( 262131 ) 2025/02/08 14:24:17 0 00 「産まない」女性たちの思いとは
東京都内のマーケティング会社に勤める女性(30)は、午前8時に出社する。退勤時間は午後10時を過ぎることも多く、忙しい日々を過ごしている。そんな中、ふと、思うことがある。
「子どもは産まないかもしれない」
少子化が進む中、経済的な問題、不妊症など「子どもを産みたくても産めない」女性たちがいる一方、様々な経緯で「子どもを産まない」ことを選んだ女性たちもいる。女性たちの声に耳を傾けると、「産む性」を求められる女性たちの苦悩が見えてきた。 (テレビ朝日デジタルニュース部 笠井理沙)
この女性が働き始めたのは8年前。以来、営業としてキャリアを積み重ねてきた。忙しく過ぎる毎日だが「経験を重ねたいし、仕事が楽しい」と話す。
3年前に結婚した。夫と過ごす時間が楽しく、2人の生活に満足している。しかし、職場や営業先などで、年上の男性から「そろそろ子どもだね」と言われることが多々ある。「受け流している」と話す女性だが、「子どもを産むこと」に悩みがないわけではない。
「結婚した当初は、『子どもは3人欲しい』と思ったりもしていました。でも、結婚後に転職して、仕事が楽しくて、どんどんのめりこんでいった。もっとこの仕事を追求したい、経験を積みたいと思ううちに、『子どもは今じゃないな』という気持ちが強くなっていきました」
とはいえ、年を重ねるとともに妊娠する確率が低くなること、妊娠したいと思っても難しい場合があることは知っている。30歳を過ぎ、焦りも感じているが、女性は出産や育児で、仕事を離れることへの不安の方が大きいと感じている。
「いま私がこのポジションを抜けたら、戻る場所はないと思います。子育てをしながら仕事が出来る場所は用意されると思いますが、私が描いているキャリアには戻れない。そのことが怖いなと感じています」
周囲には、子育てと仕事を両立させている女性たちもいる。しかし、女性は「両方手に入れてうまくできるほど、器用ではない」と感じているという。
両親は、女性が幼いころに離婚した。父と、父方の祖父母と一緒に暮らしてきた。その経験が、子どもを育てることへの不安につながっているという。
「父は仕事に打ち込んでいて、祖父母と過ごすことが多かった。小さいころに寂しかったなという思い出が多い。私は子どもを産んでも、仕事を辞めることはないし、仕事もがんばりたい。父の背中を見て育ったから、そう思うのかなとも思います。仕事に打ち込むと子どもと過ごす時間をつくることは難しくなるだろうし、子どもに寂しい思いをさせてしまうと思います」
女性は、同世代の女性の友人と「子どもを産むこと」についてよく話をするという。友人たちとも、子どもを育てることの難しさを共有している。
「自分たちが子どものころにはなかったSNSなど、子どもたちを取り巻く環境が変わってきている。景気もいいとは感じないし、不安定な世の中で子どもを守って、ちゃんと育てられるかなと考えてしまいます」
女性の夫は、女性の「仕事をしたい」という思いを尊重してくれている。夫と2人で過ごす人生も楽しめると感じているが、「子どもがいない将来」に寂しさや不安はある。それでも女性は、「子どもは産まないかもしれない」という思いを強くしている。そして、同じ思いを持っている女性は少なくないと感じている。
「『女性の活躍』とも言われるし、私も含めたくさんの女性が働いている。平日は家で過ごす時間がほぼないし、土日も疲れていて、夫婦でゆっくり過ごす時間なんてほとんどない。少子化と言われるけど、それはそうだよね、子どもを産むなんて無理だよねって感じがしています」
実際、「子どもを産まない」女性たちは増えてきている。OECD(経済協力開発機構)のまとめによると、生涯子どもがいない女性の割合について、日本は1955年生まれの女性が12%なのに対し、1975年生まれの女性では28%だった。加盟国38カ国の中で最も高くなった。
国内の少子化は年々進み、2023年の「合計特殊出生率」(1人の女性が生涯に産む見込みの子どもの数)は1.20と統計開始以降最も低く、東京都では1を切っている。そんな中、「子どもを産まない」ことは「口に出しにくいこと」になっているという。
「少子化が国の重要課題だと言われる一方で、子どもを産んでいない自分が悪いと思ってしまう人は少なくないと感じています」
そう話すのは、ライターの若林理央(40)さんだ。若林さん自身も「産まない」ことを選んだ一人だ。子どものころから「仕事に打ち込みたい」「子どもは産まない」と思っていた若林さん。33歳の時に排卵障害の診断を受け、子どもを望むならば不妊治療が必要だと分かったとき「子どもを産むこと」について、改めて考えたという。
「ずっと『産まない』と思って生きてきたのですが、『産めないかもしれない』と言われたときにあとで後悔しないかなと考えました。でも、子どもが欲しい理由を、自分の将来が心配だとか、夫をつなぎ止めるためとか、子どもを自分の道具のように考えてしまっていた。子どもを幸せにできるかと考えたときに、できないなと思い、産まない選択に踏み切りました」
「産まない」ことを選んだ若林さんは、周囲から向けられる目に度々苦しんできた。
「私自身、ずっと『普通じゃない』と思っていました。中高大と女子校で、結婚して出産するのが当たり前みたいな空気の中で育ってきた。子どもは産まないつもりだと周囲に伝えると、『女性として産んでみたくないの?』とか『母性ないの?』と言われ続けてきました。少子化が進む中、『国に貢献してないのかな』というような気持ちも出てきて、罪悪感が生まれていきました」
そんな思いを抱いていたころ、友人や仕事仲間に同じ思いを持った人がいることに気がつき、考え方が変わったという。
「少数派ではあるけれども、子どもを産みたくないという人はゼロではない。こういう考え方もあっていいのだということを示したいなと思うようになりました」
若林さんは、著書「母にはなれないかもしれない 産まない女のシスターフッド」(旬報社)で、「子どもを産まない」ことを選んだ女性たちのインタビューをまとめた。
不妊治療を経て「産まない」人生を歩んでいる女性や、子どもを産んだが「時間を戻せるなら産まない」と語る女性の声も紹介している。「子どもを産まない」ことに集まりがちな批判や、「産む・産まない」で女性たちが分断されてしまうことに、若林さんは強い危機感を抱いている。
「結婚して出産するのが女性の人生というような流れを社会が作っているのが問題で、『産まない』と決めた女性たちが罪悪感を抱く必要は全くないと思う。産む、産まないは個人の自由で選んでいいのだということを伝えたいと思っています。産む人、産めない人、産まない人。完璧に理解はできなくても、お互いに価値観共有したり、相手の立場に立てたりできるような、そういう考えを持てるといいなと感じています」
聞こえてきた「産まない」女性たちの声。「産む性」を持つゆえに、女性たちが思い悩む現状が見えてきた。しかし、どんな生き方を選ぼうと、それは女性たちの自由であり、権利だ。少子化が進む中、女性たちが罪悪感や孤独感を抱くことがないような社会の空気づくりが求められている。
テレビ朝日
|
![]() |