( 257686 ) 2025/01/30 18:04:57 0 00 会見で厳しい表情を見せるフジテレビの港浩一社長=1月27日午後5時22分、東京都港区(安元雄太撮影) Photo:SANKEI
“やり直し会見”でもメディアの怒りは収まらなかった――。出席メディアを限定し映像撮影も許さなかった“自滅会見”から10日後。トップ2人の引責辞任という切り札を切って臨んだ27日の会見だった。23日には独立性の高い第三者委員会による調査も立ち上げ済み。フジテレビ側は今度こそ、事態は鎮静化に向かうものと期待していたはずだ。しかし、思惑は外れた。会見は、経営陣を糾弾する怒号が飛び交う、混沌とした“吊し上げ”の場となった。さらに、経営に強い影響力を持つとされる日枝久取締役相談役の不在もやり玉に。“無条件降伏” ともいえる低姿勢で臨んだ会見が、メディアから手痛い拒絶を受けたのはなぜか? “不祥事企業No.1”三菱自動車の広報部で危機管理を担当した広報コンサルタントが、フジテレビの信頼回復への道を改めて探る。(広報コンサルタント 風間 武)
● SNSで「放送事故?」と 揶揄された“やり直し会見”
191メディア、473人が参加。質問回数116回。所要時間は午後4時から日付をまたいで午前2時23分まで計10時間23分――。前代未聞のこの数字を見るだけで、今回の会見も失敗であったことが明白だろう。
会見が長時間化するということは、一般的に、企業側の説明にメディアが納得していないということを意味する。何とか期待する答えを引き出そうと、言い方を変えただけの質問が記者を変えて繰り返されるため、時間がどんどん膨らむ訳だ。
さらに、企業側の守りが堅いと見ると、恫喝的な口調で脅しつつ、役員の失言、いわゆる“ポロリ”を誘導質問で引き出そうとするメディアが現れる。企業側の意識の低さを記者の持論で非難する演説型の質問も増え、会見は収拾がつかないカオスな状況に陥る。
フジテレビの二度目の会見は、こうした典型的な失敗例となってしまった。
国内のあらゆるメディアが実況中継する中、SNSのX(旧ツイッター)でも会見絡みのトレンドワードが上位を占めた。混沌とした“吊し上げ”状態となり言葉に詰まる役員らの姿を見て、「まるで放送事故!」「また失敗」「視聴率爆上げ」などと揶揄する投稿が中心だったのは言うまでもない。
一部メディアの乱暴な口調での質問や怒号、野次へ反感の声も多く上がり、「トイレ休憩とらせてあげて!」「体力限界では?」などと役員への同情も寄せられた。しかし、全体として、好意的な評価はほとんど見かけなかった。
● オールドメディアは 揃って“日枝院政”批判
新聞、テレビといったいわゆるオールドメディアでは、メディアの納得が得られず積み残しとなった二つの問題に関心が集まった。
その一つが、長期にわたって経営トップを務め、今も取締役相談役として“院政”をしき強い影響力を持つとされる日枝久氏の責任論だ。
代表的なのがNHKだった。朝のニュースで「フジテレビ会見 異例の10時間超 日枝氏の進退含めた対応焦点」とし、日枝氏が出席していない理由や経営責任について質問が相次いだことを取り上げ、「日枝氏が今後、みずからの責任をどう受け止め進退を含めてどのような対応をとるのかが焦点」と締めくくった。
日経新聞も社説で、「フジ・メディアHDとフジテレビは、取締役会の改革を含む抜本的なガバナンスの見直しを急ぐ必要がある」とし、日枝氏への批判を取り上げ、相談役ポジションについて不透明なガバナンスの象徴と外国人投資家などが批判していることを指摘した。
毎日新聞は社説「フジ社長が辞任表明 人権軽んじた背景説明を」で、元タレントの中居正広さんによる女性トラブルに関連し、日枝氏が長く影響力を持ってきたと前置きした上で、「問題の背景に組織の体質がなかったかも検証し、悪弊を根絶しなければならない」と暗に女性を会食に同席させるような慣行を生んだ責任を示唆した。
メディアが日枝氏を非難する理由は二つある。
一つは、タレントへの過剰な接待が常態化していたとすれば、その背景にある企業文化をつくった歴代経営陣の代表であること。もう一つは、問題を適切に調査対応しメディアを通じて説明責任を果たすという、当たり前のガバナンス能力の欠如を招いた長年の経営責任だ。
お気づきだろうが、フジテレビの対応に不満が高まるほど、“諸悪の根源”として日枝氏排除につながる構造になっている。今後も、引責辞任が報道の焦点となり続けそうだ。
● 危機管理広報の基本が欠落 炎上する社内調査への疑惑
積み残しのもう一つが、中居氏のトラブルへのフジテレビ社員の関与を中心とした内部調査の状況や会社の対応経緯についての説明だった。
今回会見でフジテレビは、緊急会見の“作法”に完璧に則った体制に転じた。
