両者の関係性がハラスメントや性被害が発生しやすいリスクに直結。実際、筆者自身、この20年あまり、耳を疑いたくなるような下記の話を聞いてきました。
■追求がエンタメ業界全体に広がる可能性
「映画のキャスティング権限を持つ監督による若手女優への性的行為」「複数の俳優による映画配給会社スタッフへの性的なハラスメント」「舞台演出家による俳優への意にそぐわない性行為」「芸能事務所が若手タレントを使って広告代理店のキャスティング担当に過剰な接待」「広告代理店社員とCM出演者によるPR会社スタッフへの性的なハラスメント」。
これらは本人から聞いたもの、伝聞によるもの、筆者が実際に見たものですが、この他にもあり、決して少ないとはいえません。さらにあるエンタメ業界関係者と中居さんとフジテレビの騒動について話したとき、「ちゃんと調べたらウチの業界はもっとひどいかもしれない」「以前から性接待の話はあり、被害者も知っている」と嘆いていました。
また、ある民放テレビマンは「芸能事務所の中には訴えられてもおかしくない人がいるし、実際に『中居さんのように女性トラブルで弁護士を交えた協議になって示談した』というケースもある」と話してくれました。
これらは性別の問題ではなく、権力の格差によるところが大きく、それが発生しやすいのがエンタメ業界の課題と言っていいでしょう。
蛇足かもしれませんが、1人の書き手にすぎない筆者にすら「宴席で両隣に若手女性社員を座らせてお酌させる」などの接待を受けますし、そのことで「何らかのメリットを得ようとする」という関係者がいまだにいるのがエンタメ業界の実情かもしれません。
筆者が知る限り、フジテレビの苦境を他人事とみなすエンタメ関係者は少なく、中には「自分に追求が及ばないか」と不安視している人もいます。メディアと世間の人々の追求が、フジテレビの後は他局に移り、さらにエンタメ業界全体に広がっていくのではないか。そのとき自社は大丈夫なのか。
もし週刊誌に報じられたら……。もし個人から「被害を受けた」と告発されたら……。フジテレビのような後手の対応にならないように、エンタメ業界には独自の調査を行うべき組織が多いのではないでしょうか。
■今回、CMを控えた企業は大丈夫なのか
さらに「今回の騒動はエンタメ業界に限った話」とは言いづらいところがあります。
キャスティングに関しては、コンパニオンやモデルの派遣などでも似たところがありますし、その他でもCMやイベントなどの決定権を持つ社員は何らかの過剰な接待を受けたり、ハラスメントをしたりという可能性があるでしょう。
それ以外でも、社内外の人事に関する権限を持っている社員は問題ないのか。たとえば、査定や配属、派遣社員の契約、入社面接、インターンシップなどの担当者は大丈夫なのか。
人間が人間の人生や生活を左右する仕事をしているときは、少なからずハラスメントや意にそぐわない性行為などの悪事が起きやすいところがあり要注意です。
人事以外に目を向けても、飲み会に女性社員を伴うことはよくある形ですが、権力を持つ人の横に座らせ、ホステスのような動きを求めていないか。その際のハラスメントなどを防いでいるか。もし被害が発生したときは十分な対応をしているか。そもそも「取引を成立させるため」という前提で無理強いしていないか。
CMを控えた企業も「ウチは問題ない」と言い切ってしまうと、社員の関与を全面否定したフジテレビの初動対応と同じであり、「疑惑が報じられた際に危機的状況に陥る」というリスクがあります。
組織をより健全化するためにも、今回の騒動をフジテレビのみの問題としてとらえるのではなく、自社で調査してもいいのではないでしょうか。
■「個人の悪事」だとしても組織の問題
コンプライアンスの遵守や人権デューディリジェンス(事業における人権リスクの特定や対策、情報開示)が求められる令和の世では、社内のハラスメントが減った一方、受注関係の濃い取引先からの悪質なハラスメントはまだまだあるといわれています。
とはいえ令和の世では、さすがに報じられている組織的な「上納」「献上」ほどひどいものは少なく、その多くが個人による悪事とみられています。
ただ、もし個人による悪事だったとしも、見逃してしまい、適切なフォローを怠れば組織の問題となるのが怖いところ。フジテレビのような経営危機にも陥らないためには、「個人の悪事を生まない。見逃さない。即時対応」などのガバナンスを構築していくべきでしょう。
現在の企業に求められているのは、「社員たちはハラスメントや性加害の被害者にも加害者にもなりうる」というスタンス。フジテレビやテレビ業界だけの問題と決めつけず、あらゆる企業が社員や組織を守るきっかけとしてとらえてほしいところです。
木村 隆志 :コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
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