( 256084 )  2025/01/27 16:22:27  
00

40歳パーカーおじさん論争が起き、パーカーが話題になった理由を、マーケティングの視点から分析した記事。

クールビズが始まり、オフィスでの服装がカジュアル化し、パーカーが普及したことが要因の一つとされている。

2011年の東日本大震災後にさらにカジュアルビズが進み、パーカー着用の増加につながった。

パーカーは便利で着やすいアイテムであるため、オフィスでの着用が増えたと推察されている。

周囲の理解や相手の不快感を考慮しつつ、自分らしく表現する現代では、カジュアル化が進んでおり、ビジネスシーンでも新しいアイテムが登場し変化している。

パーカーおじさん現象は、新しいマーケットの発展を意味するものかもしれない。

(要約)

( 256086 )  2025/01/27 16:22:27  
00

なぜ「パーカー」がここまで大事になったのか 

 

 2024年末に「40歳パーカーおじさん論争」が起きました。「40歳にもなってパーカーを着ているおじさんはどうなのか」というYouTube動画を発端に、さまざまな反響があり、「おじさん」たちからの“反論”も目立ちました。 

 

 なぜ、ここまでパーカーが話題になったのでしょうか。流通小売り・サービス業のコンサルティング約30年続けてきているムガマエ代表の岩崎剛幸がマーケティングの視点から分析していきます。 

 

 40歳パーカー論争は、作家の妹尾ユウカ氏がYouTubeの「新R25チャンネル」にて、「40歳近くになって職場でパーカーを着ているおじさんはおかしい」と発言したのが発端です。動画は「イケてないおじさんにならないためにどうするべきか」といった趣旨でした。 

 

 これを受けて、何人かの経営者の方々に「私自身、50代でパーカーを着ていますが、みなさんはどうですか」と聞くと、「俺も着ている」「毎日着ている」といった反応が相次ぎました。妹尾氏は別のインタビューで「TPOの話で言っただけ」と弁明していますが、最近は仕事場での服装もかなりカジュアル化しています。パーカーを仕事場で着るのがNGだとすれば、Tシャツは良いのでしょうか。また、ジャージやスウェットはどうなのでしょう。これは職業や会社の服装規定などによっても異なります。 

 

 もちろん30年ほど前までは、日本のビジネスシーンではパーカーはおろか、ネクタイを外して仕事することすら考えられませんでした。筆者も新入社員時代にはスーツとネクタイで仕事をしていましたし、経営コンサルタントの世界でも「きちんとした服装をする」ことが社内規定となっていました。 

 

 こうした状況が大きく変わったのは「クールビズ」です。2005年に地球温暖化対策の一環として始まったのをきっかけに、仕事場での服装がカジュアル化。ビジネスファッションシーンが一変しました。仕事場でパーカーおじさんが増えたきっかけの一つは、このクールビズだったと考えています。 

 

 

 2005年より前は、マスコミやIT、ファッション業界など一部企業でしかカジュアルなファッションを目にすることがありませんでした。基本的にビジネスパーソンは、暑い日も寒い日もスーツにネクタイ。それが日本のおじさんだけでなく、若者も含めた定番ファッションでした。 

 

 それが2005年からは、ノーネクタイ、ジャケットなしの軽装で過ごすクールビズが始まり、政府も積極的に推進しました。2005年は温暖化ガス排出量の削減目標などを定めた「京都議定書」の発効もあり、日本で環境問題の関心が一気に高まった年です。当初、クールビズ期間は9月末までとしていましたが、10月以降も暑い日は推奨するなど、一気にカジュアル化が進みました。 

 

 当時の写真を見ると、ジャケットを脱いだだけ、ネクタイを外しただけのようなスーツファッションが目立ちます。軽装にするとはいえ、当初はおっかなびっくり許されるラインを探りながらの取り組みだったことが分かります。 

 

 もともとクールビズは、温室効果ガス削減のために始まった取り組みでしたから、無理もありません。その後、徐々に「自分たちが快適に過ごせて、しかもスタイリッシュな夏のオフィスカジュアルとは」という問いを世に投げかけるようになっていきます。夏だけでなく、冬も暖房に頼り過ぎず、働きやすく暖かいビジネススタイルが「ウォームビズ」として推進され、年間を通してビジネスのカジュアル化が進んでいきました。 

 

 電力危機が発生した、2011年の東日本大震災後にこの流れはさらに強まり、カジュアルビズという流れも生まれました。カジュアルビズとは、既存のオフィスでの「スーツにネクタイ」というドレスコードを、よりカジュアルでラフなものにしようというトレンドです。環境省が当時定義していたクールビズファッションの「可否表」では、オフィスでカジュアルな服装をしたことのなかった人にも分かりやすく、基準がまとまっています。 

 

 ノーネクタイ、ノージャケットを推奨しており、半袖シャツもOK、沖縄のかりゆしシャツも可となっています。暑さが本格化する6月1日以降は「スーパークールビズ」として、ポロシャツやアロハシャツ、チノパンも可。中でもチノパンは、後のパーカー着用増加につながっていると感じています。 

 

 筆者も当時は「暑さが厳しくなってきた日本で、ネクタイは夏にも必要なのか」と疑問を抱いており、クールビズのような流れは今後強まるだろうなあと考えていました。 

 

 

 クールビズが始まった当時、日本のファッション誌で注目を集めていた雑誌が『LEON』で、“ちょい不良(ワル)おやじ”が流行語になりました。 

 

