( 260506 ) 2025/02/05 05:32:19 0 00 自動車(画像:写真AC)
2025年4月から、運転免許の取得過程が変更される。これまで、MT(マニュアル・トランスミッション)免許を取得するには最初からMT車で教習を受ける必要があった。しかし、新しい制度では、まずAT(オートマチック・トランスミッション)車で基本的な運転技術を習得した後、MT車に乗り換えて教習を行う形式に変わる。
そもそも、MT免許の意義とは何か、そしてこれからの時代にMT車がどのように位置づけられるべきかについて、慎重に考察する必要がある。
「20歳のカーライフ意識調査」の結果。1000人から有効な回答を得た(画像:ソニー損害保険)
かつて、普通免許といえばMT免許が一般的だった。しかし、AT車の普及にともない、「AT限定免許」の需要が高まり、その人気は増している。
ソニー損害保険(東京都大田区)は2025年1月7日、20歳のカーライフ意識調査の結果を発表した。この調査は2004年4月2日から2005年4月1日生まれの人々を対象に行われ、1000人から有効な回答を得た。調査結果によると、
・普通自動車免許を持っている(オートマ限定):40.6% ・普通自動車免許を持っている(マニュアル):12.9%
で、合計した運転免許保有率は53.5%となった。
また、「現在、教習所へ通っている(オートマ限定)」は3.4%、「現在、教習所へ通っている(マニュアル)」は1.8%、「時期は決まっていないが、取得予定」は23.1%で、合計した運転免許取得予定は28.3%だった。
免許の種類を男女別で見てみると、女性では「普通自動車免許(オートマ限定)」が46.4%と、男性(34.8%)よりも11.6ポイント高くなり、男性では「普通自動車免許(マニュアル)」が18.0%と、女性(7.8%)よりも10.2ポイント高い結果となった。
MT免許を取得する理由としては、いくつかの要素が挙げられる。まず、職業上の必要性だ。トラックや一部の業務用車両はMT車であることが多く、そのため運送業や特定の職種ではMT免許が必須となる場合がある。次に、車好きとしてのこだわりがある。スポーツカーや一部の商用車では、MT車特有の運転の楽しさがあり、趣味的な理由でMT免許を取得する人も少なくない。また、海外での運転を考慮した場合も理由の一つとなる。特に欧州ではMT車の割合が高いため、海外で運転する機会があれば、MT免許を取得することで選択肢が広がる。
今回の制度変更により、MT免許の取得は以前よりも少し面倒になるが、ハードルが下がる可能性もある。しかし、それが「MT免許の価値が高まる」ことを意味するのか、それとも「MT車がますます希少になる」ことを意味するのかは、慎重に見極める必要がある。
自動車(画像:写真AC)
MT車の市場価値はどう変化するのか
MT車の市場シェアは年々減少している。AT技術の進化により、燃費や走行性能の面でMT車の優位性が薄れ、一般的な乗用車はほとんどAT化された。スポーツカーや一部の商用車を除けば、現在、新車でMT車を選べる機会はほとんどなくなっている。自動車メーカーも市場の需要に応じてラインナップを調整し、今後もMT車の生産台数は減少する見込みだ。
一方で、MT車の市場価値が逆に「上がる」可能性もある。それは主に
・希少性 ・こだわり
の観点からだ。例えば、絶版となったスポーツカーのMT車は中古市場で高値を維持しており、新車での選択肢がさらに減少すれば、MT車を求める人々にとってその価値はますます高くなるだろう。特にトヨタの「GR86」やマツダの「ロードスター」のようなライトウェイトスポーツカーでは、MT車の需要が一定数存在しており、これらの車両は希少価値が高まる可能性がある。
また、商用車においても、「MTのほうが耐久性が高い」と考えるユーザー層が一定数存在しているため、特定の用途ではMT車の需要が今後も続くと予想される。
自動車(画像:写真AC)
2025年4月からの教習制度の変更により、MT免許取得者が増える可能性もあるかもしれない。しかし、それがMT車の普及に直結するかどうかは疑問だ。
むしろ、次のような影響のほうが大きいかもしれない。
新制度では、最初にAT車で基本的な運転技術を学び、その後でMT車を操作することになる。この方式では、MTの運転技術が後回しになり、
「MT車を扱う技術」
がこれまで以上に軽視される可能性が高い。その結果、MT免許を持っていても、実際にMT車に乗る機会が減少し、操作に対する不安を感じる人が増えるかもしれない。
また、商用車業界への影響も無視できない。依然としてMT車が求められる業務も存在するが、新制度で育成されたドライバーがMT車を運転する機会が減少すれば、企業側もMT車を避けるようになる可能性がある。実際、トラック業界ではAT車の比率が高まっており、大型トラックでもAT化が進んでいる。MT免許の取得ハードルが下がったとしても、それを活かす場が減れば、
「MT免許の必要性そのもの」
が薄れてしまうだろう。
自動車(画像:写真AC)
2025年4月以降、MT免許は面倒になるが、ハードルは下がる可能性があるが、それがMT車の復権に繋がるわけではない。むしろ、MT車が市場から減少し続ける流れは変わらないだろう。
一方で、以下のような可能性も浮かび上がる。スポーツカーや趣味の車としてのMT車の希少価値が高まり、商用車においても一部の業種でMT車が残るものの、その割合は減少する。さらに、MT免許を持っていても実際にMT車に乗る機会が少なくなることで、技術的な意味でのMTの価値が下がる可能性もある。
その結果、MT車は「実用的な選択肢」ではなく、「こだわりを持つ人の選択肢」としての性格が一層強くなるだろう。
2025年以降、MT車の所有は「機能的なニーズ」ではなく「趣味的な選択」へと変わるかもしれない。そして、MT免許の価値も「必須のスキル」から
「こだわりの証明」
へと変化していくことが予想される。
大居候(フリーライター)
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