( 260259 ) 2025/02/04 17:52:29 1 00
職場の飲み会や懇親会の離れが進んでいる状況について述べられています。 |
( 260261 ) 2025/02/04 17:52:29 0 00 広がる職場の飲み会・懇親会離れ(写真はイメージ、jazz3311/Shutterstock.com)
■ コミュニケーションを円滑にするための親睦会のつもりが…
芸能界を引退した中居正広さんの女性トラブルを巡る対応に関して、フジテレビは10時間超に及ぶ記者会見を行いました。
大きく世間を騒がせることになった今回の一件は、プライバシー保護や第三者委員会に調査を委嘱している関係から詳細がつかみにくい面はあるものの、単なる芸能スキャンダルの一つではなく、組織のガバナンスや人権侵害など重大な問題を含んでいることが広く認識されていると感じます。
その背景に見え隠れするのが、仕事関係者が集まって飲食などを共にする親睦の場の存在です。フジテレビの一件もバーベキューパーティーがトラブルにつながるきっかけの一つだとする報道がありますが、仕事関係者がコミュニケーションを円滑にするための手法としてオフサイトで親睦を図ること自体は、決して珍しいことではありません。
しかし、それがきっかけで大問題に発展してしまうような事態を目の当たりにすると、「職場のみんなで飲みに行きたいけど、仕事以外で集まったりすると不適切かな……」などと飲み会などを企画するのも身構えてしまいそうです。
これまで普通だったことがやりづらくなり、難しい時代になったと感じてしまう人もいるかもしれません。もはや飲み会や懇親会は、やらない方がよいのでしょうか。
■ “飲みニケーション”は「ケ」から「ハレ」に移行
サービス産業の生産活動について、経済産業省が活発さを示す指標として付加価値額などを基に算出し公表している第3次産業活動指数によると、2015年を100とした場合、2023年の「パブレストラン・居酒屋」の指数は56.5にとどまります(別掲グラフ参照)。
コロナ禍真っただ中の2021年には26.7まで下がっていただけに上昇傾向ではありますが、それでも半分強の水準までしか戻っていません。また、10年前の2013年の指数は112.6でした。それが2014年に106、2015年に100、2016年は92.3と指数は徐々に下降傾向になっていたところにコロナ禍を迎えたという経緯があります。
アルコール離れが進み、「とりあえず飲みに行こう」とお店に出向く機会が減ってきている様子がうかがえます。
さらに、コロナ禍のころに入社したZ世代の人たちはずっと外出自粛を要請された環境の中で仕事してきただけに、それまでの世代と比べて職場の人とお酒を飲みに行く機会が極めて少なかったことと思います。そこに社会全体にみられるアルコール離れの傾向も加わって、職場の人たちと頻繁に飲みに行くという雰囲気になじまなくなってきていると感じます。
かつては何かにつけて頻繁に行われていた飲み会の存在感が薄まっていくと、職場の人たちと一緒にお酒を飲む機会は数カ月に一度行われる会社行事などに限られるようになり、特別な出来事となっていきます。仕事関係者たちとお酒を飲みながら親睦を深める“飲みニケーション”の位置付けは、ケ(日常)からハレ(非日常)へと移ってきているということです。
これは、昭和から平成初期にかけて社会人デビューし、稼いだ給与をひたすら酒代に費やしてきた人がわんさかいるミドル層やシニア層からすると、かなり衝撃的な出来事かもしれません。ただでさえ、VUCAと言われるほど環境変化の激しい時代。仕事においても、仕事から離れてもゲームチェンジを強いられる板挟み状態はハードです。
■ 「親睦=お酒」のイメージはリセットしなければならない
だからといって時代の波に逆らって、仕事終わりの部下や若手社員に“当然来るだろ?”というニュアンスを込めて「仕事終わったなら飲みに行くぞ!」などと声をかけるのは勇気が要ります。さらには、パワハラだセクハラだと厳しい目も職場内外で飛び交っています。
お酒が入った席で上機嫌になり、「こっちに来てお酒注いでよ」とか「キミみたいな子が好みなんだよ」などと調子に乗って気安く発した言葉ややりとりの一部始終が録画・録音されていて後で問題になるなどということも想像される世の中になりました。
飲みニケーションが“ケ”だった世代の上司たちからは、「なんともやりにくい世の中になった」という声も聞こえてきます。では、そんな上司たちは部下たちとどのように親睦を深めていけばいいのでしょうか。気をつけるポイントとして3点挙げたいと思います。
まず、自分が好きだからといって、みんな飲み会が好きだとは思わないことです。当然ながら、お酒が苦手だったり全く飲めなかったりする人もいます。飲みニケーション世代にとっては物足りなく感じるかもしれませんが、「親睦=お酒」というイメージはリセットしなければなりません。
また、お酒を飲む場合はどうしても夜になるので帰宅時間が遅くなりがちです。例えばランチ会であれば、お酒がなくてもおいしい食事を共にしてリラックスしながら親睦を図ることができます。
今は性別関係なく仕事と家庭の両立に取り組む時代へと移り変わる過渡期だけに、男性も含めて遅い時間まで拘束される飲み会だと参加が難しい人が増えつつあります。その点、ランチ会であれば比較的参加しやすいかもしれません。
■ 気持ちが乗らない部下が断りやすい「誘い方」とは?
