( 262456 ) 2025/02/09 03:58:16 0 00 むりのみゆ氏
胸元から左肩にかけて刺青が肌を覆い、それは両腕にまで伸びている。お腹や脚にもお気に入りの刺青を宿しているのだと、その女性は微笑んだ。むりのみゆ氏、22歳。セクシー女優として活躍した過去もある。「刺青のひとつひとつに意味があるんです」。ゆったり言葉を紡ぐ彼女の話に耳を傾けると、驚きの半生があった。
むりのみゆ氏は東京都に生まれた。兄と両親、ごく普通の家庭で育ったという。
「ここまで刺青を入れていると、『どんな家庭で育ったのか』と驚かれるのですが、極めて普通の家庭で育ちました。もちろん不良でもありません。小学校から高校までそれぞれ別の原因でいじめられていたくらいです。ちなみに勉強も好きで、高校時代は兄が通っていた早稲田大学へ行こうと思って勉強していたんです」(むりのみゆ氏、以下同)
現在の姿と勉強好きが結びつかないが、高校時代、早稲田大学の文系学部をその射程に捉える偏差値を大手予備校の試験で叩き出していた。そんな彼女は学生時代、こんな理由でいじめを受けていたという。
「小学校高学年のことです。転校生に、いわゆるハーフの子がいました。純粋な日本人ではないことで、すぐにからかいの対象になりました。ある日、私は『ちょっと違うんじゃないの?』と思い、その子を庇うようなことがあったんです。いけ好かないと思われたのか、今度は私がいじめの対象になりました。
中学時代のいじめは、私を気に入ってくれた男子のことが好きだった“スクールカースト一軍女子“に目をつけられたことが発端でした。『人の彼氏を取った』とか噂を流されてしまって。私は基本的にクラスのなかでもキラキラするタイプではないので、目立たないようにひっそりと生きてきたんですけど」
高校時代は、担任の女性教師からのいじめを受けた。さぼり癖がついていたみゆ氏は単位が取得できるすれすれの日数で登校することを繰り返していて、「その小賢しさが教師の癪に障ったのでは」と分析する。その後、高3で中退し、通信制高校へ編入。だがこの中退は、担任によるいじめだけが原因ではなかった。
「親にさえ打ち明けていないのですが、高3のときに堕胎を経験しました。当時交際していた人との子どもです。誰にも言わず、ひっそりと子どもを堕ろしました。さまざまなことが重なって、心身に支障を来したことで高校を中退したんです」
その後、通信制高校から進学した大学は、かつて兄の背中を追った早稲田大学とは別の女子大学。早稲田大学は受験さえしなかった。
みゆ氏を見るとき、その刺青に目が行きがちだが、整形をはじめとして全身にかけた金額は1000万円を優に超える。
「最初にメスを入れたのは18歳のときで、鼻を整形しました。費用は200万円ほどで、単体ではこれが一番かかったでしょうね。もともとの自分の顔が嫌いというわけではないんです。
『もっと可愛くなりたい』と繰り返した結果、ここまで整形した感じです。一時期、整形をしすぎていわゆる“整形顔”になってしまい、前の顔に戻す手術をしたほどです(笑)」
冒頭で紹介したように、それぞれの刺青は彼女がこだわり抜いて入れたデザインだ。そのなかには息を飲むようなエピソードもある。
「お腹には天女が手を添えてくれている刺青があります。ちょうど手のところは卵巣のあたりなのですが、私は卵巣を摘出しているんです。19歳で子宮外妊娠をしてしまい、それが原因で卵巣摘出に至りました。今でもその事実は私にとって重たく、こうして天女が手をかざしてくれることで、幾分か安心することができるんです」
女性性の象徴とも言える卵巣を摘出せざるを得なくなったのち、女性性を公開するセクシー女優へ転身したみゆ氏の選択は意外にも思える。
「身体のことを考えれば負担をかけないほうがいいと思ったのですが、撮られることが好きで、天職だと感じたセクシー女優を選択しました」
ちなみに女優引退の理由は「業界や人間関係などに不信感を抱えたため」。活動は2年ほどだった。
このほか、胸元に描かれた蝶も目を引く。堂々と広げた羽根は、両端を手で掴まれ、破れている。なぜこのようなデザインにしたのか。
「黒のアゲハチョウは、死の象徴です。堕胎や子宮摘出など、つらい出来事があったとき、ずっと一緒にいてくれた姉御的な人がいました。お互いにつらいことを抱えていたこともあってか、彼女とよく馬が合って、ほとんど毎日すごしていたように記憶しています。
しかし、ある日突然、彼女は自死してしまいました。あんなに一緒にいたのに、私は彼女の本当の名前さえわからない関係でしたが、その喪失感の中でひどく落ち込み、しばらく自分を責める日々が長く続きました。
でも彼女は、きっとそんな暗いことを延々と考える私を望んでいないのではないかと思えるようになりました。亡くなった人のことを思うときは、自責ではなく、幸せな自分を生きるという決意にしたいと思って、死(黒のアゲハチョウ)を破るデザインを刻むことにしました」
そんな壮絶な人生を送ってきたみゆ氏だが、セクシー女優引退後の主な収入源は、動画配信。ファンたちが月額登録するサイトに動画をアップロードすることによって、生計を立てているのだという。必然的に動画編集のスキルが必要となる。
「こつこつ勉強して、動画編集を体得できました。こうした細かい作業が好きで、性に合っているんですよね。組織のなかで誰かに合わせて動くよりも、個人で発信するほうが生活がしやすいと感じています」
気になるのは、その収入。企画単体女優も経験した彼女の月収は相当な金額だったはず。みゆ氏は、「今のところですが」と前置きしたうえで、こう言った。
「ありがたいことにセクシー女優時代よりは、稼げていますね。個人で動画配信をするときは、だらだらした感じも“素人ゆえの味わい”みたいな好意的な目で見てくれるファンが多く、私自身が新しい魅力を発見した印象です」
だが同時に、「いつまでもこの生活をしようと思っているわけではありません」とも語る。
「将来は薬剤師になりたいと思っています。子宮外妊娠をしてしまったとき、生まれて初めて一週間ほどの入院を経験しました。自分の身体や人生がどうなってしまうのか、とても不安なときに、医療従事者の方々にとても励ましていただきました。
これまで私はいくつかの喪失体験がありました。それが原因でやる気になれず厭世的になったけれど、誰かの役に立てる人生が今からでも送れるなら、また挑戦してみようかなと思っています。
高校も中退して、大学も除籍になった私でも、自分が勉強した知識を生かして誰かに寄り添えるのだとしたら、そんな人生もいいなと最近は思っています」
※
みゆ氏は、悲しみを刺青として身体に纏うことで昇華し、人生の次のステージを自力で引き寄せようとした。失われたものはもとに戻らないが、彼女が歩みをやめない限り語り継ぐことはできる。時間はかかったが、奈落で勇気づけてくれた医療従事者たちへの恩返しの第一歩にいま、ようやく乗り出した。
取材・文/黒島暁生 写真/本人提供
黒島暁生
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