( 258169 )  2025/01/31 17:46:53  
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成田空港は整備計画を進めており、新滑走路の新設や既存滑走路の延伸などが含まれている。

成田空港は貨物輸送やインバウンド需要において重要な拠点であり、観光需要の急増に備えて機能の強化が進められている。

成田空港の存在感を高めるために、新駅の設置計画も進められている。

(要約)

( 258171 )  2025/01/31 17:46:53  
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整備計画は新滑走路新設、既存滑走路の延伸を含む(出典:成田空港施設の整備(旅客取扱施設・貨物取扱施設等)) 

 

 日本の「空の玄関口」、成田空港。世界的な航空需要が増大し、アジア各国の主要空港間での競争が激しさを増していく中、利便性などの観点で羽田空港に押され、ひところよりも影が薄くなっているのでは……と心配する声もあります。しかし、最近ではインバウンド需要の急増という追い風を受け、ヒト、モノの輸送機能の強化に向けた検討が進められています。「世界のハブ空港」を目指す成田空港はどう変わっていくのでしょうか。新駅の設置計画を含め、現状と展望を解説します。 

 

 成田空港から日本に出入りするのは、もちろんヒトだけではありません。 

 

 「海外旅行の出発地」というイメージが強くて忘れられがちかもしれませんが、コンテナを含むモノを運ぶ貨物輸送においても、成田は日本の最重要拠点の1つといえます。 

 

 国際航空の貨物取扱シェアは56.3%(重量ベース)。68.2%(金額ベース)と、国内で圧倒的なシェアを占めています。 

 

 また、港湾と合わせた日本の貿易港ランキング(輸出額・輸入額の総合)でも、成田空港は3位の名古屋港(10.7%)、2位の東京港(10.8%)を大きく引き離して首位(16.0%)となっています。 

 

 

 ヒトの輸送のほうも活況です。インバウンド需要の増加に伴い、成田空港の外国人比率は55.3%(2019年)から72.7%(2023年)に大きく上昇しました。また、観光庁によると、訪日外国人旅行者数は2022年の383万人から、2023年は2507万人へと急増。さらに同庁では2030年までに6000万人との目標を掲げており、「観光先進国」に向けた首都圏空港のさらなる機能増強を促しています。 

 

 周辺の鉄道網についても、さらなる利便性向上の検討が進んでいます。「『新しい成田空港』構想検討会」が2024年7月に公表した報告書では、日本中からより気軽に成田空港へとアクセスできるようにするための新駅の設置案が打ち出されました。 

 

 この新駅について報告書では、新旅客ターミナルに直結、単線区間の解消、2030年代前半の供用開始といった案を示しています。関係者間の調整は簡単ではないにせよ、一連の整備プロジェクトを通じて国内での成田空港の存在感は一層高まることになるでしょう。 

 

 

 一方で「世界の中の成田空港」に目を転じてみると、明るい話題ばかりではありません。 

 

 世界における航空貨物の取扱量ランキングにおいて、成田空港は1989年には1位でしたが、2022年には香港、仁川(韓国)、上海浦東(中国)、台湾桃園に次いで5位。上位は維持しているものの、アジア圏の他の主要空港にシェアを奪われ少しずつ順位を落としている現状があります。 

 

 近年、日本の空港利用をめぐる環境は大きく変化しています。その環境変化を大きくアジア圏における空港間競争の激化、日本のコンテナ港湾の国際競争力の低下という2つの観点から現状と課題を整理してみましょう。 

 

・アジア圏における空港間競争の激化 

 近年、アジア圏の輸送拠点としての重要性がヒト・モノともに高まっています。世界の航空旅客輸送量の予測(2018年~2037年)は、世界全体の伸び率4.5%/年に対して、アジアは5.3%/年での伸長が見込まれています(日本航空機開発協会による)。 

 

 その中で、アジア圏における空港間競争が激化しており、仁川国際空港(韓国)、上海浦東国際空港(中国)、香港国際空港、チャンギ国際空港(シンガポールなど)アジア各国の主要空港における近年滑走路の新設、ターミナル拡張などの動きが相次いでいます。その中にあって、日本の空港整備は後れをとっている現状があります。 

 

 トランプ大統領の再就任によって国際的な物流環境が再び大きく変化する可能性もある中、経済安全保障の観点からも、成田空港の存在感を一層高めておく必要があるのです。 

 

