( 257639 )  2025/01/30 17:17:17  
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日本経済の転落の一因として、財務省の保守的な考え方が指摘され、ネットではそれを風刺する形で「ザイム真理教」と表現されている。

経済評論家の森永卓郎氏による解説本『ザイム真理教』が話題を呼び、財務省の考え方に疑問が投げかけられている。

これに対し、国民民主党が経済政策で躍進し、減税政策を打ち出している。

財務省の保守的な発想に疑問を投げかける声もあり、政治家や経済評論家だけでなく、一般の人々にも広まりつつある。

また、『ザイム真理教』に関連する話題の中で、安倍元首相を取り上げた『安倍晋三回顧録』なども財務省の影響力に疑問を投げかけている。

(要約)

( 257641 )  2025/01/30 17:17:17  
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(写真はイメージです/Getty Images) 

 

日本経済転落の一因は財務省の偏った考え方にあるのではないか……これをネットではカルト教団をモジる形で「ザイム真理教」と表現され、2023年には経済評論家の森永卓郎氏による解説本がヒットした。果たして「ザイム真理教」は日本経済に負の影響を与えているのか? 小説家・榎本憲男さんによるコラム。 

 

* * * 

 

 2024年11月の衆院総選挙の後、議席を4倍に伸ばした国民民主党が予算案のキャスチングボートを握る立場に躍進した。国民民主党が票を伸ばしたのは明確な経済政策を打ち出したからと思われる。基本路線は減税だ。また、この政策はアベノミクスのバージョンアップ版だとも言える。アベノミクスで放たれることがなかった2本目の矢を、財政政策ではなく減税政策によって放ち、市中に回るマネーを増やそうというもくろみである。 

 

 これに対して、マスコミが「財源はどうするんですか」と玉木雄一郎党代表や榛葉賀津也幹事長に詰め寄った(いまも財源はどうするんだというツッコミは入り続けている)。そして、この事態は、慌てた財務省が各マスコミに講義(入れ知恵)し、それをマスコミがうのみにしてそのまま質問しているのだ、とネットでは盛んに語られている。実際、玉木雄一郎氏も2024年10月末のぶらさがり会見で、「林官房長官が7.6兆円の減税が見込まれ、特に高所得者ほど減税の適用度が大きくなると言っていたが」(大意)と質問された折り、「まあ、従来の財務省的な発想ですよね」と苦笑していた。つまり、財務省に入れ知恵されて話しているという含みを持たせた発言をしていたのである。 

 

■森永卓郎氏の著書『ザイム真理教』が大ヒット 

 

 こんな具合に「さては財務省が……」と疑う声が大きくなりはじめたのは、経済評論家・森永卓郎氏の『ザイム真理教』がヒットしたことが大きい。「ザイム真理教」は造語である。「ザイム」はもちろん財務省。これに、カルト宗教団体の名をかけたものだ。財務省がカルト集団化し、日本政府の経済政策をゆがめていると告発した本書は大きな話題を呼んだ。 

 

 

 さて、このザイム真理教の教理の中でもっとも重要な教義は、財政赤字の解消(財政の健全化)、プライマリーバランスの黒字化である。なぜ、赤字のままではいけないのか、なぜ赤字だと不健全なのか。そこに合理的な理由はない。借金はないに越したことはない、赤字よりも黒字がいいに決まっているという先入観を利用し、まったく合理性のない教義を説いて普及し、自分たちの権力(省益)を確保しようとしている。――このような理解がじわじわと世間に広まりつつある。 

 

■安倍元首相も財務省には手を焼いていた?! 

 

 しかし、本当に財政赤字は解消しなくていいのか、プライマリーバランスは黒字化しなくてもいいのか? という疑問はとうぜん起きる。だいたい、ニュース番組のキャスターは「解消するべきだ」「黒字化するべきだ」という前提で話している。「増え続ける国の借金についても私たちは考えないわけにはいきません」とか「では、財源はどうするのか。課題は山積みです」などというコメントは、政府支出の削減や増税といった緊縮財政政策を優先すべき考え方を支持していると見ることができる。 

 

 まず、「国の借金」という言い方が詐欺に等しい。正確には「政府の借金」と言うべきで、では政府は誰に借金しているのか? つまり、国債を買っているのは誰か? 日本の国債の購入者はほぼすべて日本人と日本企業である。そして、日本人や日本企業にとって購入した国債は資産である。 

 

 際限なく国債を発行して、債務不履行になったらどうするんだという意見もある。しかし、財務省みずからがそんなことはありえないと声明を出している。2002年、日本国債の格付けが外国格付け会社によって引き下げられたことを受けて、財務省はこれに対して反論する公開質問状を発した。そこには「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」とはっきり書いてある。このことを大手メディアは報じない。 

 

 さて、経済学者や評論家でなく、政治家から「ザイム真理教はある」説を裏付ける書物がある。それが『安倍晋三回顧録』だ。いかに、安倍元首相が財務省に手を焼いたのかが語られている。「(財務省は)国が滅びても、財政規律が保たれてさえいれば、満足なんです」とか、「彼らは省益のためなら政権を倒すことも辞さない」などとある。まるで財務省が敵であるかのような筆致だ。 

 

 

 ここまで言われては黙っているわけにいかなかったのだろう、齋藤次郎元大蔵事務次官が「『安倍晋三 回顧録』に反論する」(文藝春秋 2023年五月号)という記事で逆ねじを食らわせようとした。財務省の先輩としては古巣がここまで言われることが忍びないのか、「ほとんど陰謀論」だと反論している。しかし、この反論は、筆者の意図を離れて、「ザイム真理教はある」説を意外な形で裏付けることになったと僕は読んだ。齋藤次郎氏は次のように書く。 

 

■赤字国債は絶対に出すな、と言われ続けた 

 

「入省して、徹底的に教え込まれたのは、財政規律の重要性でした。財政の黒字化は当たり前のことでなければならない、赤字国債は絶対に出すな……毎日のように先輩から言い聞かされました」 

 

 はて、「財政の黒字化は当たり前のことでなければならない」? どのマクロ経済学の教科書にそんなことが書いているのだろう。齋藤次郎氏が入省したときは固定相場制だっただろうが、いまはちがう。なおかつコストプッシュ・インフレというやっかいなものに見舞われ、需要が喚起されていな状況なのである。実際、ボール・クルーグマン(2008年にノーベル経済学賞受賞)は2016年に来日した折り、安倍晋三首相らに対して、消費税増税は見送るべきで、むしろ景気回復(デフレからの脱却のために)のために財政刺激策が必要だと述べている。 

 

「財政黒字が善」を疑うことなく信じ込んでいるのだとしたら、それは教理だ。従って、ザイム真理教はある、ということになる。ただ、洗脳はまず、政府首脳部やマスコミではなく、まずは財務官僚に対して行われているようだ。 

 

 また、アベノミクスの2本目の矢を放とうとするのが、自民党でなく国民民主党という野党だというのも皮肉な展開である。果たして国民民主党は2本目の矢を放つことができるだろうか? 

 

榎本憲男 

 

 

 
 

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