前回と打って変わって完全にオープンとし、終了時間も含め一切の制限を設けなかった。巨大な赤富士の絵画が悪目立ちした手狭な会議室から落ち着いた色調の広い会議室となり、白いテーブルクロス、役員のネクタイは濃紺?に統一と、まるでPR会社が設営を担当したかのような見事さだった。
しかし、失敗を挽回しようという、そんな意気込みが現場では空回りした。メディアが期待したほどには、トラブルの詳細に踏み込まなかったからだ。
週刊文春の報道を裏付けるような説明がなされるはず、あるいはなされるべき、という先入観が裏切られた一部メディアが“暴走”し、会見全体を混乱させた。女性のプライバシー保護を盾にしてフジテレビ側が逃げている、といつまでも引き下がらなかったのだ。
口頭説明は失敗の元、というのは危機管理広報の常識だ。
フジテレビはこれまでの社内調査の経緯や結果を短いペーパーにまとめ、席上配布するべきだった。プライバシー配慮など入念なリーガルチェックは当然だが、公表できる限りの情報を明確にして線引きし、これ以上はNGときっぱりした対応をすべきだった。
結果的にフジテレビは、会見の最大ミッションであった、これまでの社内調査に一定の納得感を獲得し、“本番”である第三者委員会調査へ橋渡しすることに失敗してしまった。
筆者が信じられない思いなのは、かつては“民放の雄”と呼ばれたメディア大手でありながら、危機管理広報の基本的イロハがごっそりと欠落していることだ。これでは、フジテレビの炎上は当面収まるまい。
● 第三者委員会は果たして メディアの期待に応えられるのか?
水を差すようではあるが、第三者委員会調査に過剰な期待は禁物だ。 万能ではない。
「日弁連のガイドラインに準拠した」と主張しても、実態は“お手盛り”というケースも少なくない。原因究明や事実調査が甘く、 親会社や役員に配慮して踏み込みが足りなかったのでは?と、疑われるような調査報告書があるのも事実だ。
参考になるのが、ガイドライン作成に関わった弁護士らでつくる「第三者委員会調査報告書格付委員会」の格付け結果。これまで28回分が公表されているが、委員のうち一人でも5段階でA評価を付けたのはたったの2例のみ。C〜F評価が中心だ。
例えば、日韓を結ぶ高速船「クイーンビートル」の浸水を隠してJR九州の子会社のJR九州高速が3カ月以上航行を続けていた問題。 昨年11月に公表されたばかりのJR九州の調査報告書は、D評価が7人、Fが2人だった。A〜C評価はゼロ。
格付け委員会では、JR九州の完全子会社で一部門に過ぎないJR九州高速に調査が偏りグループガバナンスの問題が未解明で、「JR 九州への配慮や忖度が窺われるとして、第三者委員会の実質的な独立性を問題視する指摘も多かった」とのコメントを公表している。
“無条件降伏”にまで追い込まれたフジテレビが、同じ轍を踏まないことを祈る。“ガイドライン準拠”を隠れ蓑にしたと批判を受ける事態となれば、調査全体の信頼性にキズが付く。第三者委員会の独立性を尊重しつつも、コミュニケーションをしっかりととって頂きたい。
● 過去との決別が 信頼回復のカギ
最後になるが、大きな企業不祥事において、過去との決別を社会に示すことは必要不可欠だ。
三菱自動車の二度目のリコール隠し問題を覚えておられるだろうか。2002年に起きた三菱自動車製トラクターからのタイヤ脱輪による母子3人の死傷事故が発端だった。本件をモデルにした池井戸潤氏の小説『空飛ぶタイヤ』やその映画で知られている。
2005年3月に社内調査の最終報告書を国土交通省に提出し、ようやく幕引きを図ることとなったが、この時合わせて公表したのが、旧経営陣に対し退職金の返還を求める民事訴訟の提起だった。十分なコンプライアンス体制の構築を怠ったというのが理由で、会見場でメディアから驚きと評価の声が上がったのを覚えている。
「経営者として大変つらい決断だが。過去と決別するためにあえて先輩の責任を問うこととした」と会見で語った益子修社長(当時)の主導で、信頼回復がようやくスタートすることになった。「報道で失った信頼は報道で取り返す」とよく話していた。
20年も前の昔話ではあるが、筆者が危機管理広報のアドバイスをする際には必ず紹介するエピソードだ。
フジテレビは現在、メディアや世論、ステークホルダーの疑念を晴らすことができず、企業としての“信用崩壊”が調査公表まで継続しそうな厳しい事態に追い込まれている。スポンサー企業もCM復活の判断がつかない状況に違いない。
一日も早く信頼回復の入り口に立つために、何を守り何を捨てるべきかをフジテレビ経営陣に再考して頂きたい。
風間 武
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