( 262324 )  2025/02/08 18:07:50  
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日本の自動車産業における重要性や技術流出の防止、国内産業の競争力維持などを考慮して、日本政府は台湾の鴻海精密工業が日産自動車に資本参加する動きに懸念を示しています。

特に、鴻海が日産経営に影響を与える可能性や中国企業との関係強化、米国との関係、経済安全保障政策などから、日本政府は介入してこの動きに対抗する方針をとっています。

(要約)

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日産自動車のロゴマーク。2022年1月14日撮影(画像:時事) 

 

 台湾の電子機器大手・鴻海精密工業が日産自動車への資本参加を検討しているのではないか?――そんな予測がネット上で話題になっている。鴻海のEV事業の最高戦略責任者で、日産出身の関潤氏が日産の幹部と接触したほか、フランスで日産の筆頭株主であるルノーと株式売却に関する協議を行ったという報道もある(中央社フォーカス台湾、2月7日付け)。 

 

 しかし、日本政府がこの動きに対して容認する可能性は低いだろう。政府はこれまで、国内の基幹産業への外国企業の資本参加に対して慎重な姿勢を貫いてきたからだ。 

 

 もし日産が鴻海からの資本参加を受け入れる方針に進むならば、日本政府は公然と、あるいは水面下でその動きを阻止するだろう。この動きの背後にある政府の戦略的意図を多角的に考察することで、その目的が明らかになる。 

 

2022年10月31日撮影、東京都内の自動車ショールームに掲げられたトヨタのロゴマーク(画像:AFP=時事) 

 

 日本政府が介入するであろう理由は、自動車産業が日本経済における基幹産業であることに加え、安全保障や雇用政策においても極めて重要な位置を占めるからである。 

 

 自動車産業は日本の製造業のなかでも大きなウェイトを占め、直接・間接を含めた関連雇用は550万人以上にのぼる。特に日産自動車は神奈川県を中心に製造拠点を構えており、そのサプライチェーンを支える部品メーカーにも広範な影響を与えている。 

 

 仮に鴻海が日産の大株主となれば、日産の経営方針に対する影響力が増すだけでなく、鴻海のサプライチェーンが日産に組み込まれる可能性が高くなる。これは日本政府がこれまで重視してきた 

 

「国内産業の競争力維持」 

 

という政策とは相反するものであり、特に政府は国内部品メーカーの育成と技術維持に注力してきたため、日産が台湾企業主導のサプライチェーンに依存する状況は避けたいと考えるだろう。 

 

 さらに、鴻海が進めているEV分野への本格参入は、従来の自動車メーカーとは異なる水平分業型のビジネスモデルを志向している。このモデルは、垂直統合型の従来の自動車メーカーとは異なり、日産の企業文化や戦略に大きな変化を強いる可能性があり、政府としてはこのような方向性を容認するのは難しいだろう。 

 

 また、日本政府は外国企業による国内企業支配を制限する仕組みをすでに整備しており、その中心となるのが外為法(外国為替及び外国貿易法)である。自動車産業は「指定業種」に含まれ、外国企業が1%以上の株式を取得する場合、事前に届け出を行う必要がある。経済産業省や財務省は、国益に反すると判断した場合、事実上の拒否権を行使できる権限を有している。 

 

 また、国家安全保障の観点からも外資規制は強化されており、特に自動車産業における知的財産やデータの管理は近年重要視されている。EVや自動運転技術は通信、AI、半導体技術と密接に関連しており、政府はこれらの技術流出を防ぐために警戒している。 

 

 仮に鴻海が単なる投資家として関与する場合であれば問題は少ないが、経営に実質的な影響を与える形で関与することとなれば、政府はこれを容認しないだろう。特に、鴻海が中国企業との関係を強めている点は、政府にとって懸念材料となり、鴻海に対して厳しい目を向ける可能性がある。 

 

 

国会議事堂(画像:写真AC) 

 

 日本政府がこの問題に介入するであろう背景には、米国の意向も大きな要素として存在している。日米同盟において、日本の自動車産業は単なる経済の枠を超え、安全保障の面でも重要な役割を果たしている。特に日産自動車は米国市場でもシェアを持っており、もし鴻海が日産の経営に影響を及ぼすような事態になれば、米政府が不快感を示す可能性は考えられる。 

 

 現在、米国は中国との技術覇権争いを激化させており、台湾企業である鴻海が日本の自動車産業に深く関与することを警戒するのは避けられない。特にEVのバッテリー供給網や半導体の調達といった分野において、日米の政策協調が影響を受けることになれば、政府としてこれを無視するわけにはいかない。 

 

 加えて、日本は経済安全保障政策を強化しており、「経済版NSC(国家安全保障会議)」の設立を通じて戦略物資の管理を徹底している。ここで重要視されているのは 

 

・技術流出の防止 

・産業競争力の維持 

 

だ。もし鴻海が日産に深く関与するようなことがあれば、これらの方針に反する動きとなりかねない。 

 

 これらの点を踏まえると、日本政府はすでに水面下で何らかの対応を進めている可能性が高い。具体的には、経済産業省が日産に対し、鴻海案を経営戦略の選択肢から排除するよう圧力をかけることや、日産の筆頭株主であるルノーを通じて鴻海の関与を阻止する交渉を進めることが考えられる。 

 

 また、日本政策投資銀行や産業革新投資機構(INCJ)を通じて日産の資本政策を支援することもひとつの手法として考えられる。これらの対応は過去にも実際に行われたものであり、今回のケースでも十分に起こり得る。 

 

鴻海精密工業のウェブサイト(画像:鴻海精密工業) 

 

 鴻海の日産への資本参加は、産業政策や外資規制、地政学的リスク、米国の意向など、多くの要因から日本政府が受け入れにくいものである。政府が表向きに行動を起こすかは不明だが、水面下での介入はすでに始まっていてもおかしくない。 

 

 最終的に日産と鴻海の交渉がどのように進展するかは不確定だが、日本政府がこの動きを容認する可能性は極めて低い。今後の展開は、日本の産業政策や経済安全保障の方向性を示す重要な指標となるだろう。 

 

鶴見則行(自動車ライター) 

 

 

 
 

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