( 260269 )  2025/02/04 18:07:24  
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2030年ごろに、首都圏の不動産市場は大量の相続によって供給が増える可能性があると不動産事業プロデューサーの牧野知弘さんが指摘している。

東京都でも人口減少が進行し、死亡者数が増えることで相続が増加する見込みだ。

首都圏の持ち家の相続対象物件数が増える中、不動産マーケットへの影響が大きくなると予想されている。

地域的には、最初に相続の影響が出るのは東京23区の一部で、特に高齢者所有者が多いエリアで相続が進行する見込み。

また、ニュータウンでも相続による空き家や売却物件が増える可能性があり、将来的なゴーストタウン化のリスクも指摘されている。

これにより、不動産市場が大きく変化する可能性が高く、現在の不動産神話や持ち家志向が変化していく時期に差し控えている。

(要約)

( 260271 )  2025/02/04 18:07:24  
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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke 

 

高騰が続く首都圏の不動産市場は今後、どうなっていくのか。不動産事業プロデューサーの牧野知弘さんは「2030年にかけて大量相続問題が表面化し、東京23区を皮切りに首都圏3県の中古・賃貸マーケットに大量の戸建て住宅やマンション住戸が供給されるだろう」という――。(第3回/全3回) 

 

 ※本稿は、牧野知弘『新・空き家問題――2030年に向けての大変化』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。 

 

■東京でも「人口減」が始まっている 

 

 首都圏で確実に発生する大量相続。そして多額の相続税を支払うため、あるいは自身では所有し続けて居住する予定のない戸建て住宅やマンション住戸が売却されます。売却しないものでも賃貸として運用するために賃貸マーケットに登場します。 

 

 今時点ではまだ絵空事のように思えるかもしれませんが、いつまでにどのようなシナリオで大量の中古住宅がマーケットに登場してくるのでしょうか。 

 

 東京都政策企画局「2060年までの東京の人口推計」によれば、東京都人口の自然増減(出生数-死亡数)はすでに減少に転じています。2011年から2015年ではほぼ増減なしでしたが、2015年から2020年で15万人の自然減です。 

 

 今後は2020年から2025年で25.6万人、2025年から2030年で33.5万人、2030年から2035年には40.6万人の減少となります。 

 

■死亡者がどんどん増え、相続が大量発生 

 

 死亡数については、2006年から2020年までの15年間で172.5万人であったものが、2020年から2035年では243.7万人と40%もの増加となります。【図表1】 

 

 2020年から2035年の死亡数は、年平均で16万人です。ちなみに2020年が12万人ですから、今後加速度的に死亡数が増えていくことが想像されます。 

 

 高齢化の進展が速い他の3県も含めて考えると首都圏では2020年の死亡数33万9000人がこの先15年平均で30%から40%増加していくことが想定されます。数にして45万人から50万人程度、15年間で675万人から750万人の相続が発生することになります。 

 

 

■「相続した家」が不動産市場を席巻する? 

 

 首都圏の持ち家率はおおむね55%(関東大都市圏)ですから、今後15年間で370万〜413万件の自宅が相続対象物件となります。年平均で25万〜28万件です。このうち、どのくらいの割合で不動産マーケットに登場するかはわかりませんが、かなりのインパクトをおよぼすことは間違いありません。 

 

 なぜなら、現在の首都圏における新築マンション供給戸数はわずか2万7000戸弱、中古マンション成約件数は3万6000戸弱、中古戸建て住宅成約件数は1万3000戸弱、合計約7万6000戸にすぎません。相続対象物件の3割がマーケットに新たに登場してくるだけで8万戸。その供給圧力の大きさが想像できます。 

 

 この計算はあくまでも年平均にすぎません。現実的には年が進むにしたがって、供給量が増えていくものと考えられます。 

 

■東京23区の中で最初に動きがあるのは… 

 

 すでに首都圏では東京都を除く3県では人口の減少が始まっています。東京都ですら都全体人口は2025年、都区部に限っても2030年が人口のピークとされています。 

 

 世帯数こそ増加を続けてきていますが、今後は若年人口の減少、高齢者単独世帯の死亡等による減少など人口増だけでなく世帯数増を保っていくことにも限界があります。2030年を軸に前後3〜5年にこの大量相続問題が世間を賑(にぎ)わせるようになるはずです。 

 

 地域的には、まず都区内の住宅地がスタートです。世田谷区、目黒区、文京区、杉並区、大田区、練馬区などの戸建て住宅がポロポロと売りまたは賃貸に出てきます。 

 

 戦後まもなくに東京に出てきた人たちが最初に家を構えたのがこの近辺です。戦前・戦中世代の所有者が多いエリアです。この人たちはすでに80代半ばから90代。ここ5年から10年でほぼ確実に相続が発生していきます。 

