( 262019 )  2025/02/08 05:42:53  
00

スシローが笑福亭鶴瓶さんを起用した広告に関する批判を受けて、一時的に掲載を停止したが、その後再開することを発表しました。

ネット上では「判断が早すぎたのではないか」との指摘がなされています。

消費者は企業とタレントの関係性を重視する傾向があり、今回の対応が企業のネガティブなイメージを与える可能性があると懸念されています。

消費者からは「使い捨て感」を与える一方で、他社が追随しない状況からスシローのイメージが損なわれたとの指摘もあります。

(要約)

( 262021 )  2025/02/08 05:42:53  
00

スシローの「鶴瓶隠し」が批判を浴びている(写真:ponta2012/PIXTA) 

 

 回転寿司チェーン「スシロー」を展開する「あきんどスシロー」が、笑福亭鶴瓶さんを起用した広告や販促物の掲載再開を発表した。 

 

 鶴瓶さんをめぐっては、中居正広さんらとのバーベキュー会が報じられていて、スシローはこの報道にすぐさま反応。即座に「鶴瓶隠し」へと動いたが、ネット上では「判断が速すぎたのではないか」との指摘が相次いでいる。 

 

 筆者はネットメディア編集者として、これまで10年以上、企業の宣伝戦略と、それを受けたSNSユーザーの反応を見てきた。そこで感じるのは年々、企業とタレントの「関係性」を重視する世の中になっているのではないかということだ。 

 

 時流を考えると、今回の「起用見合わせから、一転して再開」という対応は、消費者にネガティブな企業イメージを与えるのではないかと危惧している。 

 

■SNS上では「さすがにやりすぎだ」と指摘が相次ぐ 

 

 バーベキュー会の存在が公になったのは、2025年1月25日掲載の「週刊文春 電子版」記事だ。 

 

【画像5枚】スシロー「深く反省しております」 謝罪も消費者からは“ガッカリ”の声 

 

 ここでは2023年5月に、中居さんの自宅で、鶴瓶さんやヒロミさんを招いてのバーベキューが行われ、そこに中居さんのトラブル相手である「芸能関係者X子さん」や、「フジテレビ編成幹部A氏」も参加していたと伝えられた。 

 

 ヒロミさんは1月28日、情報番組「DayDay.」(日本テレビ系)で、参加者の記憶はないこと、鶴瓶さんとともに中座したことなどを説明した。また、鶴瓶さんが2023年9月に「きらきらアフロ」(テレビ東京系)にて、当時の様子を語っていたことも話題になった。 

 

 スシローが鶴瓶さん関連のコンテンツを削除したのは、その直後の1月29日だった。メディア各社による、FOOD & LIFE COMPANIES(あきんどスシローの親会社)への取材によると、顧客の声を踏まえて「総合的に判断」した結果だとした。 

 

 

 しかしながら、文春報道を受けて、多くの消費者は「鶴瓶さんはトラブルそのものへの関与が薄い」と判断していたため、SNS上では「さすがにやりすぎだ」「対応にガッカリした」「キャンセルカルチャーにもほどがある」といった指摘が相次いだ。 

 

■消費者に「タレントの使い捨て感」を与えてしまった 

 

 そして約1週間がたった2月6日、あきんどスシローは、鶴瓶さんの広告起用を再開すると発表した。 

 

 リリース文章では、文春報道を受けた客から「様々なご意見」を受けた後、「所属事務所様を通じて当初の報道に対し書面にてご見解を頂きましたが、状況の全体像が不明確であったため、所属事務所様にお伝えした上で、広告素材の使用を一時見合わせるという判断をいたしました」と経緯を説明し、鶴瓶さんや事務所に「ご迷惑とご心痛をおかけし、深く反省しております」とした。 

 

 直後からスシロー公式サイトには、鶴瓶さんの顔写真が掲載されている。 

 

 しかしながら、SNS上では批判の声が絶えない。ネットの「炎上ウォッチャー」でもある筆者としては、「スシローが失った信用を取り戻すには、かなりの時間がかかるだろう」と見ている。 

 

 「早急な判断」は、ときに延焼を食い止める効果的な策になる。しかし今回は、鶴瓶さんを起用する他のスポンサーが、スシローに追随しなかった。「鶴瓶の麦茶」の愛称で親しまれる、健康ミネラルむぎ茶の伊藤園などは、なにもしていないのに、スシローの対応を受けて、むしろ相対的に好感度がアップしている。 

 

 なによりスシローにダメージとなるのは、一連の経緯で「“とばっちり”のクレームに屈した企業」と印象づけてしまったことだ。大企業の判断は、社会的制裁になり得る。起用見合わせによって「鶴瓶さんは『やらかした人間』だ」と印象づけた責任は大きい。 

