( 256644 )  2025/01/28 17:03:30  
00

2025年4月から、育児休業延長制度の認定手続きが厳格化されることが国から発表されました。

これにより、自治体に提出された入園申請が再審査され、育休延長の可否が判断されるようになります。

厳格化により、保護者側の手続きが増える一方で、自治体負担の軽減や公平な利用調整の実現を目指しています。

しかし、保護者からは手続きが煩雑であり、自治体の負担軽減には疑問が持たれています。

育児休業延長制度のあり方や保留通知の必要性について、今後も社会全体で検討が必要とされています。

(要約)

( 256646 )  2025/01/28 17:03:30  
00

育児休業延長制度について、2025年4月から認定手続きを厳格化することが国から発表されています(写真:metamorworks/PIXTA) 

 

 保育園の入園選考の結果が、保護者のもとに届き始めています。 

 

 保育園に「落ちた」場合に、子が2歳になるまで認められる育児休業延長制度*。待機児童が急増した時代の対策として2005年に始まり(当初は1歳半まで)、これまで多くの「保育難民」がこの制度によって救済されてきました。 

 

 ところが、この育児休業延長制度について、2025年4月から認定手続きを厳格化することが国から発表されています。「厳格化」によって手続きはどう変わるのか、そもそもなぜ変更されるのかを解説します。 

 

 *規定には「2歳になる(誕生日の)前日まで」と記されていますが、ここでは略記する。 

 

■「厳格化」の具体的な内容 

 

 4月からの厳格化よる変更点は、ざっくり言うと、自治体に提出された入園申請の内容をハローワークが改めて審査して、育休延長認定の可否を判断する点です。 

 

 つまり、申請者(保護者)側としては「提出書類が増える」ことになります。 

 

 厚生労働省雇用保険課からは次のような手続きが示されています。 

 

 まず、保護者が勤務先を通して、自治体が発行する「①保留通知(不承諾通知、待機通知など呼称は自治体による)」をハローワークに提出しなければならないことはこれまでと変わりません。 

 

 加えて、「②育児休業給付金支給対象期間延長事由認定申告書」、「③市区町村に入園申し込みを行ったときの申込書の写し」の提出が求められています。 

 

 ②では、 

 

 入園申し込みの時期等の情報や辞退の有無 

 申し込みにあたり入園保留を積極的に希望する旨の意思表示をしなかったか 

 希望した施設のうち最も近い施設の名称や通園時間、通園時間が30分以上の場合には希望した理由 

 を書くように求めています。 

 

 ハローワークは、これらの情報をチェックし、入園申し込みの内容や経緯が「速やかな職場復帰」を目指すものとなっているかどうかを確認します。ざっくりまとめると、認定不可のケースとして、次のような場合が挙げられています。 

 

 

・入園申し込みがあらかじめ適切な時期に行われ、1歳(1歳半)になる翌日の時点で保育が利用できないことが明確でなければ認めない(入園申し込みの時期、保留通知の発行日) 

・入園申し込み時に保留通知を希望するような意思表示を行っていた場合は認めない 

・入園の内定を辞退したことがある場合は認めない 

・理由なく遠くの施設のみを希望している場合は認めない 

 ただし、パンフレットや②の裏面には、これらのことがあっても、やむをえない事情があった場合には、認定する場合もあることが説明されています。 

 

■「自治体の負担」は本当に減るのか 

 

 保護者からは、「申込書の写しが必要なんて聞いてない。最初に言ってほしい」、「申し込んだ内容が必要なら自治体からデータで取り寄せたらいいのに」などの反応がSNS上で聞かれました。 

 

 筆者の最大の疑念は、これは自治体の負担軽減になるのだろうかということです。 

 

 というのも、この厳格化は「保留通知を求めての入園を望まない入園申請」が増加し、自治体の負担が増えていることが問題になり、検討されたものだからです。 

 

 保留通知が必要とされる以上、保留通知を求めての入園申請はなくならないのではないか。また、延長不可に当たるような場合でも、やむをえない事情がある場合には救済されるように、個別の事情を聞き取り配慮することは非常に重要で、必ずやってほしいことですが、これを公正に行うことはなかなか大変なことです。結局、自治体に問い合わせないと判断できないことも多いのではないでしょうか。 

 

 そもそも自治体は利用調整にあたって、細かい基準を設け必要な証明などを提出させて、入園希望者の優先順位を決めているわけですが、ハローワークでもそういった個別の細かい審査を行うとすれば、それはそれでたいへんな事務負担になるおそれがあります。 

 

 ハローワークには、もっと本来の目的のために求められる業務に労力を割いてほしいと、納税者の観点からは考えてしまうのです。 

 

■混乱の背景 

 

 そもそも育児休業は、法律では原則1歳までとされていますが、勤務先が認めれば1歳を超えても取得できます。 

 

