( 262289 )  2025/02/08 17:34:51  
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日本の人口減少が進む中、福岡市はまだ活気を感じさせる都市である。

若者が多く、生まれる子供も多いため、人口増加が続いている。

さらに、暮らしやすさや子育てしやすさの評価が高く、コンパクトな都市構造も魅力の一つだ。

福岡市が郊外開発に乗り出さなかったのは、水不足が理由であったが、その結果、環境保全や街の規模を適切に保つことができた。

それが現在の都市の魅力と発展につながっている。

(要約)

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〔PHOTO〕iStock 

 

人口減少日本で何が起こるのか――。意外なことに、多くの人がこの問題について、本当の意味で理解していない。どう変わればいいのか、明確な答えを持っていない。 

 

100万部突破『未来の年表』シリーズのベストセラー『未来の地図帳』は、20年後の日本人はどこに暮らしているのか?人口減少が10〜20年後の日本のどの地域をどのような形で襲っていくのか?についての明らかにした必読書だ。 

 

※本記事は『未来の地図帳』から抜粋・編集したものです。 

 

若者が集う活気あふれる福岡市は、市街地に人口が密集せざるを得なかった土地の事情が作り上げた。近隣の都市からどこまで人を吸い上げるか? 

 

九州の中心地であり、アジアのゲートウエイとして早くから海外展開を見据えて発展してきた福岡市は、158万2695人(2019年4月1日現在)の人口を誇る。 

 

同市がまとめた推計人口では、神戸市を抜いて政令指定都市ランキングで5位(2018年12月1日現在)になったが、人口減少に悩む自治体が増えてきた現状にあって、いまだ力強い発展を感じさせる街である。 

 

総務省の「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(2018年1月1日現在)によれば、この1年間で福岡市の人口は1万4116人増と、全国の市区町村の中で一番増えた。その内訳は自然増が神奈川県川崎市に次ぐ全国2位の2507人、社会増も大阪市に次ぐ2位の1万1609人であった。 

 

福岡市内を歩くと若い女性の姿が目に付く。その証拠に、福岡市の資料「子どもに関するデータ集」には20代、30代とも全国平均では男性人口が女性人口を上回っているが、福岡市では逆に女性人口が大きく上回るとある。例えば、25~29歳は男性46.4%、女性53.6%だ。福岡市は東京と並ぶ女性人気の高い街、「レディース・シティ」なのだ。 

 

そもそも若者自体が多く、2015年の国勢調査の比較では、福岡市の若者率(15~29歳人口÷総人口×100)は17.4%で、政令指定都市の中でトップをマークしている。若者が多ければ、当然ながら生まれてくる子供も多くなる。 

 

子供が生まれることによって世代交代は進み、一方で他の市区町村から多くの人々が集まってくるのだから、都市の発展としては健全なスタイルを実現し続けているといえよう。 

 

全国の多くの自治体で人口に翳りが見られる中、なぜ福岡市には都市としての勢いが残っているのであろうか? 

 

「暮らしやすい」「子育てしやすい」という評価の高さもある。大学がたくさん存在し、学生が多いことも理由のひとつであろう。「子どもに関するデータ集」によれば、学生数は11万726人(2016年5月1日現在)で、政令指定都市の中では京都市、名古屋市に次いで3番目。1000人あたりの学生数にすると71.50人で京都市に次ぐ2位だ。 

 

しかしながら、最も大きな要素は、人口規模の割に市街地に人口が密集している点にある。狭い区画の中に行政機関から商業施設までがまとまっているため、実際の人口以上に人の多さを感じやすい。要するに、「賑わい」を創出しやすいのである。 

 

福岡市のコンパクトさの象徴といえば、空港の立地であろう。各都市が航空機のジェット化に合わせて郊外に空港を移転させたのに対し、福岡空港は市街地の中に残った。福岡空港を利用したことのある人ならば分かると思うが、離発着の際に眼下に広がる街並みはさながらジオラマのようであり、遊覧飛行をしているような気分にさえなる。 

 

しかも空港とJR博多駅は地下鉄でわずか5分、さらには最大の繁華街である天神とも約11分で結ばれている。 

 

「通勤に30分もかかるようでは遠い」といわれるほど職場と自宅が近く、マイカーはもちろん公共交通機関や徒歩での移動もしやすいため、これらが働きやすさにつながっている面もある。これからの人口減少時代に求められてくるコンパクトシティを、大都市でありながら一足早く実現しているのである。 

 

 

現在の福岡市の人口増加を支える「密集」は、実は副産物として誕生したものだ。それも“かつての弱み”が転じた結果であるというのだから皮肉である。 

 

いまから40年ほど前、高度経済成長期を経験して豊かになり、「一億総中流」と自信を深めていた日本人が衝撃を受けた出来事があった。1979年に欧州共同体(EC)がまとめた内部資料『対日経済戦略報告書』に、「日本人は、西欧人ならばウサギ小屋としか思えないようなところに住む仕事中毒者」などと書かれていたのである。 

 

「ウサギ小屋」という言葉は、日本人を“中流気取り”から目覚めさせるのに十分であった。サラリーマンたちは“脱ウサギ小屋”とばかりに、金額的に手の届く郊外へと住宅地を求めた。結果として、日本の各都市は人口増加のペースを無視した乱開発にのめり込み、街の規模が急速に膨張し始めたのである。 

 

しかし、都市の拡大が続いていった時代にあっても、福岡市は郊外開発に乗り出さなかった。というよりも、乗り出せなかったといったほうが正しい。というのも、福岡市は全国の大都市の中では異例なのだが、大きな河川がなく、水不足に悩まされていたのだ。安定供給のために住宅地開発をむしろ制限せざるを得なかったのである。 

 

水不足は製造業の進出も阻んだ。企業は福岡市ではなく、隣の北九州市へと流れ、北九州市が100万都市に急拡大する様をただ眺めているしかなかった。 

 

ところが、大規模工場がないことが幸いした。他の政令指定都市が公害対策に頭を悩ませている中、予算を商業の発展や国際化に向けることができたのだ。時代は変わり、環境保全や少子高齢化対策が大都市の中心課題となった現在、福岡市は大きなインセンティブを手にしているのである。 

 

この間、製造業の多くは安い人件費を求めて海外に工場を移転したが、そうした動きと歩調を合わせて人口が減少したのが北九州市だ。何が将来の明暗を分けるか分からない。 

 

つづく「日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」」では、多くの人がまだまだ知らない「人口減少」がもたらす大きな影響を掘り下げる。 

 

河合 雅司(作家・ジャーナリスト) 

 

 

 
 

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