( 259416 ) 2025/02/03 05:07:45 0 00 ベストカーWeb
なぜか定期的にやってくる日産の危機。2018年のカルロス・ゴーン逮捕から紆余曲折ありながらも内田誠CEO体制で安定していると思っていたら、思いのほか厳しい状況にあることがわかった。グローバルで9000人の人員削減を発表するなど、予断を許さない状況だ。今、日産に何が起きているのか?
※本稿は2024年12月のものです 文:桃田健史、諸星陽一、西村直人、井元康一郎、佃義夫(佃モビリティ総研代表)、ベストカー編集部/写真:日産、ホンダ、ベストカー編集部 ほか/予想CG:ベストカー編集部 初出:『ベストカー』2025年1月10日号
日産の苦戦は、市場変化の先読みが甘かったことが最大の要因だ。特に影響が大きかったのは、中国とアメリカ。
まず中国についてだが、合弁事業を中国地場大手の東風汽車に一本化してきた。トヨタやホンダなどが中国という先読みできない市場に対する「リスク分散」として、合弁する地場企業を複数持ったのとは対照的だ。
日産は、東風汽車とタッグを組むことで中国政府と深い関係を築く戦略を取ってきた。結果的に中国市場でのシェアを着実に拡大し、日産グローバル戦略のなかで中国の重要性が高まっていった。
筆者はその経緯を、東風日産の生産拠点や中国における日産事業を総括する事務所などを定期的に取材することで実感してきた。
ところが、日産の戦略は逆ブレする。中国市場が成熟し、経済発展が足踏み状態、さらに低下するようになり、日産のチャイナシフト戦略に陰りが見え始めた。
なかでも影響が大きかったのは中国地場メーカーによるEVおよびレンジエクステンダーEVの価格破壊だ。その余波を日産はもろに受けてしまった。
コロナ禍で、すでにこうした厳しい状況はわかっていたが、現状を見る限り、日産は当初計画に比べてさらに大胆な中国事業の変革が必要だったと言える。
また、アメリカ市場の不調も利益を大幅に圧縮している。コロナ禍で日産は、アメリカ市場での販売戦略を大きく転換。「量より質」を掲げていい結果を出した。そんな成功体験が、今ではウソのような状況に陥ってしまったのだ。売れないからインセンティブ(販売奨励金)に頼り、事実上の値引き販売へ。
その結果として、リセールバリュー(再販価格、下取り価格)が下がってしまい、ユーザーの新車購入意欲も下がる。そんな、負のスパイラルに舞い戻ってしまったといえるだろう。
その原因については、2年ほど前から新年度モデルへの転換が出遅れた、と日産は説明している。
アメリカでは、フルモデルチェンジやマイナーチェンジではなく、イヤーモデルと呼ばれる、1年単位でモデル転換をするシステムが採用されている。
ユーザーは、毎年春から夏にかけて、新しいイヤーモデルを求めて新車を物色する。または、年末や春先に実施される値引きやローン金利の引き下げキャンペーンを待って、在庫車を購入する人も少なくない。
つまり、アメリカではイヤーモデルの投入戦略をミスると、その影響を一年中引きずってしまうのだ。
日産はなぜ、そうしたミスを2回のイヤーモデルで繰り返したのか。その詳細は公開されていないが、結果的に経営判断ミスということだろう。
周知のとおり日産は長年にわたるゴーン体制のもとで「日産らしさ」を失ってしまった。そうした負の遺産に対する反省を起点にした事業構造改革計画「Nissan NEXT」は成功したと言ってよいだろう。
だが、それに続いた「Nissan Ambition 2030」では、日産の将来イメージというわりにはどこかボヤけた印象を、筆者は抱いていた。
本来なら「Nissan NEXT」の勢いで、さらに斬新な経営判断を下すべきだった。「Nissan NEXT」の次の一手に対して日産経営陣がコンサバだったことで、市場変化への対応が後手に回ったと言えるのではないだろうか。
では、日産復活のカギは何か?財務面では、生産規模や人員の最適化が進むが、これとは別に「現実味のある夢」を語るべきだ。
コンサバな姿勢から反転した、ポジティブで迫力ある商品揃えと斬新なエネルギーマネジメント事業などが考えられるはずだ。日産の次の一手を大いに期待したい。
