( 258164 )  2025/01/31 17:40:19  
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老後の収入の柱となる年金が夫婦で合算されて考えられていた場合、配偶者の一方が亡くなった際に生活が困難になるリスクがある。

元看護師の洋子さんの夫が急死し、配偶者の年金だけでは生活が厳しくなった事例が挙げられている。

洋子さんの遺族年金額は予想外に低くなり、事前に十分な資産や計画を立てておくことの重要性が強調されている。

ファイナンシャルプランナーの提案により、洋子さんは生活見直しをして第2の人生に前向きに歩み始める。

(要約)

( 258166 )  2025/01/31 17:40:19  
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(※写真はイメージです/PIXTA) 

 

多くの人にとって、老後の収入の柱となるのが年金です。ただ、夫婦での合計受給額をベースに老後のマネープランを立てていると、配偶者の一方が先に亡くなった際、遺された側は危機に陥ることも。FPの辻本剛士氏が、具体的な事例をもとに解説します。 

 

森本淳さん(仮名・83歳)と妻の洋子さん(仮名・75歳)は、家賃9万円の賃貸住宅に暮らしていました。現役時代、淳さんは印刷会社の営業職として働き、定年時には800万円の退職金を受け取りました。定年を迎えてからも70歳まで再雇用を受け、第一線で活躍していたといいます。 

 

一方の洋子さんは、もともと看護師として働いていましたが、結婚を機に専業主婦となり、それからは家庭を支えることに専念していました。 

 

家計管理を担当していた洋子さんは、毎月余った生活費は貯金に回しており、500万円ほど貯蓄があります。そのため、夫婦の資産額は退職金と貯蓄をあわせて約1,300万円です。 

 

また、2人は65歳以降、合計23万円の年金収入がありました。その内訳は、淳さんが月額17万円(老齢厚生年金11万円+老齢基礎年金6万円)洋子さんが6万円(老齢基礎年金のみ)です。 

 

夫婦は近所を散歩したり、半年に1回程度旅行に出かけたりと、穏やかな老後を満喫していました。 

 

支出額は現役時代とあまり変わらず毎月25万円ほどあるため、老後は毎月2〜3万円程度の赤字となっていますが、これまで築き上げた資産が支えとなり、淳さんは楽観的です。 

 

しかし、そんな平穏な日常は、ある日突然終わりを迎えることとなりました。 

 

その日、淳さんはいつものように、夕食後にお風呂に入りました。妻の洋子さんもテレビを観ながらのんびりと過ごしていましたが、1時間経っても淳さんがお風呂から出てこないことに気づきました。 

 

「遅いわね……どうしたのかしら?」 

 

洋子さんが様子を見に行くと、夫がお風呂場で倒れています。 

 

洋子さんは急いで救急車を呼び、淳さんはすぐに病院に搬送されました。 

 

しかし、懸命な処置も虚しく、淳さんは帰らぬ人となりました。死因は「ヒートショック」。寒暖差による血圧の急変動が引き起こしたものだと、医師から説明を受けました。 

 

「どうしてこんなことに……なんでうちの人が」 

 

洋子さんは、愛する夫との突然の別れに、思わず泣き崩れてしまいました。 

 

 

どうにか葬儀を終えた洋子さんは、夫を失った喪失感に苛まれながらも、これからの生活について考えるようになりました。というのも、淳さんが亡くなったことで収入が大きく減ってしまうという心配があったからです。 

 

洋子さんが自分なりに調べてみたところ、配偶者が亡くなると遺族年金を受給できるとのこと。受給額は配偶者の年金額の4分の3とあります。淳さんの年金が17万円でしたから、遺族年金額は約12万7,500円です。つまり、洋子さんの老齢基礎年金6万円と合わせて、合計18万7,500円ほど受け取れる計算になります。 

 

夫婦は18年ものあいだ生活費のために毎月2〜3万円取り崩していることから、資産はすでに600万円ほどに目減りしています。 

 

「これまでの年金収入でも赤字だったのに、これから約19万円で生活なんてできるのかしら……」 

 

担当者が告げた残酷な事実 

 

不安に駆られた洋子さんは年金事務所を訪れ、遺族年金について詳しく確認することにしました。担当者に淳さんの年金額やこれまでの記録を伝え、今後の受給額を確認してもらいます。 

 

しかし、そこで提示された金額は、洋子さんの予想を大きく下回るものでした。 

 

担当者が言うには、洋子さんが受給できる遺族年金額は8万2,500円とのこと。自身の老齢基礎年金6万円を合わせても、合計で月額14万2,500円にしかなりません。 

 

説明を聞いた洋子さんは、一瞬耳を疑いました。 

 

「えっ、8万円ですか? ちょっと待ってください、なにかの間違いでは?」 

 

想定していた12万7,500円よりも約5万円も低い金額に、洋子さんは驚きを隠せません。 

 

「夫が生きていたとき、年金額は17万円だったはずです。半分も減るなんておかしいわ」 

 

洋子さんが焦ってそう伝えると、担当者は落ち着いた声で説明を続けました。 

 

