( 258124 )  2025/01/31 17:00:16  
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マツダ・ロードスターは、インダクション・サウンド・エンハンサー(ISE)を使用して、吸気音をキャビン内で心地よく響かせている。

自動車の騒音に関する規制が厳しさを増しており、走行中の音を制御する必要がある。

スポーツカーの排気音は魅力とされる一方で、環境規制に適合するため、音量を抑える必要がある。

そこで、吸気音の調整が提案されており、マツダNDロードスターやトヨタ86などではISEやサウンドクリエイターなどのシステムが採用され、スポーツ志向を強調している。

(要約)

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マツダ・ロードスターは、インダクション・サウンド・エンハンサー(ISE)によって吸気音をキャビン内に心地よく響かせる 

 

 自動車に求められる環境保全性は、地球温暖化につながる二酸化炭素の排出だけではなく、自動車が発する音、すなわち騒音に関しても重く見られている。平たくいえば、自動車の走行騒音規制といってもよいが、国連欧州経済委員会自動車基準調和世界フォーラムNo.51-03Series(略してR51-03)の規制値を導入。2016年10月よりフェーズ1、2020年9月よりフェーズ2の規制値が実施され、さらに規制値を厳しいレベルとしたフェーズ3が2024年より段階的に適用されている。 

 

 要は、走る自動車は大きな音をたててはいけない、という地球規模での取り組みである。走行する自動車は、エンジン音、排気音、機械的な部分が発するメカニカル音、さらにはタイヤと路面の接触によって発生するロードノイズなど、いってみれば複合的な要素による騒音発生源となっている。 

 

 いい替えれば、自動車に求められる性能は、より静かにということになるわけだが、一方で、排気音やエンジンのメカニカルノイズなどは、クルマ好きにとってはクルマがもつ魅力として受け止められていることも事実だ。たしかに、エンジン回転の上下によって変化する澄んだ力強い排気音は、クルマ好きにとっては大きなポイントだ。オリジナルからスポーツマフラーに交換するクルマ好きの気もちは万国共通だ。 

 

 しかし、段階的に厳しくなっていく走行騒音規制が存在する以上、自動車自体が発する音のレベルは確実に引き下げられ、またそうしないと自動車の社会性は保たれない、という認識も広く浸透してきた。 

 

 スポーツ系の車両を生産、販売しながら、こうした車両の商品性を高める排気音の低減、静粛性が求められるジレンマ。なんとか対策はないものか……となって考え出されたのが、吸気音のチューニング(というより演出と表現したほうが適切かも)だ。この考えが盛り込まれた具体的なモデルが、マツダNDロードスターやトヨタ86などだ。ロードスターではインダクション・サウンド・エンハンサー(ISE)、86ではサウンドクリエイターと呼ばれるシステムで、吸気音をキャビン内に心地よく響かせることで、スポーツマインドを刺激しようとしたものだ。 

 

 考え方はシンプルで、吸気系の途中に空気の流れによって音を発生する部品を設定。ある意味、吹奏楽器と同じような考え方と理解してもよく、「少なくとも1カ所の開口部をもつ空洞に向かい、吹き付けられた気体の流れによって生ずる振動を利用して音を出す楽器」という吹奏楽器の定義とよく似ている。 

 

 

 では、吸気音とはそれほどスポーツマインドの味付けになるのか、という話だが、かつてクルマ好きの間でもてはやされた「ソレ・タコ・デュアル」という言葉を覚えている人はいるだろうか。ソレとはソレックス、つまりソレックスやウェーバーといった双胴型キャブレターを指し、エアクリーナーを省略してダイレクトにエアファンネルだけを装着。スロットルを大きく開けたときに「グォ〜」という独特の吸気音を発し、それこそドライバーや周囲の人間を魅了した。 

 

 こうして吸入された混合気がエンジン内で燃焼され、その排気が「タコ」つまりタコ足、排気効率を向上させた排気マニホールドを通り、ふたつに振りわけられたテールパイプ、デュアルエキゾーストによって大気に放出されるとき、腹に響くようななんとも魅力的(個人差がきわめて大きな領域の判定観だが)な音を響かせた。 

 

 マツダのISEは、規制された排気音にISEによる独自の演出吸気音をミックスし、スポーツカーとしてのドライブフィールを高揚させることが狙いのシステムだ。この狙いは成功したと見てよく、ロードスターのアクセル変化(エンジンの運転変化)を走行騒音規制に触れることなく、ドライバーに走りの味としてうまく伝えている。 

 

 考えてもみれば、サイレントパワー、サイレレントスピードによるEVの時代を迎えるにあたり、EVの音のチューニングをどうするか(無音、極低騒音だとクルマの存在が周囲に伝わらず危険だという判断)も大きな課題となっている現代。 

 

 内燃機関を使う現行の自動車で、スポーツ系モデルの魅力をどうするかと考え抜いた末、吸気音の演出に目を向けたのは苦肉の策だったかもしれないが、うまいところに着眼したと、開発陣の発想力は賞賛に値するものだ。新たな燃料の開発により、内燃機関搭載車の将来にも光明が見出せるようになった昨今、こうした工夫は意外と大きな魅力になるのかもしれない、と考えさせられる一例だ。 

 

大内明彦 

 

 

 
 

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