( 260134 ) 2025/02/04 15:35:11 1 00 「週刊文春」が中居正広・フジテレビ問題についての記事の一部を訂正し、他の報道機関もそれについて報じた。
一部の読者からは、訂正があったことで報道の意味がないという論調もあるが、問題が明るみに出たことでメディアの信頼性を高めるためには訂正と謝罪が重要だと指摘されている。
最終的に文春の訂正の件を通じて、メディアの責任と信頼性についての議論が広がっており、今後の報道のあり方に注目が集まっている。 |
( 260136 ) 2025/02/04 15:35:11 0 00 中居正広©文藝春秋
「週刊文春」が中居正広・フジテレビ問題について記事の一部を訂正した。Xでは「文春廃刊」「世紀の大誤報」がトレンドになった。「文春オンライン」でコラムを持つ身としてはよだれが出そうな大ネタである。さっそく読み比べていこう。
訂正したのは昨年12月26日発売(電子版は同25日配信)の「週刊文春」の記事だ。中居氏とX子さんの間でトラブルがあった当日の会食について、当初はX子さんの知人の証言から「フジ編成幹部A氏に誘われた」としていたが、その後の取材で「中居氏に誘われた」と判明したとし、おわびして訂正したのだ。
他の媒体はどう報じたか。NHKはメディア論が専門の立教大学の砂川浩慶教授のコメントを載せていた(1月28日)。
「影響が非常に大きいからこそ訂正するべきだと思う。ほおかぶりしたまま、今後の報道が続くと、さらにうそを重ねるということになってしまう。大きな社会的な関心があるからこそ、過ちは過ちと認めないと、どんどん間違った方向へいってしまうので、訂正したこと自体はいいことだと思う」
毎日新聞は影山貴彦・同志社女子大教授(メディアエンターテインメント論)の「もっと早く訂正すべきだった」との声を載せていた。「フジ社員の関与の疑念が全くなくなったわけではない」とも(1月28日)。
今回コラムを書くにあたり文春の中居報道をすべて読み直してみた。すると今まで抱いていた小さな違和感こそが大事なポイントだと思えた。
まず最初の違和感。忘れている人もいるかもしれないが(もしくは知らない人も)、中居問題を最初に報じたのは文春ではなく「女性セブン」だった。文春の第一報は電子版で12月25日だったが、女性セブンは12月19日(1月2・9日合併号)に中居氏の件を伝えていた。なので「文春もあいのりしてきたのか」との印象を抱いたのを覚えている。
では女性セブンはどう書いていたのか。フジテレビの『まつもtoなかい』(現『だれかtoなかい』)を発案したのはフジテレビ編成幹部のA氏であり、松本人志&中居の2氏はA氏に絶大な信頼を置いていた。しかし中居氏の「重大なトラブル」で番組は2025年3月に打ち切りが決定した。その発端は23年にA氏が中居に声をかけた飲み会だったとし、
《事情を知る関係者が重い口を開く。「大雨の降る夜だったそうです。当初は、中居さんとA氏、A氏が呼んだ芸能関係の女性の3人で会食する予定だったが、急にA氏が行けなくなったと言い出したため、中居さんと女性の2人だけで始めることになった。》
このあと2人の間に深刻な問題が発生し、記事の後半はA氏は過去にも中居氏との飲み会に女性を呼んだことがあるなど、中居氏との公私にわたっての深い関係について書いていた。
文春の第一弾記事でも「女性セブン」の記事を引用していた。こちらだ。
《「女性セブン」が報じたのは2024年12月19日のことだった。記事によると、2023年にX子さんは中居、フジテレビの編成幹部A氏と3人で会食する予定だったが、A氏がドタキャン。》
一方で、文春はこう書いていた。
《X子さんの知人が打ち明ける。「あの日、X子は中居さん、A氏を含めた大人数で食事をしようと誘われていました。多忙な日々に疲弊していた彼女は乗り気ではなかったのですが、『Aさんに言われたからには断れないよね』と、参加することにしたのです」》
よく読むと「誰に」誘われたのかは書いていない。でも『Aさんに言われたからには断れないよね』とX子さんが言ったという知人の証言も載せている。かなり曖昧だ。
ここで2つ目の違和感を書く。この時点では「誰がX子さんを誘ったか」については文春はまだ確証がとれていなかったのではないか? なので冒頭に女性セブンの記事も引用したのではないか。文春砲と恐れられるほど取材力に定評があるのにこの件は他誌の引用から入るという違和感があった。取材を進めたら「誘ったのは中居氏」であることがわかったのだろう。1月8日発売号(第2弾)ではこう書いている。
X子さんの「別の知人」の証言として、
「あの日、X子は中居さんからA氏を含めた大人数で食事をしようと誘われていました」
はっきりと取材の成果が出ている。さらにX子さんの言葉として「Aさんがセッティングしている会の“延長”だったことは間違いありません」と載せた。ちなみに会食の場所も「中居氏の自宅マンション」と書いている。飲食店だと思っていたが自宅だったことに驚いたことを読者として覚えている。
このように少なくない読者は報道の変化(より詳しい状況説明)に気づいたが、世の中的には中居氏とX子さんの当日のきっかけをつくったのはフジテレビのA氏、となった。文春の影響力を考えれば当然だろう。
すると1月27日に文春は橋下徹氏のインタビューを電子版に載せた。橋下氏は「しれっと誤りを上書きするのは不誠実」と指摘。こうして文春は訂正を追記し、お詫びをした。これが時系列である。
ポイントはやはり橋下氏の言う「しれっと」だろう。これだけA氏の当日の関与が焦点になっていたのだから文春は「誘ったのは中居氏」と分かった時点でもっと早く説明をすべきでなかったか?
