( 261094 )  2025/02/06 14:59:33  
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兵庫県知事の斎藤元彦が、パワハラ疑惑を受けている百条委員会で証言する中、1月18日に亡くなった元兵庫県議の竹内英明氏を意識している様子が伝えられている。

竹内氏の死はSNS上での中傷が影響している可能性が指摘されており、県内の市長からも調査が求められているが、斎藤知事は消極的な姿勢を見せている。

報道や知事との取材で、斎藤知事は型にはまったコメントや一般論ばかりで具体的な回答を避け、問題について深く語らずにいる様子が報じられている。

斎藤知事の対応については、公職者としての責任感を示していないとの指摘や疑念が報道されており、竹内氏が自己の体験や災害支援に関心を持っていた過去も取り上げられている。

(要約)

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百条委の証人席に向かう斎藤元彦知事。目の前の竹内英明元県議(前列左、1月18日に死去)を意識しているように見える 

 

 パワハラなどの疑惑が追及されてきた斎藤元彦兵庫県知事。百条委員会の報告書は、2月定例議会に提出される見通しだが、事態はまだ沈静化していない。1月18日には元兵庫県議会議員で百条委の委員を務めていた竹内英明氏が亡くなった。自死の背景にはSNS上に拡散された竹内氏への誹謗中傷が指摘され、県内の市長からも実態調査を求める声が出ている。だが、斎藤知事は消極姿勢に終始したまま。なぜそこまで他人事のように振る舞うのだろうか。(文中敬称略) 

 

 (松本 創:ノンフィクションライター) 

 

■ 型通りの追悼コメント、凡庸な一般論 

 

 2024年11月の兵庫県知事選から始まったデマ拡散と誹謗中傷に追い詰められ、元兵庫県議の竹内英明が自死して2週間あまり。その選挙で再選を果たした斎藤元彦は、県政トップとして何を語ってきただろうか。 

 

 まず報道の翌日、1月20日の囲み取材だ。 

 

 「大変ショックを受けております。心からお悔やみを申し上げます」「率直で、時に厳しいご質問をいただいたが、兵庫をよくしたいという強い思いの表れだった」と、用意したコメントを読み上げた。 

 

 SNSの中傷に悩んでいたことを問われると、「人の心や気持ちを傷つけることはしてはならない。SNSは冷静な使い方が大事。県としても、条例制定に向けて誹謗中傷のない社会を目指したい」と述べた。 

 

 型通りで素っ気ない追悼コメント。SNS被害についても凡庸な標語のように一般論に終始している。 

 

 だが斎藤は、デマと誹謗中傷で竹内を攻撃した立花孝志(「NHKから国民を守る党」党首)との“二馬力選挙”で当選した、ある意味で問題の当事者である。知事の姿勢が問われている、もっと具体的に語ってほしいと記者たちは質問を重ねた。 

 

 竹内を誹謗中傷するアカウントの削除を要請するべきでは 

「竹内が逮捕目前だった」という無根拠な情報が広がっているが、やめるように呼びかけないのか  

立花のSNSの言動をどう見ているのか 

選挙で立花の応援を受けながら、その言動を他人事のように放置してきた帰結ではないか 

 

 それでも斎藤の答えは変わらない。「どのアカウントのことかわからない」「立花さんのSNSは拝見していない」と問題の本質から目を逸らし、頑なに一般論を繰り返すのみだった。 

 

 

 私もその場にいた。終了後、何人かの記者と話すと、「立花やその支持者の応援を失い、自分に矛先が向くことを恐れているのでは」という声が複数あった。中継動画を見たある県議は、「彼は完全に戻りましたね。百条委でわれ関せずの答弁を繰り返していた去年の夏頃に」と苦笑した。 

 

 1月25日にあった県と市町の懇話会では、市長会会長である酒井隆明(丹波篠山市長)から「竹内さんにどのような攻撃、誹謗中傷があったのか、きちんと調査・解明してほしい」と要望が出た。続いて川西市長の越田謙治郎が、SNSでの誹謗中傷を許さない声明を知事と市町長が共同で出すことを提案。斎藤も同意し、県が文案を作成することになった。 

 

■ 「原因究明まで踏み込めない」と斎藤 

 

 しかし、終了後の知事囲み取材のコメントは、やはり従来の一般論の域を出ていない。 

 

 共同声明を提案した越田は、竹内が姫路市議だった20年以上前からの友人で、県議時代は同じ会派で机を並べていた。声明の意図をこう語る。 

 

 「単に誹謗中傷はだめです、という一般論では意味がない。竹内さんが亡くなられた今回の事案にしっかり言及したうえで、事実に基づかない批判は誹謗中傷になるんだと訴えないと。 

 

 ただ、こういう呼びかけを知事一人に背負わせるのはリスクもあり、躊躇するのも理解できる。だからみんなで言いましょうと提案したんです。知事選での敵・味方に関係なく、首長職にあるわれわれが、それぞれの陣営に呼びかけることが大事だと」 

 

 越田の意図は理解できる。だが、知事選の最中ならまだしも、選挙後も県政の混乱と分断が収まらず、デマと誹謗中傷が飛び交い、犠牲者が出た今となっても目を逸らし続ける──直視しなければ問題は存在しないとでもいうような──斎藤の姿勢からは、知事という公職を担う責任感が感じられない。昨秋の不信任で指摘されたように、「知事の資質」に大きな疑念を抱かざるを得ない。 