 

 加えての悪手は、消費者に「タレントの使い捨て感」を与えてしまったことだ。鶴瓶さんがスシローに起用されたのは、2023年7月のこと。迷惑客による「しょうゆペロペロ」から半年後にあたり、衛生面でのネガティブイメージ払拭に、一定程度は貢献したものと考えられる。 

 

 

 しかし、起用からわずか1年半で、今回の騒動になってしまった。関係値が浅いのは間違いないが、そこで「即切り」してしまうと、視聴者には「都合がいい時だけ利用する」と感じさせてしまう。 

 

 企業とイメージキャラクターは運命共同体だ。悪く言えば「死なばもろとも」でもある。その点でイメージアップした直近の例が、JCBだ。旧ジャニーズ事務所(SMILE-UP.)の性加害問題が話題になっていた2023年9月、当時同社に所属していた二宮和也さんの継続起用を見合わせた。 

 

 対応としてはファンを失望させるものだったが、その際に企業として「2010年より13年間、私達と一緒に歩んできた特別な存在」と表現したことで、好印象を与えた。結果的に、起用再開までは約半年を要したが、JCBのポジティブイメージは、そのまま残った。 

 

■異例ともいえる、アイリスオーヤマの判断 

 

 こうした前例を振り返ると、視聴者や消費者は「タレントは企業イメージを背負うのに、企業はタレントのイメージを背負わない」ことに、潜在的な違和感を覚えているのではないかと感じる。 

 

 その点で、異例とも言えるのが、アイリスオーヤマの判断だ。2025年1月、吉沢亮さんが酔って、自宅マンションの隣家に侵入したと報じられるも、その約1週間後に「吉沢亮さんのタレント契約 継続決定のお知らせ」を打ち出して、大きな注目を集めた。 

 

 発表文では顧客や関係者に「多大なるご心配をおかけしております」と謝罪しつつも、吉沢さんの「卓越した表現力と幅広い支持層」からなる存在感が、ブランド価値向上に貢献したと評価し、「吉沢亮さんの今後の挑戦を応援し、共に頑張っていきたいという当社の決意」として継続を決めたと明かした。 

 

 企業とイメージキャラクターの関係は、多くの場合、対等ではなく、どこか上下関係を感じさせるものだ。タレントが「やらかし」ても、企業が起用責任を負うというアイリスオーヤマの覚悟は、従来の商慣習とは異なる印象を与えた。 

 

 ましてや、鶴瓶さんの今回のケースは、本人がやらかしたワケではない。両者を対比すると、その差はさらに際立って見える。 

 

■消費者はタレントと広告主の関係性を重視している 

 

 消費者は商品とともに、ストーリーを買っている。「誰々がCMしていたから買ってみよう」という購買行動は、まさにタレントによる付加価値があってこそだ。 

 

 

 互いに想起させる関係性を築いたタレントと企業は強い。武田鉄矢さんといえば「マルちゃん(東洋水産)」だし、高橋英樹さんといえば「越後製菓」だ。約1年前に亡くなった中尾彬さんは、いまも「買取 福ちゃん」の公式サイトで笑っている。 

 

 企業側が思っている以上に、消費者はイメージキャラクターと広告主の関係性を重視している。その点、まだスシローと鶴瓶さんは、1年半という短さもあって「ニコイチ」の印象が薄い。そんな段階で、安易に切り捨てるように見えてしまう行動に出たことで、消費者は非情さを感じたのではないだろうか。 

 

■禍根を残しかねないスシローが、今後とるべき対応 

 

 今回は起用再開によって、ひとまずの解決を見た。しかし発表文で、所属事務所による当初の説明では納得できなかったかのような言い回しをしたことは、後に禍根が残りかねないと考えている。 

 

 どのような「客のご意見」や「事務所のご見解」があったとしても、最終的に判断するのは企業自身だ。どこか他責的な表現に感じさせてしまうと、もし今後、別のイメージキャラクターを起用しようとしても、「大事なタレントを任せられない」と事務所側が反発する可能性があるだろう。 

 

 だからこそスシローは、鶴瓶さんに何がなんでも残ってもらえるように、厚遇しないといけない。 

 

 たとえば、生涯、いや企業・ブランドが残る限り、「永久イメージキャラクター」と位置づけるなどはいかがだろうか?  そうすれば、鶴瓶さんも「ええやん、スシロー。」と笑って許してくれることだろうし、消費者からの印象を回復するはずだ。 

 

城戸 譲 :ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー 

 

 

 
 

IMAGE