( 262759 )  2025/02/09 16:42:14  
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名古屋市は訪日客に人気がないという問題が指摘されている。

他の観光地に比べて特徴や独自の魅力があまり感じられないため、観光客が名古屋市を素通りすることが多い。

観光局や地元では積極的な取り組みを始めており、名古屋市を観光の拠点とする方針を打ち出している。

名古屋市自体の知名度向上や観光地の魅力強化が必要とされている。

(要約)

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JR名古屋駅に到着した東海道新幹線(画像:高田泰) 

 

 訪日外国人観光客の殺到で観光公害が各地で問題になるなか、名古屋市が蚊帳(かや)の外に置かれている。三大都市圏に数えられる大都市なのに、なぜ“負け組”になってしまったのだろう――。「名古屋はどこにでもある都会で、城以外に見るところがない。がっかりだよ」1月末、名古屋市を代表する繁華街・栄地区(中区)で出会ったシンガポールの家族連れ。父親が近くの中部電力未来タワーへ向かう途中、名古屋観光にがっかりした表情を見せる。 

 

 この家族は3回目の来日。最初はコロナ禍前の2019年、京都市、大阪市など関西を旅した。2度目は2023年、東京都から岐阜県の飛騨高山などを回っている。今回は再度、関西を中心に観光しながら、名古屋市に足を延ばした。このあと、気を取り直して三重県や奈良県に向かうそうだ。 

 

 2024年の訪日客は、日本政府観光局の推計で約3687万人に達し、過去最高を記録した。コロナ後の反動と円安の影響で日本に注目が集まったからだ。しかし、大阪市に本社を置く大手旅行代理店は 

 

「初来日の人が増えたこともあり、訪日客の多くが首都圏から富士山、関西を回るゴールデンルートに集中し、名古屋市を素通りしている」 

 

と指摘する。 

 

久屋大通公園に立つ中部電力未来タワー(画像:高田泰) 

 

 名古屋市は人口約233万人。自動車産業で栄え、東京23区、横浜市、大阪市に次ぐ大都市なのに、栄地区やJR名古屋駅周辺の名駅地区(中村区)を歩いても、訪日客の姿はまばら。栄地区の百貨店は 

 

「訪日客は徐々に回復してきたが、東京や大阪、京都ほど伸びていない」 

 

と残念そう。 

 

 名古屋市によると、市内の外国人延べ宿泊客数は2023年で約183万人泊。コロナ禍前の2019年に比べ、8割強にとどまっている。2024年はもう少し回復したとみられるが、訪日客で公共交通や観光地が混雑することはほとんどない。大手ビジネスホテルチェーンの宿泊価格も大阪市や京都市より低めに設定されている。 

 

 観光庁がまとめた愛知県の2023年訪日外国人延べ宿泊者数は約201万人泊。東京都の約4364万人泊、大阪府の約1876万人泊より一桁少なく、全国都道府県で9位に位置する。日本政府観光局が推計した訪日外国人訪問率も愛知県は5.8%で11位。東京都の52.9%、大阪府の39.6%から大きく引き離されている。 

 

 

1893(明治26)年の名古屋(左)と、戦災後の1949(昭和24)年の名古屋(画像:国土地理院、時系列地形図閲覧ソフト「今昔マップ」〔(C)谷謙二〕) 

 

 訪日客は日本の 

 

「その土地ならではの雰囲気」 

 

に非日常を感じている。京都市なら歴史ある名刹や京町家が続く街並み、大阪市なら個性あふれる飲食店が並ぶ道頓堀界隈だ。地方だと合掌造りの集落・白川郷がある岐阜県白川村、江戸時代の武家文化が残る石川県金沢市が人気を高めている。 

 

 しかし、名古屋市にはそうした独特の雰囲気を感じさせる場所が少ない。戦災で江戸時代の城下町が残っていた旧市街がほぼ焼け野原となったあと、戦後復興で広い道路と近代的なビルに囲まれた街になったからだ。高度経済成長期には名古屋市がコンクリートばかりの街だとして「白い街」というご当地ソングを石原裕次郎さんが歌った。 

 

 名古屋城(中区)、熱田神宮(熱田区)、徳川園(東区)、トヨタ産業技術記念館(西区)、レゴランド名古屋(港区)などそれなりの観光地はある。ひつまぶし、味噌カツなど名古屋めしも好評だ。しかし、「これが名古屋」という街のインパクトは、京都市や大阪市などに比べてはるかに弱く、訪日客の心をつかめていない。 

 

 名古屋市自体の知名度も低い。訪日客が殺到する京都市のJR京都駅烏丸口で清水方面行きのバスを待つ訪日客5組に話を聞いたところ、欧米系の4組は名古屋市の存在を知らなかった。インドから来た老夫婦だけが「知っている」と答えたが、名古屋駅を飛騨高山への列車乗り換え場所として利用しただけで、駅の外へ出ていないという。 

 

 名古屋市観光推進課は 

 

「海外の観光パンフレットや情報誌に名古屋市の情報掲載をお願いしても、なかなかうまくいかない。東京や大阪、京都は大々的に取り扱っているのに」 

 

と頭を抱えている。 

 

海外富裕層向けイベントが催された名古屋城(画像:高田泰) 

 

 現状打開に向け、官民とも積極的な動きを見せ始めた。名古屋市は2024年末「どえらい名古屋。ストラテジー」と銘打った観光戦略を策定、そのなかで中部圏の玄関口としての機能を向上させ、広域観光の拠点とする方向を打ち出している。 

 

 近隣では、現存する日本最古の天守を持つ犬山城(愛知県犬山市)が2024年、訪日客を中心に過去最多となる60万人以上の入場者を集めた。伊勢神宮(三重県伊勢市)や下呂温泉(岐阜県下呂市)も鉄道で日帰りできる。 

 

 名古屋市内だと名古屋城はそれなりに訪日客を集めているほか、大須商店街(中区)の食べ歩きが訪日客に好評で、名古屋駅を拠点にこれらを結ぶ周遊ルートの整備を視野に入れているわけだ。 

 

 愛知県は「あいち観光戦略2024-2026」に基づき、八丁味噌などを使った名古屋めしの売り込みやインフルエンサー経由で名古屋情報の発信、海外富裕層の誘致に力を入れている。愛知県観光振興課は 

 

「名古屋の訪日客回復は首都圏や関西より遅れているが、地道な取り組みで巻き返したい」 

 

と意欲を見せた。 

 

 富裕層対策では2024年11月、名古屋城で一般公開が終わったあとの夜間に晩さん会付きのツアーや江戸時代の将軍体験ツアーが民間主導で催された。料金は1人25万~180万円と超高額だが、それでも海外富裕層が貸し切りの名古屋城を満喫している。 

 

 名古屋市を単なる通過点から周遊コースの中核に変えるには、市内の観光地に磨きをかけるとともに、見せ方にもっと工夫が必要だろう。名古屋市に満足して帰る訪日客を増やさなければ、知名度も人気も高まらない。 

 

高田泰(フリージャーナリスト) 

 

 

 
 

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