 LEONには、ありがちなカジュアルビズではない、おじさんがカッコ良く着こなす写真が山のように載っていました。筆者はLEONが、日本のオフィスシーンにおけるカジュアルビズの在り方を柔らかく提案していたように感じます。 

 

 スーツを着てもシャツの第2ボタンを外したり、時計や靴にこだわったり。中にはヴィンテージデニムにパーカーを合わせるコーディネートもありました。40歳パーカーおじさんは、この頃に登場していたのです。時を経て、50~60代にもパーカーおじさんが多いのは、こうしたバックグラウンドがあったのです。 

 

 近年、パーカーはどのアパレルブランドも扱っている人気アイテムで「フーディー」とも呼ばれています。  

 

 各ブランドでパーカー・フーディーの売上構成比は大きく、年間を通じて主力となっているケースも散見されます。次の表は、モノトーンのカラーが特徴である某ブランドの、1店舗における単月のアイテム別売り上げデータの一部です。フーデッドデニムパーカが「14.7%」の構成比となっていることからも人気なことが分かります。 

 

 このように人気なパーカー・フーディーですが、どんな歴史があるのでしょうか。デサントの公式Webサイトでは「パーカーとは、もともとアラスカの先住民であるイヌイットが着用していたフード付きの防寒着のことで、アザラシやトナカイの毛皮が使用されるなど、防寒性を重視したものでした」と解説しています。 

 

 その後、フード付きの上着や防寒着をまとめてパーカーと呼ぶようになり、現在はフード付きの衣類全般を指しています。一方、フーディーはフード付きのスウェットシャツやジャケットが該当し、英語では「hooded sweatshirt」と表記します。 

 

 パーカーを商用として本格的に生産し始めたのは米国のスポーツ衣料メーカー「チャンピオン」で、1930年代にニューヨークで販売したのが始まりとされています。倉庫労働者の作業服として利用されることが多かったのですが、1970年代にヒップホップ系アーティストのリーダー的存在・Run-D.M.C.が着用したのをきっかけに、ストリートファッションとして人気に火がつきました。 

 

 ジーンズがゴールドラッシュ時の採掘者の作業着からスタートし、ストリートで人気が出たように、パーカーも作業着から音楽、ストリートアイテムとして広がっていった歴史があるのです。 

 

 パーカーは、種類が多岐にわたる点が特徴です。次の図表にあるように、シャツの上からジャケットの代わりに羽織れば、寒さも防げて着脱もしやすく、仕事場で重宝します。トレーナーではだらしなく見えてしまいますし、Tシャツ1枚を着こなすほど鍛えていない――そうした人からすれば、パーカーを羽織るだけで何となくまとまって見えるため、オフィスでパーカーを着る人が増えていったのでしょう。 

 

 まとめると、クールビズでオフィスカジュアルが進んだこと、LEONをきっかけにちょいワルおやじがもてはやされたこと。さらに、バリエーションがあって着用しやすいアイテムなこと。この3点が、パーカーおじさんが日本のオフィスに登場した背景だと推察しています。 

 

 

 会社というタテ社会では、自由でラフなファッションを楽しむのは難しいと、日本では思われていました。各企業の社風や伝統もありますし、頭の堅い、年配の方もいたことでしょう。客商売ともなれば、なおさらです。 

 

 この点、服装を整えることが「相手に敬意を払うこと」であるのと同様に「自分らしく表現すること」となった現代は、「周囲の理解」と「相手を不愉快にさせないこと」という条件下でそれが許される時代になったともいえます。 

 

 周囲の理解では「その人らしい、その人のキャラクターに合ったファッションかどうか」が重要です。いつも真面目で、他と違ったことはしない人なのに、無理やり仕事をする際にパーカーを着て仕事を始めたら、周囲の理解を得られないどころか「何かあったのでは」と心配になるでしょう。また、歴史のある非常に堅い企業に対するプレゼンに、Tシャツと短パンで行ったら、取引先は「軽く見られている」と不愉快に感じるかもしれません。 

 

 以前、筆者は『店の風紀は乱れない? 相次ぐ身だしなみルール緩和の背景 きっかけとなった大手の施策とは』と題した記事で、さまざまな企業で髪型や髪色、ネイルや服装にいたるまで、身だしなみルールを一気に緩和していることに触れました。オフィスだけでなく、客商売の場でも、服装に対する価値観が変化しているのが実態です。カジュアル化は必ずしも風紀を乱すものではなく、個性を生かし、自由に気持ち良く働いてもらうために必要な変化ともいえます。 

 

 カジュアルビズの取り組みから新しいアイテムがビジネスシーンに登場し、新たな着こなしによって売れるものが増える一方で、ネクタイやスーツのように売れなくなっていくアイテムも出ることでしょう。これからはパーカーだけでなく、メンズ・ジュエリーや、グルーミング(髪・ヒゲ・身体などを清潔に手入れすること)用のグッズ、メンズ脱毛、靴やカバン、靴下など、ビジネスシーンのあらゆるアイテムが、ライフスタイルに合わせて変化していくはずです。ある意味では可能性は無限といえます。 

 

 40歳パーカーおじさんも、新しいマーケットの登場を意味する現象かもしれません。このような変化に今後も注目する必要があるのです。 

 

(岩崎 剛幸) 

 

ITmedia ビジネスオンライン 

 

 

 
 

IMAGE