( 256674 ) 2025/01/28 17:41:51 1 00 国民民主党の玉木雄一郎代表は、基礎控除の引き上げによる課税最低限の引き上げを提唱し、課税最低限を増やして手取りを増やすことを訴えて大幅に議席を伸ばした。 |
( 256676 ) 2025/01/28 17:41:51 0 00 「手取りを増やす」と課税最低限の引き上げを訴え、大幅に議席を伸ばした国民民主党の玉木雄一郎代表だが
国民民主党は基礎控除の引き上げによって、課税最低限を103万円から178万円まで引き上げる減税を提唱している。
課税最低限の引き上げは、納税者の手取り額を増やすが、よく知られているように上げ幅は高所得者ほど大きい(同党案では、手取り額の上昇は限界税率が15%の人の場合は、11.25万円であるが、限界税率が43%の場合は、約3倍の32.25万円である)。課税最低限をこのように引き上げると、7兆円台の税収が失われるといわれるが、その税収損失の大きな部分は、高所得者の課税額損失によるものである。しかも国民民主党案による減税は、低所得者の手取りを上げる効果が小さい。まず、課税最低限未満の所得の人には何の恩恵ももたらさない。
さらに所得税を払う低所得者に対する恩恵も少ない。例えば、年収200万円(限界税率が15%)の人の税負担の年収に対する減少幅は、5.6%にすぎない。
しかし、同じ額の減税をするのならば、低所得者の減税割合が大きいほど経済をより活性化させる。低所得者は減税額の大部分を消費するが、高所得者はその多くを貯蓄してしまうからだ。すなわち、低所得者の手取り額の増大は、経済の活性化を通じて、減税の恩恵を直接受けなかった中高所得者の手取り額まで上昇させるから、同時に中高所得者に多少の増税をしてもそれを相殺して引き上げる力がある。
◇より大きい社会保険料負担
国民民主党案より少ない税収損失の下で、より強力に低所得者の手取りを押し上げる方法を二つ挙げよう。
第一は、基礎年金や医療保険の社会保険を(少なくとも低所得者を対象としては)一般財源で賄う税方式化である。単身の年収200万円のギグワーカー(プラットフォームサービスを介して単発の仕事を請け負う労働者)の税と社会保険料負担を合計した総負担額は72.1万円である(図)。ギグワーカーの年収の実に36%を占める。この図から明らかなように、所得税や住民税の負担よりも社会保険料負担の占める割合のほうが大きい。
例えば、基礎年金全額を一般財源で賄う「税方式」にすれば、このギグワーカーの総負担の20.4万円(すなわち年収の10%)分をゼロにできる。これは、現在半額が補助されている基礎年金の一般財源負担を倍にすればよいのだから、国民民主党案より少ない5.6兆円の財源で可能である。
第二は、「給付付き税額控除」と呼ばれる低所得者に限定した所得補給制度の導入である。これも課税最低限未満の所得の人にも恩恵をもたらす。例えば、年収200万の人に30万円程度の所得補給がなされると、国民民主党案による11.25万円の減税に比べて2.7倍の手取り額引き上げ効果がある。その際の財政負担は、国民民主党案の3分の1以下の1.9兆円である(「規制・制度学会有志意見書」2024年11月13日)。
国民民主党案の財政規模で低所得者の手取りを大きく引き上げるのならば、このような改革の方がより低費用でより効果的に手取り額を向上させてくれる。
◇低所得者限定の減税
もし国民民主党が課税最低限の引き上げにこだわるのならば、格差拡大を伴わずに引き上げることも可能である。同党案は、所得税の「課税所得(=所得額−課税最低限−その他控除)に対する税額表」を全く変更しないことを前提として、課税最低限だけを引き上げる案である。その場合には、上で指摘したように中高所得者の税額が下がる(なお、ここで「所得額」とは賃金収入あるいは費用を差し引いた後の事業収入とする)。
しかし、課税最低限を引き上げると同時に、「課税所得に対する税額表」自体を変えれば、低所得者だけに、的を絞った減税ができる。
例えば、同党案のように課税最低限を103万円から178万円まで引き上げるが、現行限界税率が20%以上の人には現行通りの限界税率と控除額とを適用する。その一方で、現行限界税率が15%で178万円以上の所得額に対しては、その間が連続的となるよう税率などを設定することにしよう。そうすると、従来限界税率が15%だった人の納税額は、課税所得が減少するために下がるが、それ以上の所得の人の納税額は変わらない。この改革を行うと、税収損失を7兆円台よりははるかに少ない4000億円程度に抑えることができる。
ただし、これらの課税最低限引き上げ策も、低所得者の手取り引き上げ効果は小さい。
◇中高所得者の所得減税を
本命は、給付付き税額控除と、基礎年金の税方式化である。
所得税は、そのための財源の有力な候補になる。実際、1人当たりGDP(国内総生産)が日本以上のすべてのOECD(経済協力開発機構)先進国が、基礎年金に所得税を投入している(保険料と付加価値税だけで賄っている国はない)。さらに、日本の個人所得税収のGDPに占める割合は、22のOECD先進国の中で21位である。
国民民主党が目指す経済活性化の呼び水としての手取り額の引き上げは、多くの人が望む政策目標である。そのためには、低所得者の手取り額の大幅引き上げと、それを賄うための中高所得者の所得税の増税が不可欠である。しかし国民民主党案は、低所得者の手取りを上げないか、上げてもわずかでしかない一方、中高所得者の所得税を大きく減税してしまう。これは、将来の経済活性化策への道を閉ざす案だ。
(八田達夫〈はった・たつお〉アジア成長研究所理事長)
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