( 259734 )  2025/02/03 18:16:21  
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中居正広氏の騒動に関連して、守秘義務の重要性について議論があります。

守秘義務は示談において秘密を守るための取り決めであり、被害者が家族や友人に話しても防げないが、情報を口外しないことで名誉やプライバシーを守れる一面もあります。

今回の事件でも守秘義務が交わされ、具体的なトラブル内容が公表されていません。

ただし、守秘義務は真実解明を妨げないように適切に運用される必要があり、法的な制約としても考慮されます。

守秘義務の適切な解釈と運用が重要であり、今後、新しい条項が提案される可能性もあるとされています。

(要約)

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(c) Adobe Stock 

 

 中居正広氏の騒動に関連し、守秘義務の意義について議論が起きている。守秘義務条項は、当事者間の示談において秘密を守るための重要な取り決めである。ただし、この条項の効果は限定的であり、被害者が家族や友人、職場の関係者などに話す場合、それを防ぐことはできない。実際、周囲の人々には守秘義務が適用されないため、情報の漏洩を完全に防ぐことは難しい。一方で、当事者本人が情報を口外しないことには一定の意義がある。本人が守秘することで、名誉やプライバシーを大きく損なう事態を避けやすくなるからである。 

 

 今回の事件においても、示談の一環として守秘義務条項が交わされたことで、具体的なトラブルの内容は公表されていない。この守秘義務は、当事者の人権やプライバシーを守る重要な役割を果たしている。ただし、守秘義務が情報を隠すための「隠れみの」として使われるべきではない。守秘義務が存在する中でも、社会にとって必要な情報を公開し、真実を解明する努力が求められる。 

 

 今回のケースでは、守秘義務が法的な制約となり、中居正広氏自身が発信を控える状況が続いていた。示談が成立しても、守秘義務の調整が完了しない限り、具体的な説明をすることは難しい。結果として、引退という選択が守秘義務を遵守しつつ、これ以上の混乱を避けるための結論であったと推測される。守秘義務条項は、人権を守るために重要である一方で、情報の透明性や真実の解明を妨げる側面もある。 

 

 この条項が適切に運用されるためには、単なる秘密保持だけでなく、当事者間や社会における公平性や正当性を考慮した対応が求められる。中小企業を中心に数多くの顧問先を抱えコンプライアンス案件などについてもアドバイスする城南中央法律事務所(東京都大田区)の野澤隆弁護士に、本件の見解を伺った。(聞き手は小倉健一) 

 

――報道では「和解」の条件に「守秘義務」があった旨の話がたびたび出ていますが、これらはどういった意味なのでしょうか。まずは、契約の基本的なことに中心にご説明ください。 

 

(野澤隆弁護士) 

 

 契約自由の原則という考え方があります。この原則は、契約を結ぶ人たちが話し合いによって、どのような内容の契約でも自由に決められるというものです。 

 

 

 とはいえ、民法という法律が、契約の内容を分かりやすくするため、また、争いが起きたときに問題を整理しやすくするために、契約の基本的な類型を13個設けています。この13個は、贈与、売買、賃貸借、雇用、委任、請負、組合といった身近な契約が中心です。 

 

 例えば、「売買」は物やサービスをお金と交換する契約、「賃貸借」は家や車などを貸し借りするために結ぶ契約といった感じです。トラブルが起きた場合、裁判所は問題をこの13個のどれかに当てはめ解決を図ろうとします。問題がシンプルな場合、裁判所もすぐに適切な契約類型を見つけ判断を下すことができます。 

 

 しかし、業務委託契約のように、「雇用」に近いのか、それとも「請負」に近いのかの判断が難しいケースもあります。「雇用」とは働く人と勤務先が結ぶ契約で、給料とそれに見合った仕事内容が取り決められます。「請負」とは、建設工事やソフトウェア開発業務のように、仕事を完成させた上でお金と引き換えに出来上がった建物やデータを引き渡すことを目的とした契約のことです。 

 

 このような解釈が難しい契約の場合、裁判所も簡単に結論を出すことができません。また、フランチャイズ契約のように複数の契約内容が混ざり合っている場合、条項同士の論理関係や優先関係などをよく点検しないと結論が出ないことも多く、そもそも13種類の典型契約に該当しない場合、解釈はその人次第となり、結論を導くことはより一層難しくなります。 

 

 今回の「守秘義務契約」は、13種類の典型契約のどれにも該当しない特殊な契約、いわゆる非典型契約です。守秘義務契約とは、「事件の秘密などを第三者に漏らさない」という約束をする契約であり、それなりの会社に勤務しているとよく見かける秘密保持契約と同じカテゴリーに位置付けられます。 

