( 254804 )  2025/01/25 03:40:06  
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日本では少子化対策として子育て支援金などの制度が拡充されているが、結婚数は増えていない。

独身研究家の荒川和久氏は、中間層の崩壊が結婚減少の原因であり、経済的な要因が大きいと指摘している。

中間層の結婚が減少しており、特に男性の経済力が重視される傾向があると述べている。

中間層の子持ち世帯が激減しており、中央値が上昇していることも指摘されている。

荒川氏は、中間層の底上げが必要であり、現状に対処する経済対策が真の少子化対策であると主張している。

(要約)

( 254806 )  2025/01/25 03:40:06  
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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yue_ 

 

少子化対策で政府は子育て支援金などの制度を拡充するが、婚姻数が増える兆しはない。なぜ日本人は結婚しなくなったのか。独身研究家の荒川和久さんは「現状の少子化対策では出生増につながらないどころか、中間層の婚姻減を加速させるという皮肉な結果を生んでいる」という――。 

 

■日本の中間層は崩壊している 

 

 世の中とは残酷なもので、光があれば影ができます。強者がいれば弱者が必ず生まれるし、その結果として何かを得られる側と得られない側が発生するものです。学業しかり、スポーツしかり、恋愛も結婚もまたしかり。 

 

 私は、常々「恋愛強者3割の法則」と述べています。これは、令和の若者が特に恋愛離れしたのではなく、少なくとも1980年代から40年間終始一貫しています(〈「若者の恋愛離れ、セックス離れ」はウソである…「20代の4割がデート経験なし」の本当の意味〉参照)。 

 

 一方で、資本主義社会としては経済的に裕福な層とそうでない層とを分けてしまうことになります。いわば、経済強者と経済弱者を生み出します。 

 

 「強者と弱者」という二極で語られがちですが、実際には強者以外がすべて弱者なのではなく、真ん中に中間層というものが存在します。 

 

 恋愛強者3割と言いましたが、7割が弱者なのではなく、中間層4割、弱者3割という構成になります。経済的にも、富裕層と貧困層しかいないのではなく、真ん中に中間層が存在し、人口的にはもっとも多い。強者と弱者の格差や弱者救済という面ばかりがフォーカスされがちですが、実は今起きていることは中間層の崩壊です。 

 

■つい10年前は年収300万円台で結婚できていた 

 

 昨今の少子化の原因はほぼ婚姻減に尽きるのですが、婚姻数が減少しているのはすべて年収中間層です。結婚は持続的に運営される生活ですから、経済力は重要です。そのあたり女性は現実的で、2021年の出生動向基本調査においても、結婚相手として重視・考慮する項目で「男性の経済力」は91.6%です。 

 

 しかも、女性の場合は、「自分より収入の高い男を選ぶ」という上方婚志向があり、2022年の就業構造基本調査から、結婚してまだ子のいない20代夫婦のそれぞれの年収構造を分析すると、女性の上方婚7割、同額婚2割、女性の下方婚(女性の方が男性より年収が高い)はわずか1割です。 

 

 逆にいえば、男性の場合経済力を高めれば結婚への道も開けるともいえるわけですが、ここもまた険しいものになっています。女性の大学進学率の上昇や社会進出によって、女性の稼ぐ力もあがっていますが、女性が自分より高年収の男性と結婚したいという前提になると、女性の年収があがればあがるほど、皮肉なことに結婚のハードルが高くなるからです。 

 

 事実、つい10年ほど前くらいまでは、20代で結婚に至る男性の経済力最低条件は年収300万円と言われ、実際300万円台で多くが結婚していました。30代でも400万円台です。しかし、2014〜2015年あたりを契機に、一気にこの「男の結婚可能個人年収」のインフレが起きており、20代で300万円台では見向きもされないという状況に陥っています。 

 

 

■2013年以降、中間層の子持ち世帯が激減している 

 

 さらに「男の結婚可能個人年収」だけではなく、結婚して子育てするための夫婦の「子育て可能世帯年収」も同時期にあわせて上昇しました。 

 

 国民生活基礎調査より、2003年、2013年、2023年と10年間隔で、20〜30代世帯主を対象として、児童のいる世帯の年収別世帯数を見れば一目瞭然です。2003〜2013年にかけてほぼその分布は変わっていませんが、2013〜2023年にかけて、中間層年収帯の世帯数だけが激減しています。全体の世帯数も2013年からの10年間で半減しています。 

 

 対して、世帯年収900万円以上ではこの20年間ほぼ変わっていません。婚姻減といわれている中でも、経済強者は関係なく結婚し、子どもを産んでいるということになります。 

 

■ここ10年で中央値がはねあがっている 

 

 それぞれの中央値を比較してみましょう。2003年の児童のいる世帯の中央値は498万円ですが、独身も含む20〜30代の総世帯の中央値は446万円でしたので、それほど全体と乖離しているわけではありませんでした。2013年は児童のいる世帯516万円(総世帯461万円)、とあがっていますが10年間で3.6%増程度に過ぎません。総世帯との差も2003年と大きく違いません。 

 

 しかし、2023年となると、児童のいる世帯で591万円(総世帯461万円)とはねあがり、2013年対比で15%増です。 

 

 20〜30代若者の年収が全体的に上昇したのではありません。2013年と2023年の総世帯の中央値はまったくあがっていません。要するに、2003〜2013年400万円台から500万円強の世帯年収で子育てできていた20〜30代が、2023年にはとてもその年収ではできなくなり、結果としてこの中間層の結婚が減った。それにより、子を持てる世帯の中央値があがってしまっただけです。 

 

 よりわかりやすくするために、年収ごと総世帯に占める児童のいる世帯(20〜30代のみ)の割合を算出してみます。世帯年収別にどれだけ子を産んでいるかの割合です。 

 

 

 

■日本人を縛る「子育ては金がかかる」という呪い 

 

 感情的には、それぞれの年収階級で「まだまだ足りない」と感じてしまうかもしれませんが、経済強者でさえそうならば、中間層はもっと苦しいでしょう。大事なのは、知らない間に多くの人が刷り込まれてしまった「子育てには大きなコストがかかる」という何か呪いのようなものからいったん離れて、中間層の稼ぎでも十分に安心して子どもを育てられる全体の経済環境の整備が必要だと思います。 

 

 強者と弱者という二極だけを見るのではなく、今まであまり議論されてこなかった中間層の底上げと復活こそが必要なのではないでしょうか。 

 

 真の少子化対策とは、子育て支援でもなく、官製婚活などの出会い支援でもなく、まず、この20年間も年収が増えていない中間層以下の現状に向き合うことであり、そこへの経済対策です。少なくとも中間層なのに「お金がないので諦める」という心理に若者が追い込まれないようにしてあげることではないでしょうか。 

 

 これ以上、結婚や出産へのコストが心理的インフレをすれば、結婚や子どもを持てるのは上位3割の強者だけとなり、未婚率70%時代が訪れるかもしれません。 

 

 

 

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荒川 和久(あらかわ・かずひさ) 

コラムニスト・独身研究家 

ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子共著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。 

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コラムニスト・独身研究家 荒川 和久 

 

 

 
 

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