( 259424 )  2025/02/03 05:19:19  
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公共交通の重要性について議論されており、単純な需要と供給だけでは説明できない視点も示されている。

例えば、利用者が少ない路線が赤字でも維持される理由や、人口が減少しても公共交通の需要が生じる理由が挙げられている。

公共交通は単なる移動手段だけでなく、地域経済や持続可能性にも影響を与える重要な要素であり、単なる収支だけでなく、社会的影響や都市の成長との関連性を考慮する必要があると述べられている。

(要約)

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ローカル鉄道のイメージ(画像:写真AC) 

 

 公共交通を語る際に、ときどき挙がる論点がある。今回は、それらを検証する。 

 

・公共交通は、住民が私的な手段で移動すると渋滞などの社会的損失を引き起こすため、それを緩和する目的で導入される。 

・一定数以上の移動需要がなければ、そもそも公共交通は必要ない。私的な移動手段で十分だからだ。 

・赤字でも維持される公共交通があるのは、廃止すればそれ以上の社会的損失が発生する可能性があるためだ。 

・鉄道を維持したいなら、まず人口を増やす必要がある。人口が増えれば、私的な移動手段だけでは対応しきれなくなり、公共交通の必要性が生まれる。 

・こうした議論は、しばしば順序が逆転している。 

 

 ある地域に鉄道やバスが必要かどうか――多くの人は 

 

「利用者が多ければ必要、少なければ不要」 

 

と考える。しかし、この単純なロジックでは説明しきれない事象がある。例えば、赤字路線が存続し続ける理由は何か。あるいは、人口が減少する地方でも、新たな公共交通の整備が議論されるのはなぜか。 

 

「人が多いから交通機関が生まれる」という発想は、一見もっともらしく聞こえる。しかし、もしそれが絶対であれば、人口減少地域では交通インフラが次々と消滅し、最終的にゼロになるはずだ。しかし、現実はそうなっていない。むしろ、多くの自治体が補助金を投じてでも存続を模索している。この矛盾を解くには、単なる「利用者数」だけでなく、より広い視点から公共交通の役割を捉える必要がある。 

 

路線バスのイメージ(画像:写真AC) 

 

 経済の基本原則に従えば、公共交通は「需要」があるから供給される。しかし、現実の交通政策はこの単純な市場原理とは異なる。利用者が少ないローカル線が維持されるのは、単に「住民の足」としての役割を果たしているからではない。 

 

 重要なのは、「移動」という行為が単なる個人の利便性にとどまらない点だ。例えば、ある地方都市で鉄道が廃止された場合、住民の移動手段が自家用車に依存するようになる。これにより、高齢者や低所得層の移動が制限されるだけでなく、地域経済にも悪影響を及ぼす。 

 

 さらに、移動の選択肢が限られることで都市の魅力が低下し、若年層の流出を招く可能性がある。結果として地域の労働市場が縮小し、経済の活力も失われていく。つまり、公共交通の存続は単なる「輸送手段の問題」ではなく、地域の持続可能性そのものと密接に結びついている。 

 

 

ローカル鉄道のイメージ(画像:写真AC) 

 

「どうしても電車が欲しいなら、まずやるべきことは人口を増やすべきだ」。一見もっともらしい主張だが、人口増加がそのまま公共交通の発展につながるとは限らない。 

 

 都市の発展を考えるうえでカギとなるのは、 

 

・人口密度 

・都市構造 

 

だ。単に人口が増えても、それが郊外に分散すれば公共交通の効率は悪化する。例えば、米国の多くの都市では人口増加が公共交通の発展につながらず、むしろ自動車依存が進んだ。一方、欧州の都市は人口密度を維持しながら公共交通を発展させてきた。重要なのは「人口を増やすこと」ではなく、 

 

「どのように増やすか」 

 

である。さらに、公共交通の発展には「初期投資」の課題もある。仮に人口が増えたとしても、鉄道やバス路線の整備には多額の投資が必要だ。そのため、一定の人口規模に達するまでは住民が自家用車に依存し、公共交通の整備は後回しになりがちだ。この 

 

「タイムラグ」 

 

を考慮せず、「人口が増えれば公共交通も発展する」と考えるのは楽観的すぎるだろう。 

 

路線バスのイメージ(画像:写真AC) 

