( 261694 )  2025/02/07 16:29:28  
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国内大手自動車メーカーの日産とホンダの経営統合は、話し合いが始まって1カ月半で瓦解した。

ホンダが日産を子会社化する案を提案したが、これに反発した日産側が経営統合の協議を打ち切る決定をした。

日産は経営危機に直面しており、ホンダとの統合は再建に向けた期待があったが、結局実現しなかった。

経営統合の破談で、日産の再建の課題が浮き彫りになっている。

(要約)

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国内大手自動車メーカー同士の経営統合は幻に終わった(写真:梅谷秀司) 

 

 世紀の経営統合は協議開始からわずか1カ月半で瓦解した。 

 

 日産自動車の内田誠社長は、2月6日午前、ホンダ本社を訪れ三部敏宏社長に「子会社化案」への反対意見を伝えた。事実上、経営統合協議は打ち切られることになる。 

 

■子会社化提案が破談の決定打に 

 

 複数の関係者によると、従来の持ち株会社傘下に2社が入る形ではなく、日産を子会社化する案をホンダが日産に打診。ホンダ主導がより明確になることで、経営の自主性が失われることに対して、日産側の反発が高まったことが決定打になった。 

 

 その前日、2月5日午後に開かれた日産の臨時取締役会に、経営統合の協議打ち切りが提案された。この日の取締役会では正式決定はなされなかったものの、ホンダとの経営統合を白紙に戻す方針を確認したという。 

 

 数日前から「ホンダによる日産への子会社化提案」といった観測報道が出るようになり、5日未明からは「統合破談へ」といった速報が相次いでいた。5日16時半には日産、ホンダが「報道の事実も含めてさまざまな議論を進めている段階であり、2月中旬をメドに方向性を定めて発表する」とコメントを出した。 

 

 両社は昨年12月23日、持ち株会社を新たに立ち上げ、2社が傘下に入る形での経営統合の協議を始めると発表した。最終契約書締結は2025年6月、統合に向けて協議を継続するかの判断を2025年1月末までに行うとしていた。 

 

 ただし、ホンダは日産の経営再建を統合の条件としていた。主力の北米、中国事業の苦戦で日産の業績は急悪化。12月の会見でホンダの三部社長は「日産とホンダが自立した会社として成り立たなければ、経営統合は成就しない」と念を押していた。 

 

 日産は昨年11月、世界で生産能力を20%削減し、9000人の人員削減を行う「ターンアラウンド」計画を公表。その具体策として、アメリカやタイでの人員削減などが俎上に上がった。しかし、日産の経営陣は国内を含む生産工場や人員の抜本合理化には慎重で、年が明けると社内でも「改革は足踏みしている」という声が聞こえるようになっていた。 

 

 さらにホンダと日産の間で、統合比率をめぐる議論もまとまらなかった。両社は1月末をメドとした協議継続の判断を2月中旬まで後ろ倒しにすると明らかにしていた。 

 

 

■お互いへの不信感は募っていた 

 

 「日産の意思決定はどうなっているんだ」。ホンダ幹部は2025年の早い時期から日産への不満を表に出していた。一方、日産幹部も「ウチしか相手がいないのになぜホンダは上から目線なのか」と憤っていた。 

 

 日産の動きの遅さに業を煮やしたホンダが示したのが子会社化案だった。「そもそも(合理化策を)決められない。なら、いつまでも対等をうたうことはできない」。前述とは別のホンダ幹部は厳しい口調で話す。 

 

 「どちらが上、どちらが下ではなく、共に未来を切り開く仲間」。昨年12月の会見で内田社長は持ち株会社方式での経営統合について「対等の精神」を強調していた。上下関係がより明確な子会社化へとホンダが提案を変えたことが、日産経営陣の気持ちを逆なでしたことになる。 

 

 とはいえ、前述したように不協和音はそれ以前から隠せなくなっていた。関係者からは「(破談は)予想通りだ」との声が聞こえる。一方、ある日産有力OBは「ホンダとの統合を断って日産単独で再建ができるのか。経営陣に危機感がまったくない」と苦言を呈する。 

 

 経営統合がなくなった場合、真っ先に問題となるのは日産再建の行方だ。 

 

 日産の2024年4〜9月期は営業利益が前年同期比9割減、本業である自動車事業のフリーキャッシュフローは4483億円のマイナスに転落。とくに足を引っ張ったのは、グローバル販売台数の4割弱を占める北米。商品力の弱さをインセンティブ(販売奨励金)の大量投下でカバーする戦略が破綻。北米事業の2024年4〜9月期は41億円の営業損失になった。 

 

 世界最大市場である中国での販売の落ち込みも止まらない。中国市場では急速なEV(電気自動車)普及と中国メーカーの躍進によって、欧米大手や日本勢も軒並み苦戦している。 

 

 日産の苦境の背景には、グローバルで340万台の販売に対して生産能力が500万台ある「能力過剰」と、電動車の中で需要が拡大しているHV(ハイブリッド車)を含めた「商品ラインナップの競争力欠如」という根深い問題がある。 

 

 日産内部では「自主再建」を目指す声も上がるが、単独での経営再建は困難な状況だ。しかも、将来に向けてEVやソフトウェアへの巨額投資を行っていかなくてはならない。自力での復活が難しければ、支援者を探して漂流することになる。 

 

 

 「日産内ではホンハイを推す声も複数あるようだ」(日産関係者)。昨年来、日産買収に意欲を見せていた台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が再び動き出す可能性がある。ホンハイ以外でもホンダに代わるパートナー探しは急務となるだろう。 

 

■ホンダも新たなパートナー探しが必要に 

 

 ホンダにとっても日産との物別れは今後の成長戦略に影を落とすことになる。EVに加えて、ソフトウェア領域でも巨額の資金が必要になるのはホンダも同様。開発リソースの確保や投資負担の軽減のためにもパートナー探しは欠かせない。 

 

 アメリカのゼネラル・モーターズ(GM)との量販価格帯の中小型EV開発は白紙に。自動運転領域でもGMと協業していたが、GMの自動運転タクシー事業撤退に伴い解消。一方で、GMは昨年9月に韓国の現代自動車と戦略分野での提携の検討を開始した。 

 

 ホンダ周辺では「三部さんはとにかく(4輪事業の)スケールにこだわっている。別の道を探すのでは」との声が上がる。 

 

 両社はEV(電気自動車)や電池、ソフトウェアでの協業については、継続するかどうか現在も協議しているとみられる。だが、感情的な反発が残ることを考えると、仕切り直してどこまで連携できるかは不透明だ。 

 

 「最も理想的な組み合わせ」(経済産業省幹部)だったはずの統合は幻のように消えようとしている。 

 

横山 隼也 :東洋経済 記者/秦 卓弥 :東洋経済 記者 

 

 

 
 

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