 

 このエリアは比較的富裕層が多いので、相続人がそのまま所有を続けるケースも考えられますが、相続税の納税用に売却する、賃貸マンション、賃貸戸建てとしてリニューアルを施して運用するなどの事例が多発しそうです。 

 

 

■ニュータウンのゴーストタウン化が進む 

 

 さらにこの流れは3県のニュータウンに広がります。団塊世代以降は急速に地価が上昇した東京を離れ、1980年代から1990年代にかけて郊外ニュータウンに家を構えました。この世代で相続が発生すると、すでに流動性を失っているエリアでは空き家が増加。そうでないエリアでは売却物件が急増するものと考えられます。 

 

 団塊世代以降で相続が発生し出すのは2035年前後からです。この頃になると3県の人口減少は顕著になります。ニュータウンでもよほど特徴のあるエリアでなければ、家の流動性を確保できるところはごくわずかになります。ましてや賃貸需要も望み薄なので、ゴーストタウン化が進むところが多くなるでしょう。 

 

 不動産マーケットを彷徨(さまよ)うことになるのは戸建て住宅ばかりではありません。三菱UFJ不動産販売の調べでは首都圏のマンションストック数は東京都の200万戸を筆頭に1都3県で395万戸に達していますが、このうち築30年超のマンションが152万7000戸存在します。 

 

 これらのマンションのほとんどが2030年には築40年超になります。都心物件はともかく、郊外にある多くの築古マンションで相続などをきっかけに賃貸や売却に供される住戸が多数登場してきます。空き住戸にしていると、管理費や修繕積立金の支払いから逃れることができないからです。 

 

■「いつか値段が上がる」は裏切られる 

 

 「家は資産」という日本人のDNAにしっかりと組み込まれてきた不動産神話が崩壊するのが、これからわずか5年から10年で起こる現実なのです。 

 

 持っていればまた上がるかもしれない、家の片づけが面倒なのでとりあえず空き家にして管理していればよい、などと問題の先送りを続けていると、どうでしょうか、いざ処分をしたいとなった時に不動産マーケットはその姿を大きく変えている可能性が高いのです。 

 

 個人住宅空き家は、首都圏にあっても近い将来出口を見つけることができない負動産化するリスクが年々増していく存在です。空き家は早めに出口を探しておかなければ将来さらに厄介者になります。 

 

 でも見方を変えると、これまで人生で得られるはずの収入のほとんどを住宅購入に注ぎ込んでいた日本人にとって、家なんてどこにでもある単なる消費財となる時代がすぐそこまで来ていると言い換えることができます。次世代にとっての住宅を考えてみましょう。 

 

 

■いまの30〜40代の人生と価値観 

 

 現在、社会の働き手から昭和世代が徐々に退場を始めています。企業のなかでバリバリと前線で働く30歳から40代の多くが、ミレニアル世代と呼ばれる1981年から1995年生まれの人たちです。人口は約2000万人。彼らの父母が購入した大都市郊外の家で育ち、都心部の学校を卒業、就職した世代です。 

 

 基本的に大都市から出た記憶はなく、育った環境もほぼ同じ。夫婦共働きは当たり前で都心居住志向。なるべく良い学校に入り、良いと世間で言われている会社に就職。新築、中古のこだわりはあまりないものの、家は買うものと考えていて、彼らの親世代からは考えられないほど高額になったマンションでも夫婦でペアローンを組んででも買う。 

 

 自分たちが育った郊外に住むことは眼中になく、都心部のできれば将来値上がりしそうなマンションを選択。会社までの通勤時間という無駄をなるべく省きたいと考えます。 

 

 特に出世したい意欲もないけれど、人生無事、恙(つつが)なく生きていきたい。思想も、どちらかと言えば親世代よりも保守的。今の暮らしが満足であればよく、海外に積極的に出かけようとも思いません。 

 

■親世代との共通点は「持ち家志向」 

 

 仕事よりも家庭を重視する傾向にあり、男女平等は当たり前、会社の飲み会よりも家に帰って家族で過ごすことを優先する世代でもあります。 

 

 会社ではコンプライアンス重視、ハラスメントはもってのほか。体育会系イケイケのオヤジ上司には、表面上はへつらっていても内心ではバカにしています。基本的には会社に忠実ですが、無理に売上、利益を上げようとも思っておらず、嫌ならあっけなく辞めて別の会社に転職することも辞さない。 

 

 恋愛にも積極的ではなく、おひとりさまはごく普通の存在。むしろ恋愛にかかわることで起こるゴタゴタや傷つけあいは避けたいと考えています。 

 

 家族や仕事に対する価値観は、彼らの親世代にあたる昭和世代とはだいぶ異なりますが、共通するのは家を持つ、という持ち家志向でしょうか。 

 

 

 
 

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