念のために書いておくと、私たち読者は簡単に「裏付け」とか「取材」と言うが、記者やジャーナリストから「取材してもミスや間違いがつきもの」と以前から聞いていた言葉も思い出した。いくら取材を尽くしても、締め切り等に追われ、どうしてもミスや誤報を免れることができない。
だから発覚したらすみやかに訂正、修正し、場合によっては経緯を説明して謝罪するのがメディアの大原則であると。それがメディアの信頼性を担保することになると。
そういえば文春の第一弾は正月の合併号だった。締め切りのタイミングもあったのだろうか? 女性セブンの初報に乗っかりすぎた面はなかったか? その点もくわしく知りたいところだ。
違和感といえばこれも書いておこう。文春が記事を訂正したことで「中居・フジテレビ問題」報道は意味がないという論調も見かける。文春は廃刊すべきという声もある。では、そもそもX子さんはA氏の誘いをなぜ断れなかったのか?
X子さんは、
「向こうは番組を作る側、キャスティングする側だから私たちに拒否権はないじゃないですか。(タレントへの接待に)行くしかないみたいな感じで。それが許される社会になっちゃったらいけないよな、って思います」
「私と同じような被害に遭っている子がいます」
と文春の第一報から述べている。
事件前にX子さんは、3回ほどA氏に誘われ、中居氏らと酒席を共にしており、ある日飲み会の場所へ向かうタクシーの中でX子さんは「こういう会に参加して損はないからさ。仕事に確実につながるからさ」とA氏に言われたことを証言している(1月30日号)。
絶対的な権力を持つ上司から言われたら……。被害者が仕事上断りづらい構図が背景にあったからでは? という重大な論点がある。だからこそ「(事件は)Aさんがセッティングしている会の“延長”だったことは間違いありません」とX子さんは認識しているのだ。絶望的な権力勾配についても問うているのである。
さらにA氏の上には港浩一社長がいて、港氏が出世した背景にもフジテレビの接待文化があったのではないかという指摘や、港氏の上には日枝久氏が36年間もトップに君臨というメディアとは思えない不健全な姿が見えてくる。
3年前に文春は『日テレ高視聴率でもフジが統一教会を報じない理由』(8月18・25日号)として、「現在もフジサンケイグループの代表を務める日枝久氏は、安倍晋三元首相と会食やゴルフを重ねるなど親しい間柄。また、産経にはかつて合同結婚式の広告が載ったこともありました」というフジ局員の証言を載せていた。以前からメディアとしてのありようを問われていたのだ。やはりフジテレビ問題(メディアの問題)は存在するのだ。
最後に書いておくと、今回の文春の訂正の騒動を見て私は11年前のメディアの出来事を思い出した。朝日新聞の慰安婦問題での訂正・記事取り消しである。
朝日は韓国で女性を慰安婦にするため強制連行したと証言してきた吉田清治氏の記事を取り消した。「証言」は虚偽だったからである。吉田証言に対する疑念は他のメディアで指摘されてきたが、朝日は初めて掲載してから30年以上経った2014年になって突然記事を取り消した。あまりにも遅かった。
しかしある意味攻めの姿勢も感じた。一つのミスを訂正しなければ他の記事まで否定する人々がずっといるだろうからだ。このミスは認めるが「慰安婦問題」は存在する、という宣言にも見えたのである。ところが朝日はその後のバッシングに明らかに腰が引け、今もネットの批判を気にしているように見える(朝日にいた記者らも証言している)。
つまり文春はどうなのか。一つのミスを認めたことで逆にそれ以外の記事は正しいと宣言したことにもなる。しかしバッシングによって朝日新聞のようにファイティングポーズをおろしてしまうことはないか? 自分が問題だと思ったことを追い続けることができるのか。そこが今後の最大の見どころだと私は注目している。
プチ鹿島
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