( 262689 )  2025/02/09 15:25:07  
00

インバウンド客向けの海鮮丼や肉串を提供する店が観光地に増えており、物価の高さにより複雑な気持ちになる人もいると報告されています。

日本各地において、同様に高額設定された商品やサービスが提供される場所が増えており、「ニセコ化」が進行していると指摘されています。

都市ジャーナリストの谷頭和希氏が新著で指摘した「ニセコ化するニッポン」について、具体例や報道が引用されています。

観光地や商店街において外国人観光客をターゲットにした高価格設定や施策が行われ、これにより一部の国内客を排除する現象が起こり、日本人からも一部の施設が「ニセコ」的な受け止め方をされているとの批判が存在します。

これらの動きに対して、施設側はその多様性を重視し、選択肢の幅広さを保つ取り組みも行われているが、日本の国内観光地が値上げや外国人観光客重視の施策を取ることで、一部の日本人客層を排除しているとの批判が浮上しています。

(要約)

( 262691 )  2025/02/09 15:25:07  
00

インバウンド向けに、海鮮丼や肉串を販売する店が、観光地に増えています。なぜモヤモヤしてしまうのでしょうか?(筆者撮影) 

 

おにぎりが1000円、カツカレーは3000円、リフト券は1日1万500円……。 

ニッポンであってニッポンではない場所「ニセコ」。訪れる人の多くがインバウンド客で、日本語よりも英語の看板が目立つこの場所は、「選択と集中」によって独自の成功を収めました。物価の高さに複雑な気持ちになる人もいるでしょうが、実は日本を見渡すと、同じように“ニセコ化”が進んでいる場所は少なくないことに気づきます。 

都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家の谷頭和希氏の新著『ニセコ化するニッポン』より一部抜粋してお届けします。 

 

■注目されるニッポン・テーマパークの「高額っぷり」 

 

 最近のインバウンド向け「ニッポン・テーマパーク」がそれまでと異なるのは、そこで売られている商品やサービスの値段の「高額っぷり」が必ずセットで報じられることだ。 

 

 例えば、「豊洲 千客万来」。この施設については開業当初から、以下のような内容のニュースが飛び交っていた。 

 

「インバウン丼だ」海鮮丼が1万5000円!  豊洲市場にオープンの新スポット 外国人観光客らでにぎわう(FNNプライムオンライン、2024年2月1日) 

 

 「インバウン丼」とは、「インバウンド」と「どんぶり(丼)」をかけあわせた言葉で、外国人観光客に向けている非常に高額な海鮮丼などを総称してこう呼ぶ。 

 

 千客万来がオープンしたぐらいから、ネットを中心としたミーム的な言葉として広がりはじめ、最近では一般名詞として定着してきた感じもある。確かに、場内には1万8000円のうに丼もあるという。 

 

 豊洲市場に隣接し、新鮮な海鮮が食べられるのが千客万来の「強み」である。その「強み」をもっとも享受したいのはインバウンド観光客だということになる。 

 

 彼らに向けて選択された値段設定、そして彼らが楽しめるような空間作りに集中した結果が、千客万来なのかもしれない。まさに「ニセコ化」がわかりやすく発生しているのだ。 

 

■海外富裕層を狙い撃ち?  新宿には超高級ホテル 

 

 また、「東急歌舞伎町タワー」でも同様の現象が起こっている。特に、高層階にあるホテルは、宿泊料金が一室300万円を超える部屋もあるぐらいで、こちらも話題になった。 

 

 加えて、このビルが誕生して1年ほどたったあと、現地を訪れたルポによれば「ビル内の居酒屋のメニューは、特段高いというわけではないが、新宿の大衆居酒屋の料金より、少しばかり高く感じてしまう。 

 

 

 近くの居酒屋と比べると1割から2割ほど値段が高く、ちょっとした居酒屋感覚で利用すると、料金はかさむ。そのうえ、チャージ料金も発生しているため、歌舞伎町の居酒屋としては比較的高めの値段になっている」とある(白紙緑「【特別ルポ】ついに撤退した店舗も…オープン当初は大賑わいだった『東急歌舞伎町タワー』の悲惨な現状」)。 

 

 施設全体の商品・サービスの料金が少し高いわけである。 

 

■大阪「黒門市場」もニセコ化?  

 

 こうした流れは東京だけで起こっているわけではない。 

 

 例えば、大阪の日本橋にある商店街「黒門市場」も同様の事態となっている。ここは、大阪に格安航空が就航した2011年以降に外国人観光客が増え、今ではそこにいる多くの客が外国人観光客だという。 

 

 そして、そこで売られているウニやカニなどは、一般的な日本の市場の価格からすると目が飛び出るような値段。 

 

 私も現地を訪れてみたが、中には神戸牛の串焼きが1本4000円、カニの足は4本で3万円と、一般的な感覚からすると信じられないような値段の商品も売っていた。 

 

 こうした店の多くは、コロナ禍で閉店した後に作られ、商店街の振興組合に入っていないお店で、明確に外国人観光客だけをターゲットにしているという。 

 

 こうして見ていくと、近年のインバウンド向け国内観光地では、ニセコ的な高価格の設定がかなり意識的に行われていることがわかる。その結果、客層の「選択」が発生しているのだ。 

