( 262559 )  2025/02/09 05:56:35  
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1980年代にホンダのタクトが原付スクーターブームの火付役として人気を集め、その後クレージュとのコラボモデル「クレタク」が登場。

ピンク×白のカラーリングで女性向けに設計され、成功を収めた。

2代目タクトでもクレージュ仕様が再び登場した。

1986年にはVIVA YOUとのコラボモデル「DJ-1Rビバユー」が発売されたが、クレタクほどの成功はなかった。

ホンダのファッションブランドとのコラボはその後行われていないが、80年代当時の斬新な試みとして評価されている。

クレタクは現在も中古市場で高い支持を受けており、40万円以上で取引されている。

クレタクの人気の理由は、発売当時のヤンキーブームやカスタム愛好者からの支持が続いているためとされている。

(要約)

( 262561 )  2025/02/09 05:56:35  
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「クレタク」の愛称で今も中古車市場で根強い人気のホンダ・タクトのクレージュ仕様(画像:ホンダ)。 

 

 1980年代前半から中ごろにかけて、日本は空前の原付スクーターブームが巻き起こりました。1980(昭和55)年、ホンダから発売されたスクーターのタクトは、1970年代後半のヒット作であるヤマハのパッソルを凌駕する機能で、このブームの火付役となります。 

 

 以降、ヤマハ、ホンダ、スズキ3社からさまざまなモデルの原付スクーターが登場し、各社の間で熾烈なユーザーの奪い合いが発生しました。そんなカオスとも言える状況に、ホンダが斬新な一手を講じます。1983(昭和58)年、前述のタクトにファッションブランド・クレージュとのコラボモデルを発売したのです。 

 

 その正式名称は「タクト・クレージュ仕様」、通称「クレタク」です。「女性向けに」という理由から、白いベースボディに当時の人気色であるピンクを配色。それまでのミニバイクには全くなかったカラーリングですが、ホンダはこの特別仕様車の販売計画を「1万台」に設定するなど強気でした。その販売実績は公表されていませんが、1985(昭和60)年には2代目タクトをベースとして再び「クレージュ仕様」が発売されています。 

 

 丸みを帯びた2代目タクトのボディに、クレージュデザインのピンク×パールホワイト、ブルー×パールホワイトの2タイプを用意。さらに専用ヘルメット、ブルゾンも販売。推測するに、初代クレタクの販売計画が軽くクリアされ、「売れるのなら、もっと売ろう」ということで、2代目タクトにも設定に至ったのではないかと思います。 

 

 また、この発売時はヤンキー全盛期。筆者は中学生でしたが、少し上の高校生のヤンキー姉さんたちが長いスカートをなびかせながら、クレタクで颯爽と走る画が、当時の記憶として脳裏に焼き付いています。 

 

「ピンク×白」のカラーリングから、どことなく「聖子ちゃん的」な印象も持ち合わせていたクレタクですが、流行の変化もあってか、以降はラインナップされなくなりそのまま姿を消すことになりました。 

 

 

「クレタク」の経験からか、タクトを凌駕するホンダ製スクーター・DJ-1Rにもファッションブランド・VIVA YOUとのコラボモデルが登場(画像:ホンダ)。 

 

 しかし、当時のホンダ的には「クレタクのヒット」の残像がまだまだ消えない1986(昭和61)年、今度はタクトを凌駕するスクーター・DJ-1に、これまた女性ファッションブランドであるVIVA YOUとのコラボモデルである「DJ-1Rビバユー」をリリースします。当時大ブームとなっていたDCブランドの一つ、VIVA YOU得意の「水玉」と「モノトーン」を組み合わせた外観でした。 

 

 ホンダはクレタクの「聖子ちゃん的」な印象から、時流の変化に合わせ、なんとなく「明菜的」な雰囲気に舵を切ったようにも映りますが、その販売計画は2000台。初代クレタクの5分の1ほどと控えめで、DJ-1Rビバユーはクレタクほどの強いインパクトはなかったように筆者は記憶しています。 

 

 また、スズキからリリースされヒットとなっていたハイというスクーターモデルにも、1986年、DCブランド・パーソンズのコラボモデルが登場。明らかにホンダの試みに対抗したものと思われますが、やはりクレタクほどのインパクトには及びませんでした。 

 

 クレタク、DJ-1Rビバユー以降、ホンダでは「ファッションブランド×スクーター」のコラボは行っていません。しかし、そうであっても1980年代当時、今ほど企業間のコラボが盛んではなかった時代に、こういった取り組みをしたことは斬新で評価すべきことのようにも思います。 

 

 2021年にはイタリアのスクーター、ベスパの75周年を記念し、世界的ファッションブランド、クリスチャン・ディオールとベスパがコラボスクーターを発売。少なからず、かつてのホンダの「ファッションブランド×スクーター」の実例も参考にしていると思われ、それが正しければやはりクレタク、DJ-1Rビバユーは有意義な取り組みだったと言って良いでしょう。 

 

 また、特にクレタクはその「伝説」がゆえに、今も中古車市場で絶大な支持があり、比較的個体が綺麗なものは40万円以上の価格帯で取引されています。バイクもクルマも、「限定車」「特別仕様車」は終売後に価値がグッと上がるものですが、今から40年以上も前のクレタクが、ここまで価値があるのは少々意外に感じる人もいるかもしれません。 

 

 どうしてクレタクが今なお一定の支持があるのかの理由は、発売当時のヤンキーブームを背景に、クレタクをベースにしたヤンキー仕様のカスタムなどが一部から好評価があるからのようです。今日では、ある意味「スクーター版・旧車會」的な価値を生み出しているクレタク。発売当時に青春時代を送った人たちにとって、記憶に残るほどのインパクトあるスクーターだったように思います。 

 

松田義人(ライター・編集者) 

 

 

 
 

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