幾度となく訪れた日産のピンチ。最初の大きな波は1953年。1949年に行われた大規模リストラに反発する労組は経営側に強く反発。1953年には労使の対立は後戻りができない状態であった。
経営側は打開策として第二組合(組合の名は名乗るものの、実質は本質的な労組を解体するための組織である)により労組を圧迫。そして経営側が勝利する。
この第二組合を率いた人物が塩路一郎である。塩路は社内で大きな権力を握り、その影響力は経営にも波及。自身の利益のために行った方針が日産に大きな損失をもたらしたという。
塩路がまだ日産で権力を維持していた時代の1977年に石原俊が社長に就任する。石原は世界シェア10%を目指す「グローバル10」戦略を打ち出すが、塩路はこれに反対し圧力をかける。
しかし石原は「グローバル10」を強行し欧米に進出、工場の新設など巨額の投資を行うが、バブル景気の終息などもあり「グローバル10」は失敗。
倒産寸前の瀕死状態まで追い込まれた日産は1999年にフランスのルノーと提携することで命を繋ぐ。ルノーは日産の株式36.8%を取得し経営権を掌握。ルノー傘下となり、カルロス・ゴーンが日産に送り込まれた。
ゴーンが掲げた「日産リバイバルプラン」は、東京の村山工場の閉鎖や2万人以上におよぶ大規模なリストラを敢行。そのほか売れるものを売り切り2003年には約2兆円と言われた有利子負債をすべて返済した。
ゴーン体制は華麗なる復活劇に思えたが、2018年に事態は急転。カルロス・ゴーン逮捕の報道が流れた。逮捕、拘留されていたゴーンは仮釈放時にレバノンに逃亡。世界的大企業の代表が逮捕されただけでも大ニュースであったが、さらに国外逃亡という汚点まで付いてしまった。
2019年12月初頭にはゴーンの独裁経営を反省するということから、内田誠、アシュワニ・グプタ、関潤の3人によるグループ経営「三頭体制」を発表するが、同年12月25日に関潤が退職、2023年7月にはグプタが退職した。
そして2024年11月。2024年度上半期の営業利益が前年同期比90%減という日産の衝撃発表で世間は驚愕。経営立て直しのために生産能力を20%減、9000人規模のリストラという案を打ち出す。
幾度となく訪れたピンチを乗り切った日産だけに、今度も驚くような方法で乗り切ってくれることに期待したい。(文中敬称略)
2024年に世界で投入された主要な新モデルをまとめてみた。日本だけをみれば細々とした改良やモデル追加ばかりが目立つが、海外ではパトロールやキックス、ムラーノといった戦略上重要なモデルの全面刷新も敢行している。今後も新車の投入が大きなカギを握る。
●2024年3月8日発表(日本)アリアNISMO
引き締めた足や435psのモーター、専用ドライブモードを備えた激速SUV。開発には901運動期のマイスターも参加。
●2024年2月7日発表(欧州日産)インタースター
欧州市場向けの大型商用車。パワートレーンはディーゼルとEVの2種。
●2024年2月12日発売(日本)クリッパーEV
基本的には三菱 ミニキャブEVのOEM版。最大航続距離は180km、積載量は350kg。
●2024年3月22日モデル追加(日本)アトラスダブルキャブなど
一部改良とともにダブルキャブや1.55tモデルを追加。また10月には普通免許対応モデルも発売した。
●2024年3月25日発表(北米)新型キックス
世界に先駆け、北米市場でフルモデルチェンジを発表。エクステリアのデザインモチーフは"高級スニーカー"。
●2024年5月〜7月発表(日本)ノート オーテッククロスオーバー/ノート オーラ/ノート オーラNISMO(マイナーチェンジ)
2023年末にマイナーチェンジを受けた基準車に続き、オーラとオーラNISMO、クロスオーバーもマイナーチェンジを受けた。オーラNISMOに追加された4WDモデルは、高出力化したリアモーターがユニークな走行感覚を生み出している。
●2024年3月25日発表(北米)インフィニティQX80
フラッグシップの3列SUV。QX80名になって初のフルモデルチェンジ。450psの3.5L、V6ツインターボを搭載する。
●2024年7月31日発表(日本)キャラバンMY ROOM ●2024年10月1日発表(日本)NV200バネットMY ROOM