 

「赤字でも維持しなければならない公共交通があるのは、廃止すると赤字以上の社会的損失が発生する場合がある」。この指摘は極めて重要だ。 

 

 例えば、ある鉄道路線を廃止すれば、短期的には運営コストの削減につながるかもしれない。しかし、長期的に見れば、住民の生活圏が狭まり、消費活動の縮小を招く。企業の進出が難しくなれば、地域の雇用も減少する。さらに、高齢者の移動手段が失われれば、介護や福祉のコストが増大する可能性もある。 

 

 こうした影響を総合的に考えると、単なる赤字の問題では済まされない。公共交通の廃止がもたらす経済的損失は、短期的なコスト削減をはるかに上回る場合がある。この視点を欠いた交通政策は、地域の持続可能性を損なうリスクをはらんでいる。 

 

ローカル鉄道のイメージ(画像:写真AC) 

 

「この手の議論はいつも順序が逆だ」。公共交通の必要性を考える際の発想の順番についての指摘だ。 

 

 確かに、人口が少ない地域で新たな鉄道路線を求めるのは非現実的に思えるかもしれない。しかし、「人口が増えたら鉄道を整備する」という考え方も、必ずしも合理的とはいえない。 

 

 なぜなら、公共交通の整備は都市の成長と密接に結びついているからだ。鉄道やバスが整えば人々の移動が活発になり、経済活動が活性化する。その結果、都市が発展し、さらに人口が増えるという「好循環」が生まれる。 

 

 一方で、「まず人口を増やす」という発想では、交通インフラが未整備の状態で人を呼び込むことになる。移動の利便性が低いため定住人口は増えず、結果として公共交通の整備も進まない。この「悪循環」に陥れば、都市の成長はますます停滞することになる。 

 

 

路線バスのイメージ(画像:写真AC) 

 

 公共交通の存在意義を考える際、「需要があるから存在する」という単純な発想では不十分だ。公共交通は「地域経済の基盤」として機能しており、その整備は都市の発展に直結する重要な要素だ。 

 

 また、「人口が増えれば公共交通が発展する」という考えも必ずしも正しいわけではない。都市の成長は、公共交通の整備が先行することによって促進されるケースが多く見られる。 

 

 交通政策を考える際には、単なる収支の計算にとどまらず、「移動がもたらす経済効果」や「都市の成長との相互作用」を総合的に捉える視点が重要だ。公共交通は単なる輸送手段ではなく、都市の未来を形作る不可欠な要素と言える。 

 

 最後に、SNSとテクノロジーを駆使して社会課題の発見と解決を支援するソーシャルスタートアップ・Polimill(東京都港区)が2024年4月に実施した「赤字の地域鉄道を公費で維持するべきか?」というアンケート調査の結果を紹介する。この調査は、社会デザインプラットフォームSurfvote(ウェブサービス)を通じて実施され、調査対象はSurfvoteのアカウントを持つユーザーで、最終的な有効票数は54票だった。以下に投票結果と一部コメントを紹介し、本稿を締めくくる。 

 

●公費を投入して維持していくべきである(42.6%) 

「赤字であろうが、その路線を利用しないと困る人もいる。他に交通手段があればいいが、他の路線もバスも自転車や車がない人もいる。公費を投入して維持していくべきであると思います」 

 

●公費は投入するべきではなく、採算が取れない路線は廃線もやむを得ない(35.2%) 

「採算が取れないならば路線を維持するコストがもったいないです。その周辺に住む方々の多数同意が取れるのであれば廃線するべきだと思う。国は財政難なので削れるところから削るべき」 

 

●その他(14.8%) 

「ケースバイケースだと思います。過疎化がかなり進み再興する気配が全くない地域で赤字のまま走らせてもコストがかさむだけになってしまうと思います。ただ町おこしなど副産物的に再興できる要素があればコストをかける価値があるときもあると思います」 

 

●わからない(7.4%) 

「そこに住んでいる住民、特に自家用車のない高齢者などのことを思うと公費を投入して維持するべきだと思う一方、赤字にしかならない電車を走り続けられるほど日本の経済に余裕はないとも思う。なのでどちらにも賛成ができなかったので、その地域ごとに慎重に検討するしかないと思う」 

 

出島造(フリーライター) 

 

 

 
 

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