( 254656 ) 2025/01/24 17:38:51 0 00 (c) Adobe Stock
フジテレビが揺れている。米大リーグ・ドジャースで活躍する大谷翔平選手の“新居報道”など相次ぐ突撃取材で批判を浴びていたかと思ったら、今度はタレント・中居正広氏をめぐるトラブルにフジ幹部が関係していたとする週刊誌報道で窮地に立たされた。港浩一社長は1月17日の記者会見で謝罪の言葉を並べたが、経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏はその会見の在り方について問題点をあげるーー。
元SMAPの中居正広氏(52)がフジテレビに勤務する女性と関係するトラブルを起こし、この件にフジテレビの編成幹部社員が関与していたと報じられた。この問題により、同社が抱える広告スポンサーの離脱が次々と発生している。
日本生命保険、トヨタ自動車に加え、セブン&アイ・ホールディングスや花王、NTT東日本を含む50社以上が、提供しているCMの放送を停止する決定を下した。民放テレビ局として広告収入に依存するフジテレビにとって、この状況は経営存続の危機を招いている。
日刊ゲンダイは、今回の問題の背景をこう報じている。
<フジ関係者によると、新宿区河田町に旧社屋のあった時代には「いまなら一発退場となるようなパワハラ、セクハラが当たり前」で日枝氏(フジテレビの取締役相談役である日枝久氏のこと)は毎年、正月明けに局アナを引き連れて、社内を練り歩く光景があったそうだ。そうした女子アナ採用を巡っては「面接で日枝さん好みの女性が通る」と囁かれていたというから、関係者から「局アナは自分の大奥とでも勘違いしていたのではないか」との声まであるのも当然か。>(1月21日)
こうした報道の実態がどのようなものであるかは明らかではないが、性接待にまで至らないものの、「あの女子アナウンサーは営業の会食にも快く参加してくれる」「あの人物は付き合いが悪い」などという話をテレビ局員から直接耳にした経験がある。女性アナウンサーを一種の商品や広告塔のように扱い、その存在を営業の材料として利用する行為は、フジテレビに限らず、過去にも他局で行われてきた可能性が否定できない。
それにしても、今回の問題で特に非難されるべきは、フジテレビ社長による記者会見である。現在の社会はSNSの普及により情報の透明性が極めて高まり、疑念を抱かれるような対応をすれば瞬時に批判や炎上を招く環境にある。
その状況下で、問題を隠蔽しようとするような体質をあえて露呈させた点には呆れるばかりである。メディア業界が、実は日本社会の中でもっとも古い体質を維持している業界の一つであることが、今回の事案を通じて浮き彫りになった。
記者会見の出席者をラジオ・テレビ記者会加盟社に限定し、それ以外のメディアやフリーランスの記者を排除したことは看過できない重大な問題である。公共性が高い存在として、広く多様なメディアに対して情報を提供し、透明性を保つことが求められる立場である。特定のメディアに限定した対応は、情報公開の公平性を著しく損ない、批判されるべき行為である。
記者会見の運営方法そのものも問題視される。記者会見を完全に公開することを義務付ける法律が存在しないため、形式の自由度が認められることは確かである。しかし、情報の透明性が重要視されるべきメディアが、自ら閉鎖的な形式を選択するのは矛盾している。出席者がラジオ・テレビ記者会加盟社に限られることで、「追及が甘い」「配慮した質問が多い」「実質的に批判しない」やり取りになる可能性が高い。このような環境が意図的に作られている疑念を拭えない。
さらに、会見内容の報道が会見終了後まで制限され、生中継や動画撮影が一切禁止されていたことも重大な問題である。一般的な感覚では、これは情報統制以外の何物でもない。メディアが「第4の権力」として権力を監視する役割を担う一方、自らの不祥事に関しては情報を閉ざし、自身を保護する姿勢を示した。こうした対応は、フジテレビが今後どのような報道を行っても、特定の利害関係を考慮した「優しさ」や「手心」が加えられるのではないかという疑念を広める結果となる。
組織としての防衛が最優先となり、社会に対する説明責任や透明性が二の次とされているフジテレビの対応は、メディアとしての本質を欠いている。このような古い体質の維持に固執し、批判に対して耳を貸さない態度は、現代の情報社会においては通用しない時代錯誤的なものである。改革に向き合う姿勢がなければ、信頼の喪失が続き、組織全体の崩壊を招くことになる。
「お答えができる」状況になるまでスポンサーになることは困難
――関与したのは(フジテレビ)幹部という週刊誌報道があるが。
回答)それもちょっと特定につながるので(お答えできない)。
――関わった社員の現在の処遇、どういう立場にあるかは。
回答)お答えできない。
「お答えできない」「お答えできない」という言葉の繰り返しによって招かれた結果は、スポンサーの大量撤退である。フジテレビ社長は、「新たに第三者である弁護士を中心とした調査委員会を発足させ、体制をさらに強化して調査、検証を行う」と述べたが、問題解決の意思が十分に感じられない。フジテレビの危機管理を誰が担当しているのか不明であるが、「調査委員会」を設立し、のらりくらりと時間稼ぎをする意図があったように見える。
しかし、スポンサーの視点に立てば、フジテレビが「お答えができる」状況になるまでスポンサーになることは困難である。時間稼ぎのつもりが、その間、スポンサーが大量に撤退するという、危機管理の大失敗によって、自らの首を締める結果となった。
組織における危機管理の本質は、問題を先延ばしにすることではない。いかにして被害を最小化し、状況を制御するかが重要である。今回の事案では、もはや被害の発生を防ぐことは不可能であったため、自社への被害をいかに少なくするかが焦点となるべきであったが、この対応は完全に失敗した。
記者会見の場で発表されるべきだったのは、関係者の処分に関する具体的な決定である。「すべてがクロ」であるという前提に立ち、迅速かつ厳格な処分を行う姿勢を示す必要があった。
「クロ」と決まらない段階で処分を行うことに抵抗を感じる意見もあるかもしれないが、後に調査委員会が「シロ」であると結論付けた場合には処分を取り消せば良い。そのリスクを承知の上で、徹底的に問題に向き合う姿勢を示すべきであった。
記者会見は、追及する側を驚かせるほどの覚悟を持って行われるべき場である。追及する者が「そこまでやるのか」と驚くほどの対応がなければ、国民が高い関心を寄せる社会問題において適切な危機管理は成り立たない。小出しにした情報や、見つからない事実は隠し通そうとする態度、発覚した事実への謝罪の不誠実さが重なり、最悪の結果を招いた。記者会見に参加するメディアを限定し、動画撮影を禁止する対応は、さらに問題の透明性を損なった。
フジテレビには真面目に職務に向き合う社員も多いと考えられる。女子アナウンサーを用いて営業活動や番組編成を行う姿勢に嫌悪感を抱いていた社員も存在したはずである。しかし、この社長会見によって、フジテレビ全体の信頼が完全に失われた。
スポンサーが離れ、経営の基盤が揺らいでいる現状で、信頼をどう取り戻すのか、頭を抱える状況が続いている。今回の対応が示したのは、危機管理における覚悟と透明性の欠如が、組織の信用をどれほど一瞬で損なうかという厳しい現実である。
すべてを綺麗にして、新経営陣で、徹底的に膿を吐き出すしかない。その覚悟がフジテレビにあるのだろうか。
小倉健一
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