( 260236 ) 2025/02/04 17:22:12 0 00 ロレンソ・ゴンカルべス氏(クリーブランド・クリフス社公式YouTubeより)
いまだ先行きの見えない、日本製鉄によるUSスチール買収計画。一方で意気軒昂なのが、買収の“横取り”を狙うライバル企業だ。日鉄どころか日本にまで食ってかかる“厄介者”CEOの隠したい過去とは。
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「日本よ、気を付けろ! この身の程知らずが。1945年から何も学んでいない。米国がいかに慈悲深く、寛容であるか……」
そうがなり立てるのは、米製鉄会社クリーブランド・クリフスのCEO、ロレンソ・ゴンカルべス氏だ。
1月13日の記者会見で、冒頭のような“自説”を2時間近く披露。星条旗をバックに激語する姿が、日本でも大きく報じられた。
「ク社は米国で2番手の製鉄会社。自力再建困難とみられるUSスチールの買収に名乗りを上げていましたが、企業規模が圧倒的に大きい日鉄に競り負けました」(現地記者)
そのク社が息を吹き返したのが、1月3日のバイデン前大統領による買収中止命令。もし日鉄による買収が水泡に帰しク社がUSスチールを手にすれば、米国最大の製鉄企業となる。
好機を逃すまいとゴンカルべス氏は再度の買収を計画し、日鉄、ひいては日本にも敵意をあらわにしたのだ。
会見では「寄生虫」とまで日本をののしったゴンカルべス氏とは一体、いかような“身の程”の御仁なのか。
「いわゆる“成り上がり”です。ブラジルの鉄鋼会社の一社員から、今や年収2000万ドル(約30億円)を下らない大金持ちにまで上り詰めました」(前出の記者)
1958年、リオデジャネイロの貧困地域に生まれた同氏。父は「不在がち」な中で、教師の母に育てられた。奨学金をもらいながら大学に通い、同時に弟を進学させるために高校教師としても働く苦学生だった。
「学業は優秀で、国営の製鉄企業に就職しています。しかしブラジルの汚職政治に憤りを覚え、渡米して転職。当時から野心家で知られ、いくつかの製鉄会社でCEOを歴任するなど、出世を重ねました」(同)
しかし“アメリカンドリーム”をつかんだおごりからか、次第に言動は傲岸不遜なものになっていく。
「2014年にク社のCEOに着任すると、気に食わないアナリストの質問を無視するなどし、物議を醸しました。ク社の株価が下落すると予測した投資家には“自殺することになるぞ”と言い放ったことも」(米経済アナリスト)
批難されても「私は紋切り型のCEOとは違う。気に入らないならそれでいい」と人を食った答え。
19年には、こんな“汚点”を地元紙にすっぱ抜かれた。
「過去に経営に携わっていた会社で、部下の女性にセクハラをして訴訟を起こされていたのです。訴状によれば、ゴンカルべス氏は女性社員を無理に引き寄せ、胸に触ったうえ顔をうずめるなどしたとか。会社は和解するために、女性に30万ドル以上(約4500万円)を支払っています」(同)
また、近年ク社の業績は悪化の一途をたどっており、経営者としての実力にも疑問符が付き始めている。そのため現地メディアからも「USスチールを買いたたきたいだけの滑稽な行動」と、“激昂会見”には冷たい視線が向けられているのだ。
米政治外交が専門で同志社大学大学院准教授の三牧聖子氏は、ゴンカルべス氏の意図をこう見透かす。
「買収の成否は、トランプ大統領が中止命令を継続するか否かにかかっています。トランプ支持者を意識したナショナリズム的な発言をすることで、今後大統領が翻意しないようアピールしているのでしょう」
恥を忘れた“成り上がり”に話をかき回されては、たまったものではない。
「週刊新潮」2025年1月30日号 掲載
新潮社
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