 

 なお、家庭内のDV事件や不倫問題で、「今後は一切連絡を取らない」、「二度と近づかない」といった接触禁止条項がよく出てきますが、これも「破られたらどうする」につきかなりの検討が必要な非典型契約の一種です。 

 

――「和解」とは何を意味していますか。「守秘義務」につきもう少しご説明ください。 

 

 

(野澤隆弁護士) 

 

 和解について解説します。和解とは、民法695条と696条で定められている典型契約の一つで、争っている当事者同士が話し合いによって解決策を見つけ合意することで争いを終わらせる契約のことです。民事事件、つまり警察が対応する刑事事件ではなく当事者間で解決すべき分野は、お金を渡すことで解決することが基本的に多く、民法も金銭賠償の原則を定めています。例えば、借金の支払いが滞ったら遅延損害金、交通事故を引き起こしたら損害賠償金といったところです。今回の中居正広氏のケースでも、金銭交付を通じて当事者間で和解が成立したと推測できます。和解の中核は、「お金を中心とした事項について、これ以上の文句をお互い言わない」であり、この点は法律の専門知識がなくても理解しやすいはずです。 

 

 守秘義務契約は「お金を渡す」ではなく、「何かをしてはならない」という目に見えない義務を履行させる特殊契約であり、いくら和解しても、その後に守秘義務が履行されないリスクが続き、分割金支払いの遅滞などと異なり違反内容がよく分かりません。 

 

 そこで、法律の専門家が登場し、さまざまな要素を組み合わせて解釈を行いますが、守秘義務契約について統一された判例や通説があるわけではなく、結果、報道機関も中居正広氏や相手女性に対しどの程度のコメントを聞き取っていいのか混乱し無駄な憶測記事が頻出する状態が発生しています。 

 

 法律の専門家が守秘義務契約を解釈するときは、将棋のような複雑な戦いに似た状況が生まれます。プロの棋士が多数の駒を使い、一般の人には分からないレベルの戦術で勝負をするように、法律の専門家も複数の契約要素を駆使しながら議論を進めます。個人的には、守秘義務契約は、「雇用契約」の要素が4割、「委任契約」の要素が3割、「請負契約」の要素が2割、その他の契約要素が1割と思っていますが、それが正しいかどうかを判断するAIはまだありません。 

 

――現時点では事件の情報発信元は明確ではないのですが、中居正広氏にとっては情報が何らかの原因で守秘されない結果となり、芸能界を引退することになりました。守秘義務条項の実務をふまえ、この事件の影響としてどのようなものが考えられますか。 

 

 

(野澤隆弁護士) 

 

 弁護士の立場でクライアントと守秘義務条項について話し合うとき、話が長くなることが多いです。守秘義務条項が破られても、和解契約全体の取り消し請求や無効主張はなかなか認められず、また、条項を破った相手の資金難や連絡先不明といった状況があると、日本の法制度では取り立てや所在地把握がなかなかできない以上、やられ損になる可能性があるからです。そもそも守秘義務条項を設けようとすると、「何か隠したいことがあるのではないか」と相手に思われる心理学的リスクがあり、その他の和解条件で妥協を強いられることもあります。 

 

 そこで損害賠償額の予定、つまり守秘義務を破った場合のペナルティとして損害賠償額を検討することになりますが、相手に「この程度の金額なら守らなくてもいい」と考えられ、経済的に逆効果になることもあります。守秘義務条項は民事版の司法取引に近いものであり、現時点では法的整備が不十分です。このため、守秘義務条項の解釈や運用は実務上の大きな課題となっています。 

 

 今回の事件では、派手な業界で活躍する人々の中には「もっと慎重に行動しなければならない」と考えた人も多いはずです。一方で、一定の立場にいる人々の中には「守秘義務条項はほとんど意味がない」と考え、問題が起きた場合には徹底的に争う姿勢を取るべきだと判断した人もいると予想されます。慎重に行動する人が増えれば事件の数は減る可能性がありますが、徹底的に争うことを選ぶ人が増えれば1つの事件にかかるコストが増える可能性が高まり、社会全体での対応コストがどうなるかはまだ分かりません。 

 

 今後は、守秘義務条項に代わる新しい条項が増えることも考えられます。つまり、「これをしてはいけない」という内容ではなく、「これをお互い実践、尊重する」という形の条項が設けられるわけです。例えば、「名誉毀損に関する法律や判例を守りつつ行動する」や、「お互いのプライバシーに配慮する」といった内容です。 

 

 

 
 

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