 これに対して、育児休業中に支給される育児休業給付金(1人の親について180日間以内は賃金の67%、それを超えると50%)は雇用保険等を財源に給付されるもので、受給するためには勤務先を経由してハローワークに申請することが必要になります。 

 

 

 これを1歳以降も継続するためには、待機児童になっていることを証明する書類を提出することが、制度開始当初からお約束になっていました。 

 

 待機児童になっていることを証明する書類とは、保留通知のことで、実際に認可保育園等の入園を申請して落選しなければ発行されないものです。 

 

 昨今、育児休業の延長を希望する家庭が増え、保留通知を入手するために、入園を望まない入園申請をするケースが増加してきました。このことが、自治体事務を混乱させ、負担を大きくしているという訴えが、内閣府の「地方分権改革に関する提案」に提出され、今回の「厳格化」の流れになったのです。 

 

■「より切実に必要とする家庭を入園させる」原則 

 

 認可保育園、認定こども園、小規模保育等の認可の保育は、自治体が利用調整(入園選考)を行いますが、国の法令にそって、家庭や子どもの「保育の必要性」を客観的に点数化して判定し、必要性の点数が高い子どもから優先して入園させるしくみになっています。 

 

 しかし、フルタイム・育休明けなど点数が高い家庭が保留通知を求めて入園申請をした場合、本人たちの意に反して入園が決まり、そのために今すぐ入りたい人が落ちてしまう。しかも、自治体職員が公平を期して煩雑な調整作業をした結果であるにもかかわらず、決定者からは「入りたくなかった」「保留通知がほしい」という泣きが入るという、「誰も得しない」状態が生まれてしまうのです。 

 

 これを回避するため、多くの自治体が、 

 

 入園申請書に「希望する保育所等に入所できない場合は、育児休業の延長が許容できる」などの趣旨のチェック欄を設けて、「育休延長許容(可能)者」については、保育の必要性が低いことを理由に点数を下げる、という対策を講じてきました。 

 

 この対策は、当時の厚生労働省保育課(現在のこども家庭庁保育政策課)も、公平な利用調整の範囲として2019年に認めています。2024年には、この通知は改正され、「入園保留を希望する」ような文言の選択肢にならないよう、自治体に注意喚起がされました。 

 

 

保育園を考える親の会の調査「100都市保育力充実度チェック 2024年度版」では、この件に関する2025年度からの自治体の対応を聞いていますが、「育休延長が可能である」ことを利用調整において参照すると回答した自治体が調査対象100市区中71市区に上りました。 

 

 反対に、一切配慮しない回答とした自治体は11市区、未定と回答した自治体は18市区(調査当時)でした。 

 

 入園申し込み時に、自治体が保護者に「育休延長を希望するかどうか」を聞くのは「厳格化」によって認められなくなりましたが、「希望」ではなく「許容」するか否かを聞くというのであれば、自治体の利用調整事務に必要な情報収集の範囲内、という解釈がされているのです。 

 

■「保留通知」を求めないという解決策 

 

 「厳格化」のきっかけとなった内閣府の「地方分権改革に関する提案」では、より具体的な解決策として、自治体から次のようなことも提案されていました。 

 

・育休延長制度を撤廃し子が2歳になるまで育児休業給付金を支給可能とする。 

・「保留通知」ではなく「保育所等を利用していない旨の証明」をもって、支給期間を延長する。 

 などです。 

 

私が顧問を務める「保育園を考える親の会」では、「はじめての保育園」という入園オリエンテーションを開いていますが(次回は3月1日、新宿にて)、そこで相談される保護者の悩みはさまざまです。 

 

 「0歳の4月入園では月齢が低いので不安」「もっと子どもと一緒にいたい」「自分や子どもの体調が整わない」「忙しい仕事なので両立に自信がもてない」「少し待って信頼できる保育施設に入園させたい」など、親たちはさまざまな不安や悩みをかかえています。 

 

 そんな保護者や子どもの状況を見てきた私は、育児休業の期間は待機児童対策とは切り離して、保留通知がなくても保護者が望む期間を選べるようにしたほうが子育て支援になると考えています。 

 

■コスト面でも育休延長に分がある 

 

 育児休業給付金が長期間給付されることについて、自営業者などとの公平の観点から議論する必要があるかもしれません。一方で、国や自治体の負担という観点からは、育児休業給付金のコストは0歳児保育のコストよりも安いというデータもあります。 

 

 0歳児保育を縮小してよいということではありません。いろいろな働き方、子育てへの向き合い方があるのであり、0歳児保育を必要とする家庭のニーズはしっかり満たす必要があります。その一方で、育児休業を長く取る家庭が増えるのであれば、在宅子育て家庭への支援の充足も必要になります。 

 

 この制度のあり方については、社会全体の子育て環境のあり方を模索する中で、もう少していねいに検討する必要があるのではないかと思います。 

 

普光院 亜紀 :「保育園を考える親の会」アドバイザー 

 

 

 
 

IMAGE