( 261276 ) 2025/02/06 18:13:26 0 00 photo by iStock
1月29日に発売され、大きな話題を集めている元「フジテレビ」アナウンサー・渡邊渚さんのフォトエッセイ『透明を満たす』。
5万字を超える書き下ろしの本書を読み終わって真っ先に頭に浮かんだ感想は、渡邊さんのアンチにこそ読んでほしい一冊だ、ということ。
SNSを中心としたネット界隈では、否定的かつ攻撃的な意見が多く寄せられていることは彼女自身が明らかにしていますが、渡邊さんに対してネガティブな印象を持っている人たちこそ、彼女視点の出来事や彼女の本心を知ることで見え方が変わるかもしれません。
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渡邊さんは2020年4月にフジテレビに入社し、『もしもツアーズ』『めざましテレビ』『ワイドナショー』『ぽかぽか』といった人気番組を担当していましたが、2023年7月から体調不良のため休職し、昨年8月末で同社を退社。フジ在籍中は病名を伏せていましたが、退社後にPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患っていたことを公表しました。
『透明を満たす』に寄せた渡邊さんのコメントによると、《渡邊渚を知っている人はもちろん、生きづらさを感じている人や病と闘っている人、それを支える周囲の人、同世代の将来に悩む女性など、様々な人たちに届いて欲しいと思って制作》したとのことです。
本書には、PTSDの原因となった“生命の危機を抱くほどの衝撃的な出来事”が起きた当日や前後に彼女の感じていた気持ち、1年以上にも及んだ闘病生活について綴られています。
2023年6月、PTSDの原因となった当日について綴るひとつ前のパートは、次の文章で終わっていました。
《テレビの世界でやりたいことがまだまだあって、そのためにあらゆることを我慢して抵抗せず働いてきたつもりだった。番組作りは笑顔あふれる空間なのだと信じていたけれど、我慢の先にあった未来は絶望で、私は真っ暗な井戸に落とされた》
そして当日について綴ったパートのタイトルは【心が殺された日】。
2023年6月のある雨の日、仕事の延長線上で起きたというその出来事について、
《あの瞬間、恐怖で身体が動かなくなって、「助けて」が届かない絶望感と大好きな人たちの顔が頭に浮かんだ。》
《真っ暗で冷たい井戸に落とされたように、どれだけもがいても救われることはなくて、意識はあるのに死んでいく。何が起こっているのか、よくわからなかった。》
と、壮絶な体験だったことを否応なく想起させる言葉が並んでいるのです。
他のパートではこの出来事を振り返るような心境も吐露しています。
《人生が誰かの悪巧みや軽はずみな行動によってあっという間に壊れることを一度知ってしまったら、恐怖が心を支配する。》
《人生は、ある日突然誰かや何かによって壊され、終わってしまうかわからない。》
本書ではその当日の出来事には誰がかかわり、何が起こったのか、具体的なことは記されていません。それゆえに「誰かの悪巧み」という言葉が意味深長に聞こえてならないのです。
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本書を読み終えて、世の中の多くの人、特に渡邊渚アンチの方々が“勘違いしていること”が2つあるのではないかと感じました。
その2つとは、彼女の金銭事情についてとパリ五輪観戦について、です。
まず、渡邊さんは経済的に余裕があったと考えている方々は多いと思うのですが、本書には入院費や治療費によって、金銭面でずいぶんと苦労していたことがたびたび綴られています。
《お金の問題も考えなくてはならなかった。まだ26歳で健康だからと保険に入っていなかったため、入院費が怖くなった。個室なら1泊4万円はする。それが何日……と計算していくと、1週間で1ヵ月分の給料は飛んでいくから頭を悩ませた。》
《では、なぜこんなに辛い治療を受け続けられたのか? そこには、とても明確で、現実的な理由があった。それは“この治療にはかなり高額な費用がかかるから”。(中略)当時の働いていない私にとっては大きな金額で頭を抱えた。》
《ただ、現実的に退職を考えた時に金銭面の心配があった。お金のことは入院中も一番シビアに考えていた。そもそも私の父はごく普通のサラリーマンで、母はパート。実家はお金持ちではない。だから病気になっても実家には1円も頼らなかった。》
芸能人のようにテレビにたくさん出ているので勘違いしがちですが、アナウンサーはただの会社員であり、入社数年の若手がもらえる給与や貯蓄額はたかだか知れています。
そんな20代中盤の女性が高額かつ長期に渡る入院費・治療費を自分で払っていたとなれば、金銭面で逼迫していたことは想像に難くありません。
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次に、昨年8月にパリ五輪のバレーボールの試合を現地観戦したことについて。
このときの渡邊さんはまだフジテレビに在籍しており、療養ということで休職していた時期だったため、その行動を批判する声が多数あがっていました。
けれど本書には、彼女が昨年春の時点でフジテレビに退職の意思を伝えており、五輪開催前には退職できている予定だったものの、手続きが難航したため7月中に辞めることができなくなったと綴られています。
渡邊さんは週刊誌のインタビューに答えた際にも、フジテレビ側から「考え直してくれ」と慰留され、退職話が一向に進まなかったと述べていましたので、パリ五輪を現地観戦したことへの彼女の批判はお門違いだということが大前提です。
そのうえで、本書に綴られた闘病中の描写の数々や経過をふまえると、パリに行ったことをとがめるどころか、彼女がパリに行こうという勇気が湧くまでに病状が改善したこと、そしてそのチャレンジを無事に成功させたことに、感動すら覚えました。
一昨年夏、入院から2週間が経過した時期について書かれた【衝動】というパートがあるのですが、そのパートの前には編集部から注意書きがあったのです。
《このパートには自傷の描写が含まれます。心が弱っている方、フラッシュバックなどの心配がある方はご注意ください。》
【衝動】で書かれている具体的な内容の言及は避けますが、自傷行為前後の凄惨な精神状態が体験者本人の言葉で語られることの衝撃は、筆舌に尽くしがたいものがありました。
その後、渡邊さんは消化器内科から精神科へ転棟したそうなのですが、精神科病棟での入院生活は、次のように記されています。
《元々光線過敏症だったが、自分を傷つけたあの日から皮膚の状態はさらに悪化し、一切日光を浴びてはいけないことになった。窓には紫外線防止シートと段ボールが貼られ、私の個室には何の光もなくなった。》
そんな約2ヵ月間の入院生活を終えた後のパートには、こんなふうに身体の状態が記されていました。
《PTSDになる前と比べて9キロも痩せてしまった。元々が165センチの身長に対して51キロだったのが、半年も経たないうちに実に体重の17%がなくなった。骨と皮だけの身体になっていき、髪の毛も大量に抜けた。》
一昨年夏頃に心身の状態がここまで悪化していた彼女が、その過酷な時期を経て昨年夏にパリ五輪観戦できたというプロセスを知ると、よくそんな困難な挑戦を成功させたものだと、とても感慨深くなるのです。
――十人十色で価値観は違いますので、渡邊さんに共感できない人、渡邊さんを嫌悪する人が世の中に一定数いることは当然でしょう。
ですが、相手を傷つけるような鋭い言葉をネットに書き込む前に、せめてきちんと彼女のことを知っておくべきで、現時点で彼女のことをより正確に知ることができるのが、この本なのです。
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堺屋 大地(恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー)
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