キャラバンをベースに、貨物スペースを小さな居室空間のように架装した、日産の新提案がマイルーム。バネットにも設定されている。
●2024年3月14日発表(日本)GT-R 2025年モデル ●2024年11月8日発表(日本)フェアレディZ 2025年モデル
日産スポーツの二枚看板も最新モデルに進化。GT-Rはこれで最後の改良となる見込みで、2025年に生産終了が予定されている。
●2024年10月4日発売(インド)マグナイト(マイナーチェンジ)
インド・アフリカ・中東向けのコンパクトSUV。1LターボユニットにMTまたはCVTを組み合わせる。
●2024年10月3日発表(日本)セレナe-POWER e-4ORCE(追加)
FFのみだったセレナのe-POWER版に、4WDのe-4ORCEが加わった。通常モデルに加えオーテック系特装車にも設定。
●2024年9月4日発表(中東日産)新型パトロール
中東などで絶大な支持を誇る大型4WDもフルモデルチェンジで7世代目へ。
●2024年10月17日発表(北米など)新型ムラーノ
日本では2代で絶版となったムラーノだが海外では健在。今回のフルモデルチェンジで4代目へと移行。
●BEV/e-POWER
"技術の日産"を語るうえで外せないBEV。リーフオーナーから得た情報は累計走行距離280億km分に及ぶ。全固体電池の実用化(2022年4月に試作生産設備を公開)にも前のめり。
e-POWERの世界生産台数は150万台以上。ホンダe:HEVと比較して二次バッテリーからの出力が大きいため加速が力強い。第2世代e-POWERには直列3気筒1.4Lのe-POWER専用エンジンとの組み合わせもある。
●VCターボe-POWER
VCとはVariable Compression(可変圧縮)エンジンのこと。これにターボを組み合わせたVCターボの技術トピックはふたつ。
(1)圧縮比を8:1(高性能)から14:1(高効率)の間で自在に変更可能。アクセルを深く踏み込むと8:1になり、ターボの過給圧を上げて出力とトルクを大きくする。逆に出力が必要ない場合には14:1を保ち、過給に頼らず燃費数値を向上。
(2)同排気量エンジンと比較して騒音や振動が少なく滑らかに回転。要はマルチリンク可変圧縮機構だ。
e-POWER×VCターボの目的は発電能力を高めるため。e-POWERの1.2L(セレナは1.4L)はいずれもNA。よって発電トルク増大にはエンジン回転を高める必要があった。
エクストレイルの直3の1.5L・VCターボとe-POWERの組み合わせでは、その弱点をVCターボの豊かなトルクでカバー。低圧縮比モードではターボの過給効果を積極的に活用し、エンジン回転数を高めずに発電用モーターが求めるトルクを獲得。結果、電動駆動モーターに充分な電力が供給できる。まさしく夢の共演!
●e-4ORCE
日産は「電動化技術」、「4WD制御技術」、「シャシー制御技術」を独立して開発してきたが、3要素×電動駆動の4輪制御技術が不可欠であると判断、結果誕生したのがe-4ORCEだ。
得られる走行特性はたくさんあるが、特徴的なのが左右カーブの切り返し時。右旋回のヨーが安定したころには次の挙動変化に対する予測が始まる。この瞬間、「直進するのか、どちらかにステアリングを切るのか」とe-4ORCEのシステムがドライバーの意図を汲み取る。なので従順な走り!
●プロパイロットとGTP
プロパイロットの進化版2.0には「ハンズオフ走行」と「追い越し支援」、「車線変更支援」などが加わる。
この2.0で培った技術を昇華させ、新たにLiDARセンサーを加えた「グラウンド・トゥルース・パーセプション(GTP)」を2022年4月に公開。「多次元で複雑な事故を回避する運転支援技術」と説明する。
飛び出した車両を自動操舵で避けて、さらにその先に迫り来る飛び出す歩行者を認識してフルブレーキで回避。
変化する状況を正確に遅れなく把握して、瞬時の判断で状況にふさわしい回避行動を自律的に行う。交差点での事故回避技術も公開し、2030年までにほぼすべての新型車に搭載すると意気込んでいる。
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