次に、自分が楽しむためではなく、親睦のために場を設けること。飲みニケーションが好きな人は、親睦と言いつつも本音は自分がお酒を飲みたいという思いの方が強かったりすることがあります。そういう感情は言葉にしなくても、「あの人、お酒すきだからなー」などと思われたりして部下には伝わっているものです。
中には飲みニケーションを上司と仲良くするチャンスだと前向きに捉える部下もいると思いますが、断りづらくて渋々付き合う人もいます。上司が自分が楽しむために行う飲み会は一見和気あいあいとしているように見えても、実は心から楽しんでいるのは上司だけで、後で部下だけで飲み直しているなんてことも珍しくありません。
親睦が目的なのであれば、自分ではなく参加者全員が主役として楽しめる場にすることです。
また、業務の一環として強制参加とする一方で賃金も支払われる場合を除き、親睦目的の場はあくまで自主参加が基本。しかし、上司から直々に誘われれば断りづらく感じる人もいるものです。「今から飲みにいくけど、キミも来るよな?」などと投げかけられれば、上司にそのつもりはなくとも部下側は威圧的に受けとってしまうかもしれません。
「飲みに行くけど、もし都合があうなら一緒に行く? 無理はしなくていいよ」などと、できる限り強制と受け取られにくい言い回しにしたり、直接声をかけるのではなく一緒に行くことがすでに決まっている他の部下から声をかけてもらうなど、気持ちが乗らない人が断りやすい雰囲気をつくる配慮は大切です。
また、それらの配慮をしてもなお断りきれない部下はいるかもしれません。飲み会に来たのだから、集まっているのは酒を飲みたい人ばかりだと決めつけるのも要注意です。本心では帰りたいと思っているのに、断ることができずに参加している部下もいる可能性を頭に入れておく必要があります。
配慮配慮といろいろ考えていると面倒くさくなって「もう飲みに誘うのなんてやめよう」と思ってしまいそうですが、飲みニケーション全盛期には、そういった配慮がなさすぎた面もあります。
■ 親睦の目的をはき違えると大問題に発展しかねない
最後3点目は、日常の中で交わされる職場でのコミュニケーションこそ大切にすることです。
今はワークライフバランスや副業を推進する職場が増えるなど、勤務時間外まで束縛することへの拒絶感が強くなってきています。仕事終わりに行う飲みニケーションは、オフサイトだからこそ胸襟を開いて親睦を深めることができる面もあるとはいえ、それがしにくい環境になってきています。
上司と部下が一対一で定期的に話し合いの場を持つ1on1ミーティングを取り入れる職場も増えました。そのように日常業務の中にあえてコミュニケーションの場を設けることも一つの方法です。
ですが、最も重要なのは業務指示や打ち合わせといった仕事上のコミュニケーションを通じて信頼関係を深めていくことに他なりません。「あれ、うまくやっといて」などと、何をどうすればよいのか分からないぞんざいな対応ではなく、丁寧に節度を持って接する姿勢は大切です。オフサイトでの親睦を気軽に図れる世の中とは言えなくなってきているからこそ、オンサイトでの日ごろの振る舞いの重要性がより増してきています。
職場関係者と親睦を図る目的は、より良い仕事をするためにコミュニケーションを円滑にする関係性を職場内に構築することです。決して、個人同士が仲良く親密になることが目的ではありません。
もちろん、仕事関係者と親睦を図ったことがきっかけとなって個人的に仲良くなるのも良いことだとは思いますが、それはあくまでプライベートな領域です。仕事上の目的とは切り離して考えなければなりません。
特に仕事にまつわる力関係に絶対的な上下があるような場合は、危険ですらあります。その点、フジテレビの一件は大切な教訓です。仕事関係者との親睦の目的をはき違えるとセクハラやパワハラ、ひいては人権侵害や組織を揺るがす大問題に発展しかねないことを肝に銘じておく必要があるのではないでしょうか。
川上 敬太郎
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