( 260244 )  2025/02/04 17:33:39  
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1990年代に始まった日本の経済停滞「失われた三十年」の主因は、バブル経済崩壊から起こったデフレを政府が適切に対処しなかったことである。

1990年代初頭には公共投資などの経済対策を行いデフレを回避していたが、その後財政支出が抑制され、消費税増税も行われたことでデフレが起こり、経済が成長しなくなった。

日本は財政支出を拡大していないが、政府の支出と民間の収支は表裏一体であるため、デフレにより企業は貯蓄を増やし政府部門が赤字になり、財政赤字が増大した。

政府は財政支出を抑制しようとすると国民所得が減少し、結果的に財政赤字が増大し続けた。

日本は貨幣循環理論を応用し、デフレから脱却し、経済成長のために財政支出を拡大する必要があると指摘。

(要約)

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日本が陥った「失われた30年」。その主因は 財政支出を抑制したからだった――。中野剛志氏が解説する。 

 

1990年代から始まった経済停滞。「失われた三十年」の主因は、バラマキではなく緊縮財政だった――。書籍『入門 シュンペーター』より解説する。 

 

※本稿は、中野剛志著『入門 シュンペーター』から一部を抜粋・編集したものです。 

 

1990年から続く日本経済の長期停滞、「失われた三十年」の発端は、1990年代初頭の資産価格の暴落、いわゆるバブル経済の崩壊です。 

 

当初、日本政府は、公共投資の拡大などの経済対策を講じていました。まさに、政府が需要を創造し、貨幣供給を増やしていたわけです。 

 

これは、規模は不十分だったかもしれませんが、デフレ対策としては正解です。おかげで、1990年代半ばまでは、なんとかデフレにはならず、経済も成長していました。 

 

ところが、1996年に成立した橋本龍太郎政権は、公共投資の拡大によって増加した財政赤字に恐れをなし、これを縮小すべく、財政支出を抑制し、さらに消費税率を3%から5%へと引き上げました。 

 

しかし、貨幣循環理論が明らかにしたように、財政支出の抑制とは、政府の資金需要を減らし、貨幣供給を減少させることです。そして、消費税の増税とは、貨幣を破壊するために経済から引き抜いてくることです。つまり、デフレを引き起こすということです。 

 

その結果、日本経済は、1998年から、理論どおりにデフレに陥ってしまいました。 

 

それにもかかわらず、2001年に成立した小泉純一郎政権以降、財政支出の抑制は続けられました。それどころか、2010年代には、安倍晋三政権の下で、消費税率が5%から8%へ、さらには10%へと引き上げられました。これではデフレから脱却できず、経済も成長しなくなって当然でしょう。 

 

貨幣循環理論やシュンペーターの貨幣理論を応用することで導き出せる結論は、デフレから脱却し、経済を成長させるために必要だったのは、財政支出の拡大だった、ということになります。 

 

 

このように言うと、やはり違和感を覚える人が少なくないかもしれません。 

 

なぜなら、「財政政策では経済は成長しない」とか「これまで、さんざんバラマキをやってきたけれど、政府債務がふくらんだだけで、経済は成長しなかった」とかいった主張が広く流布されているからです。 

 

ですが、朴勝俊・シェイブテイル『バランスシートでゼロから分かる 財政破綻論の誤り』(青灯社、173ページ)の図によると、1997年から2017年までの20年間、主要31か国の中で、日本は、経済成長率が他のどの国よりも低いだけではなく、政府支出の伸び率も最低レベルの国なのです。 

 

少なくとも、「日本政府は、これまで、さんざんバラマキをやってきた」という前提が間違いであることは確かなようです。財政支出を拡大しても無駄かどうかを問う前に、そもそも、日本は、財政支出をほとんど拡大させていないのです。そして、他の主要三十か国は、日本よりもはるかに財政支出を拡大させています。 

 

日本は、世界に冠たる緊縮財政国家であったのです。 

 

では、日本はこれほど財政支出の抑制に努めてきたのに、どうして、財政赤字は拡大し、政府債務は増大してきたのでしょうか。説明しましょう。 

 

そもそも、経済全体で考えると、誰かの債権は別の誰かの債務であり、誰かの黒字は別の誰かの赤字に必ずなります。全員が黒字になることはできません。 

 

そうすると、次の式が成り立ちます。 

 

「民間部門の収支」+「政府部門の収支」+「海外部門の収支」=0 

 

説明を簡単にするために、海外部門の収支を無視すると、こうなります。 

 

「民間部門の収支」+「政府部門の収支」=0 

 

このように、「民間部門の収支」が黒字ならば、その裏返しで、「政府部門の収支」は赤字になるはずです。 

 

デフレになると、企業は投資をせずに貯蓄に走らざるを得なくなり、「貯蓄超過/投資不足」になります。つまり、経済全体で見ると、「民間部門の収支」は黒字になるのです。 

 

そうすると、当然の結果として、その裏返しで、「政府部門の収支」は赤字になります。民間部門の貯蓄超過と政府部門の債務超過は、表と裏の関係なのです。 

 

言い換えれば、デフレで企業が投資できずに貯蓄超過でいる限り、政府債務が減るはずがないのです。1997年から20年間、政府支出を抑制してきたのに財政赤字が拡大してきたのは、デフレだったからだということです。 

 

したがって、財政赤字を削減するには、デフレを脱却して、企業が積極的に投資を行なうようになり、民間部門が投資超過になるようにすればよいのです。 

 

それにもかかわらず、デフレで民間部門が貯蓄超過になっているのに、無理やり、政府部門の赤字を減らそうとしたら、国民所得が減るという形で減らすしかありません。 

 

しかし、それは、恐慌を引き起こすということです。民主国家の政府では、そんな国民を犠牲にする乱暴な政策を強行することはできません(そもそも、そんなことを強行する意味もないのですが)。だから、日本政府は、財政赤字をなかなか減らせないのです。 

 

というわけで、日本の財政赤字の拡大は、財政支出を過剰に拡大し続けてきたからではなく、その逆に、財政支出の拡大が不十分だったからだということになります。 

 

中野剛志(評論家) 

 

 

 
 

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