 

 こうした商品の値段が国際的な相場からみて高すぎるのかどうかは、難しいところだ。 

 

 特に「豊洲 千客万来」の場合、さまざまな品目において物価高が進行している現在では、こうした商品の値段が高騰するのは当然のこと。産経新聞(2024年3月10日掲載)によれば、施設の担当者は「できるだけ良い素材を使って良い商品を提供するのが店側の考えで、不当に高額な価格設定にはしていない」と述べている。 

 

 

 加えて、千客万来には高価な商品だけが集まっているわけではない。比較的安い値段の商品が集まった店もあれば、食べ歩きをするための屋台もあって、選択肢は幅広い。価格選択の多様性は担保されている(その点で「選択と集中」をしきれていない問題もある)。 

 

 また、東急歌舞伎町タワーが「さまざまな『好き』の想いとともに街の未来や文化、延いてはさらなる多様性を紡いでいくこと(MASH UP)を目指します」と、「多様性」を謳う施設作りを行っている。 

 

 あるいは、黒門市場などでも、いわゆる「インバウンド向け」に高額の商品がある店はいくつかの店舗に限られており、地元民向けの店も多く存在している。つまり、事業者側は、必ずしもインバウンドだけに向けた施設ではないとしているのだ。 

 

 とはいえ、ニセコ報道の影響もあって、「豊洲 千客万来」を一躍有名にしたのは、この「インバウン丼」という言葉だったし、東急歌舞伎町タワーの評判を見ても、「外国人しか相手にしていない」なんて言葉が並んでいる。 

 

 また、黒門市場の評判も散々だ。施設の実態を離れて、「ニセコ」的な受け止め方がされているわけだ。 

 

 思惑とは裏腹にこうした評判が立ってしまったのは、かつてより、外国人観光客向けの「囲い込み」が露骨に感じられるようになってきたからだろう。 

 

 施設側は認めたくないかもしれないが、「選択と集中」、そしてそれによる「静かな排除」を、日本人がうっすらと感じていることの表れなのである。 

 

■「渋谷」もニセコ化している 

 

 国内観光地が、多かれ少なかれ「ニセコ化」していることを見てきた。こうした変貌を街レベルで遂げつつあるのが渋谷である。スクランブル交差点の風景はあまりにも有名で、訪日観光客からも絶大な人気を誇る街である。 

 

 ちなみに、2023年度、渋谷はインバウンド観光客の訪問率が1位となった。なんと外国人観光客全体の67.1%が渋谷を訪れているというのだから驚きだ。 

 

 このように外国人観光客から絶大な人気を誇っている渋谷だが、この街もまさに「ニセコ化」しつつある。 

 

 

 これまで渋谷は「若者の街」というイメージで語られてきた。センター街(現・バスケットボールストリート)を中心として若者向けの店が立ち並び、少しガヤガヤとした街並みが広がっていた。 

 

 2021年にメトロアドエージェンシーが行った東京に関するイメージ調査では、「渋谷」について、回答者の「78%」が「若者向けの」という回答をしたことがわかっている。 

 

■再開発で変化する渋谷、「泊まる街」に?  

 

 しかしそんな渋谷では現在、100年に一度ともいわれる大規模な再開発が進行中だ。 

 

 再開発の中心にいるのは東急グループで、渋谷駅周辺に「スクランブルスクエア」や「ヒカリエ」「フクラス」など、多くの新しい商業ビルを建てている。渋谷を訪れたことがある人ならばわかるかもしれないが、この街はいつも工事をしていて、いつ来ても街並みが変化している。 

 

 そんな渋谷はどう変わろうとしているのか。日経クロステックが編集した『東京大改造』は、2030年に東京がどのように変わるのかを取材しており、ここでも渋谷は大きく取り上げられている。この本を紹介した日経クロステックのサイトではこのように説明されている。 

 

高級ホテルが少ない東京・渋谷に変化の兆しが見えている。2024年以降、渋谷を地盤とする東急グループと新たに進出するライバル企業のホテル対決が渋谷駅周辺で本格化する。 

再開発が目白押しの渋谷では、大型複合施設の目玉として高級ホテルを誘致する動きが活発である。東京を訪れるインバウンド(訪日外国人)が行きたい場所として名前が挙がる渋谷は遊ぶだけでなく、「泊まる街」に生まれ変わりそうだ。 

(川又英紀「渋谷が高級ホテル急増で『泊まる街』に、東急陣営とインディゴやトランクが激突」) 

 

 それまで「泊まる」イメージのなかったところに高級ホテルを建設し、インバウンド観光客を取り入れるのが、現在の渋谷の姿なのである。 

 

 また、これだけではなく、例えば、2019年にリニューアルオープンした渋谷PARCOの中には、「ニンテンドーショップ」や「ポケモンセンター」といった海外でも大人気の日本のコンテンツを押し出すテナントが多く入居している。 

 

 渋谷PARCOの店長によれば、こうしたショップの人気はすさまじく、多くの人が、これらの場所に立ち寄るのだという(横山泰明「絶好調の渋谷パルコ、23年度の売上高は前年比1.5倍 直近4月も44.2%増 平松店長が語る『インバウンドと改装』」/ 

 

 

 
 

IMAGE