( 255641 ) 2025/01/26 17:14:33 0 00 労働力を支える若者人口の減少が懸念されている(写真はイメージ)
超高齢化社会の到来が経済・財政分野に大きな影響を及ぼす2025年問題。戦後すぐのベビーブームに生まれた団塊の世代がすべて75歳以上になる一方、労働力を支える若者の人口が大きく減少し、少子化や未婚化に歯止めがかからなくなる危機も忍び寄る。政府は「異次元の少子化対策」を今年から本格稼働させるが、子育て支援の拡充に軸足を置く従来型の対策だけでなく、結婚や出産をしやすい環境づくりが一層求められそうだ。
政府は結婚や出産をしやすい環境づくりを進める青写真を描くが…(写真はイメージ)
日本の少子化は深刻化している。女性1人が生涯に産む子どもの推計人数を示す合計特殊出生率は23年に過去最低となる1・20を記録。コロナ禍で交流機会が極端に停滞した余波で結婚する人の数も減少し、23年は前年比6・0%減の47万4717組と、戦後初めて50万組を割り込んだ。
岸田前政権が打開策に掲げたのが「異次元の少子化対策」。3年間で年最大3・6兆円の予算を投じる子育て支援策を取りまとめ、多くの政策の実行が石破政権に委ねられた。児童手当の拡充に加え、3人以上の子供がいる世帯を対象にした所得制限なしの大学無償化、就労していない親も保育園を利用できる制度などが盛り込まれた。
子育て支援に焦点を当てた狙いは、現役世代の家計負担の軽減だ。日本総合研究所の翁百合理事長(政府税制調査会会長)が23年に公表した調査によると、日本は経済協力開発機構(OECD)諸国の平均値と比べて低所得層の子育て世帯で税や社会保険料の負担率が高く、家族手当の支給も薄い傾向がある。翁氏は、公正性に欠ける日本の社会保障制度が「若い世代の生活不安をもたらしている可能性は高い」と指摘した。
この調査結果は過去30年間にわたる少子化対策の効果に疑問を投げ掛けた。厳しい現実を突き付けられた首相周辺(当時)は「子育て世帯の負担の重さこそが結婚を遠ざけたのかもしれない」と振り返る。岸田政権は保育所の新設などインフラ整備を優先する前例主義を見直すとともに、少子化対策予算の倍増を宣言した。
16年に「保育園落ちた、日本死ね」と題した匿名ブログで注目を集めた待機児童問題。政府が保育所新設などに計1兆円超の国費を集中的に投じた結果、全国の待機児童数はピークだった17年の2・6万人から10分の1に減少した。しかし、少子化や未婚化は止まらず、今では逆に「保育所が余る」時代に突入した。
三重県伊勢市で年頭記者会見に臨む石破茂首相=2025年1月6日
「少子化の本質は、母が少ない『少母化』」。石破茂首相は昨年秋の自民党総裁選の討論会で「子育て支援ではない少子化対策」を問われ、独特の表現で語った。「あまりはやらない言葉だと思うけど」と前置きしつつ、「婚姻率が下がり、母が減れば子も少なくなる。どうやって結婚を増やしていくかが本質」だと強調した。
未婚率は年々上昇を続けている。50歳時点まで一度も結婚したことがない生涯未婚率は、1980年代は男女ともに5%未満だったが、2020年には男が28・3%、女が17・8%にまで増えた。その内訳を見ると「不本意未婚」が若年層(20~34歳)で約40%を占める。つまり結婚したくてもできない人が多く存在しているわけだ。
日本は婚外子が少なく、専門家も少子化の要因の一つを「未婚化」と指摘する。ニッセイ基礎研究所の天野馨南子・人口動態シニアリサーチャーによると、過去半世紀は初婚同士の婚姻数と出生数の相関関係が極めて高く、日本は「カップルの成立なくして出生なし」というのが実態だと分析している。
石破首相は今年の年頭記者会見で「楽しい日本」を実現すると表明した。作家で経済評論家の故堺屋太一・元経済企画庁長官が提唱したフレーズを引用したもので、明治政府が目指した「強い日本」、戦後の「豊かな日本」に代わる価値観として、自身の看板政策である「地方創生2・0」の目標に据える予定だ。基本理念の一つに「若者・女性にも選ばれる楽しい地方」を掲げ、結婚や出産をしやすい環境づくりを進める青写真を描く。
地方の人口減少は悲惨な状況だ。民間有識者らでつくる「人口戦略会議」が昨年春に公表した全国自治体の人口推移分析報告書によると、20年から50年にかけて20~30代の女性の人口が半数以下になる「消滅可能性自治体」は全国の4割にあたる744市町村に上るという。
少子化に歯止めをかけるには、1990年代に生まれた男女が結婚や出産の適齢期を迎える今後10年が正念場とされている。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「子育て世帯にお金を配っても、結婚する若者が減っていては、十分とは言えない」と語り、既存の発想から脱却した新たな少子化対策を促している。
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