「まず淳様の年金額ですが、老齢基礎年金が6万円、老齢厚生年金が11万円でした。このうち、遺族基礎年金は18歳未満のお子様がいる場合に限り支給されるため、洋子様の場合は該当しません。 

 

次に、遺族厚生年金については、老齢厚生年金の11万円の4分の3が支給されます。そのため、8万2,500円となります」 

 

担当者が話し終えると、窓口はしばらく沈黙の空気に包まれました。やがて、洋子さんは目に涙を浮かべ、絞り出すように言いました。 

 

「私……自分の年金とあわせて、たった14万円でこれから生活しなければいけないということですか?」 

 

担当者が返事に困っていると、洋子さんは続けます。 

 

「こんなの理不尽だわ。遺族年金に満足している人なんているのかしら? 夫を亡くして独りになって、年金も減ってしまうだなんて……。これじゃあ、遺されたほうが辛いだけよ!」 

 

 

遺族年金は主に、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」で構成されています。 

 

遺族基礎年金 

 

「遺族基礎年金」は、国民年金または厚生年金保険の被保険者が亡くなった場合などに、亡くなられた人によって生計を維持されていた遺族が受け取れる年金です。下記に当てはまる場合にのみ、遺族年金を受給することができます。 

 

 

 

・子どものいる配偶者 

 

・18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子ども、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の子ども 

 

したがって、洋子さんのように子どものいない配偶者には支給されません。 

 

なお、遺族基礎年金の受給額は2025年1月時点で一律81万6,000円となっており、子どもの人数によって下記のように加算されていきます。 

 

 

 

・基本額:81万6,000円 

 

・子ども1人目:23万4,800円 

 

・子ども2人目:23万4,800円 

 

・子ども3人目以降:各7万8,300円 

 

遺族厚生年金 

 

遺族厚生年金は、会社員や公務員などの被保険者が亡くなった際に遺族が受け取れる年金です。遺族基礎年金とは異なり、子のいない遺族にも年金が支給される仕組みとなっています。ただし、子のいない30歳未満の妻は5年間のみの有期年金になってしまいます。 

 

遺族厚生年金の支給額は2003年3月31日以前とそれ以降の加入で計算式が異なりますが、今回は2003年4月1日以降の計算式でみていきます。 

 

 

 

【遺族厚生年金の計算式】 

 

(1)加入月数が300ヵ月未満の場合 

 

平均標準報酬額×5.481/1,000×300×3/4 

 

(2)加入月数が300ヵ月以上の場合 

 

平均標準報酬額×5.481/1,000×加入月数×3/4 

 

遺族年金について、今回のように「4分の3」という数字だけを理解し、数字が独り歩きしてしまっていることがよくあります。そのため、実際に受け取る金額が想定よりも大幅に少なくなるケースもみられます。 

 

そのため、あらかじめ配偶者が亡くなったあとの年金額が減少することを十分に理解し、生活が困難にならないよう、事前に必要な資産を確保しておくことや、日常的に家計を見直しておくことが大切です。 

 

 

夫の淳さんを亡くし、それまでの月23万円から月14万円ほどの収入で生活することになった洋子さん。夫がいたころに比べ支出も減少したものの、収入額にあわせて生活水準を急激に落とすことは難しく、毎月6万円の赤字が続いています。 

 

「このままでは貯金がゼロになってしまう……」 

 

貯蓄の目減りが恐怖となり、夜も眠れなくなった洋子さんは、知り合いから紹介されたファイナンシャルプランナー(FP)に相談することにしました。 

 

洋子さんから話を聞いたFPはまず、現在の家計をすべて洗い出すことにしました。 

 

洋子さんは現在、収入が14万円程度の一方、支出は毎月20万円近くあります。FPは支出の内訳を丁寧に分析したうえで、家計改善のために下記のように提案を行いました。 

 

「まずは固定費の見直しを進めましょう。スマホ代やネット代、固定電話など、月々の通信費を中心に見直すことで、少なくとも1万円以上の節約が期待できます。特に固定電話はほとんど使っていないとのことですから、思い切って解約してみてはいかがでしょうか。 

 

また、住居費についても見直す必要がありそうです。現在、洋子さんは家賃9万円の賃貸物件に住んでいらっしゃいますが、現在の収入に対して住居費の占める割合が高すぎるように思います。 

 

この点、UR賃貸や住宅セーフティネット制度を活用すれば家賃を5〜6万円程度に抑えることが可能です。これにより、毎月3〜4万円のコスト削減が期待できます」 

 

「夫と長年住んだいまの住まいには思い入れがあるから引っ越す踏ん切りがつけられずにいたんだけど、いまが潮時かもしれないわね……」 

 

洋子さんはFPの助言を受け、現実を受け入れる決意を固め始めたようでした。 

 

その後、数回の面談で具体的な収支の計画を立てた洋子さんは、これからの人生に前向きになったようです。 

 

「これならなんとか1人でもやっていけるかもしれない」 

 

愛する夫の死を乗り越え、洋子さんは第2の人生を歩み始めました。 

 

辻本 剛士 

ファイナンシャルプランナー 

 

 

 
 

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