・日本のコンテナ港湾の国際競争力の低下 

 世界の港湾のコンテナ取扱個数ランキングを見ると、かつて1980年には神戸港が4位、横浜港が13位と上位にランクインしていましたが、2019年では東京湾が39位、横浜港が61位と低下傾向にあります。それに対して、航空貨物の取扱量ランキングにおいては成田空港が世界のトップ10を堅持しており、今後においても国際航空貨物の競争力を維持・強化する必要があります。 

 

 またヒトの輸送についても、成田空港においてはトランジット旅客の割合が37.0%と羽田(16.3%)、関西(0.3%)に比べて高く、このトランジット旅客のさらなる取り込みも課題となっています。 

 

 こうした環境変化を受け、これまでも首都圏空港(羽田・成田)では日本版オープンスカイ政策の推進などによるキャパシティー拡大に取り組んできました。2010年10月以前には52.3万回だった年間発着枠は、今日では82万回まで拡張。しかし国交省によると、首都圏空港の発着回数は2032年には94万回に達するとの需要予測もあり、ヒト・モノ両面において航空需要の長期的な増加を見込んだ対策が求められています。 

 

 そこで、成田空港では、空港機能の強化を図る計画を打ち出しています。 

 

 

 先ほども触れた「『新しい成田空港』構想 とりまとめ2.0」では、具体的な対策として、新旅客ターミナル(後述)を開設する東側エリアに、貨物施設を集約・リノベーションした「新貨物地区」を配置するとしています。 

 

 この新貨物地区整備のポイントは、貨物上屋(輸出入貨物の荷さばきや一時保管を行う施設)とフォワーダー施設(航空貨物を扱う施設)を集約し、一体運用するところにあります。両施設の距離をゼロにすることで物流リードタイムのムダを削減するとともに、航空会社とフォワーダーの連携を強化し、トランジット需要を取り込むねらいがあります。 

 

 また、徹底的な自動化・機械化を図り、世界最高水準の効率性・生産性向上を目指すとしています。 

 

 新貨物地区の北側には、広大な空港隣接地があります。この隣接地との一体的運用を通じて、EC/流通加工拠点、機器ストック/メンテナンス拠点、生鮮品輸出拠点など航空物流と親和性の高い需要を創出することも期待されています。 

 

 

 

 新貨物地区は 2030 年代初頭に供用。2028 年度末に一部供用を目指す隣接物流施設と一体的な運用を想定しているようです。 

 

 ヒトの輸送の面では成田空港はどう変わっていくのでしょうか。「空港外からの移動」と「空港内の移動」に分けてそれぞれ解説します。 

 

 空港外からの移動については、冒頭で紹介した新駅計画を含め、成田空港のデメリットである、都心からの鉄道アクセスの利便性向上・輸送力増強が大きなポイントとなります。すでに2016年4月の交通政策審議会の答申「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」において都心直結線の新設(押上~新東京~泉岳寺)が挙げられており、その早期実現が待たれます。また、成田空港側においては空港周辺の複線化も検討されています。 

 

 一方の空港内移動については、羽田空港や関西国際空港に比べてトランジット比率が高いという成田空港の特性を踏まえ、現状で第1~第3に分散しているターミナルをコンパクトに集約・一体化した「集約ワンターミナル方式」の構想を掲げています。 

 

 新ターミナルの形状は「ロングピア型」と言われ、コンコースの本数を少なくでき、分岐を減らせるため、旅客にとってシンプルで分かりやすいメリットがあります。 

 

 また、すべての乗り継ぎが同一ターミナル内で完結するため、ハブ空港としての機能が向上することが期待されます。エプロンベイ(駐機場)も広くできるので、航空機の走行性やレジリエンスの点でも優位とされています。 

 

 ワンターミナルの候補地としては、第2ターミナルの南側エリアが挙げられています。規模(延べ面積)は95~115万m²程度を想定しており、今後は既存の空港ターミナルを運用しながら大きく3つのステップに分けて段階的に整備していく方針です。 

 

 モノの輸送では「新貨物地区」、ヒトの輸送では「集約ワンターミナル方式」と、機能増強に向けた大きな方向性を打ち出した成田空港。構想が実現すれば、成田空港は再び「世界のハブ空港」としての存在感を高めることになるかもしれません。そのためにも、成田空港のみならず国交省、周辺自治体、鉄道事業者など関係者の調整が円滑に進むかどうかも注目点となりそうです。 

 

執筆:堀尾 大悟、編集:ジャーナリスト 川辺 和将 

 

 

 
 

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