 

 1月29日の知事会見で、私はあらためて問うた。市町との懇話会で求められた竹内への誹謗中傷の実態調査をしないのか。共同声明を出すにしても、それを踏まえるべきではないか。 

 

 だが、消極姿勢は変わらない。 

 

 

 「亡くなられた原因の解明は、極めてプライベートな部分に踏み込むこと。県は当事者ではなく、個々の投稿の発信者特定やファクトチェックをする権能がない。原因究明まで踏み込むことはできない」 

 

 なぜそこまで他人事なのか。県はSNSの誹謗中傷を防ぐ条例を制定しようとしているのに、まさに県政をめぐって起きた事案を調べないのか。私はさらに単刀直入に踏み込んだ。 

 

 ──斎藤さんは当選時にSNSの勝利とおっしゃっていたが、斎藤さんの当選と竹内さんへの攻撃や誹謗中傷はいわば表裏一体のもの。そこから目を背けて一般論を繰り返すのは、ご自身が立花氏の応援を受けたり、その情報をもとに投票したりした人が多いことを意識している、つまり彼らを敵に回すことを恐れているのですか。 

 

 「その指摘は個人の考えだと思うが、私としては誹謗中傷やデマをSNSで発信するのは許されないという考えに変わりはない。行政が個人間のSNSのやり取りに立ち入ることは難しく、調査は難しい」 

 

 私個人の考えではない。市長らが実態調査を求めているのだ。また、知事選で立花の情報発信が斎藤当選の大きな要因になったことは、専門家の分析でも明らかだ。「誹謗中傷はいけない」などという自明の一般論ではなく、竹内の死を踏まえて具体的なメッセージを出すべきというのは、前述の通り、県政担当記者たちや越田が言っているし、複数の報道機関が指摘している。 

 

 県警本部長が立花のデマを明確に否定したように、然るべき立場の者が具体的事案を挙げて呼びかけてこそ、抑止効果が高まるのではないか。 

 

■ 「震災から30年」の翌日に亡くなった竹内の思いとは 

 

 竹内が亡くなった1月18日は、阪神・淡路大震災から30年という大きな節目を迎えた翌日だった。兵庫県政にとって重要な「1・17」をまたぎ、何か思うところがあったのだろうか。竹内の妻に聞くと、こう言った。 

 

 「そこはわからないですが、そのあたりもふさぎ込んではいました。私たちも生活する中で震災30年の話題や式典のニュースはちらっと見ています。それで思うところがいろいろあったのか…テレビを見ていても虚ろな感じで、ちょっと触れられなかったので。ただ、30年前は…30年後にこんなことになるとは、とても思わなかった」 

 

 

 震災当時、大学生だった竹内は学生ボランティアを組織して神戸に入り、避難所で暮らす子供たちの遊び相手や震災遺児のケア、受験生の学習支援などを1カ月にわたって行った。活動記録と写真が彼のホームページに残されている。その経験ゆえか、災害対策や被災者支援への関心は強かったと妻は言う。議員になってから、県内の豊岡市や佐用町で起きた水害でボランティア活動をした記録も竹内のサイトにある。 

 

 そして、斎藤に対しても震災に絡めて知事の職責を問う質問をぶつけていた。 

 

 知事就任から半年後、2022年2月の県議会初日に斎藤は震災時の知事だった貝原俊民の言葉を引用した。「知事の責任は県民の命はもちろん、県土の一木一草にまで及ぶ」——。公職者としての使命感と矜持を語った言葉だ。「私もしっかりと継承する」と斎藤は決意を述べていた。 

 

 これに対し、少なくない職員が違和感を持っていると竹内は指摘した。斎藤は、貝原が後年まで悔やみ続けた初動遅れの教訓を生かさず、県庁から離れた場所に住み、危機管理部門の職員にすら、プライバシーを理由に住所を明かさず、緊急時の専用回線も引いていない。ワークライフバランスの重視もいいが、知事は職員よりはるかに重い責任を負っている。「一木一草」と言うのなら危機管理を優先し、県庁の近くに住むべきではないか、と。 

 

■ 告発文書を予見するような過去の議会質問 

 

 そして続く部分では、「折檻」という漢語──臣下が主君を厳しくいさめること──を引きながら、斎藤の側近政治や職員とのコミュニケーション不足を指摘した。まるで、告発文書の内容と現在にまで至る県政の混乱を予見するかのように。竹内のブログから質問原稿を引用する。 

 

 〈知事には折檻してくれる人、苦言を呈してくれる人はいますか。「一木一草」を提案理由説明に入れると、批判が出るかもしれないと教えてくれたり、苦言を呈してくれる人を近くにおいてください。 

 

 私が僭越にも提案するならば、宮城県や総務省関係の自らが知事就任前から知っている幹部だけでなく、胸襟を開いて、色んな意見や感覚をもった職員とも仕事や仕事以外でも話し合う機会をもって、もう少し幅広く交流されたほうがいいのではないしょうか。ときに今日の私のように僭越ながら「折檻」する、うるさい人の意見にも耳を傾けてほしいと思います〉 

 

 

 
 

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