( 262796 ) 2025/02/09 17:24:07 0 00 お台場(画像:写真AC)
実業家の堀江貴文氏(ホリエモン)が公開したYouTube動画「【緊急対談】「フジテレビに上納文化はあります」日枝久が作った“歪な構造”を元フジアナウンサー・長谷川豊が猛烈批判」が大きな注目を集めている。2月6日朝時点で視聴回数は641万回を超えており、その反響は非常に大きい。
動画のなかで、堀江氏が提案した「お台場でF1とカジノをセットで開催する」という構想が話題となっている。
「お台場でF1とカジノやって欲しいんですよね。吉村(洋文、大阪府知事)さんたちは大阪に呼びたいと思ってるんだけど、やっぱり東京ですよ。なんだかんだいって東京じゃないですか。東京だったらFIA(国際自動車連盟)もOKすると思うんですよ。日本で鈴鹿と東京やらせてくれと。そりゃOKすると思うんですよ」
大阪のIR(統合型リゾート)計画と連携しながら、F1を東京に誘致すべきだという堀江氏の主張は、一見して非常に合理的に感じられる。しかし、果たしてこれは実現可能な構想なのか、それとも単なる夢物語に過ぎないのか。
本稿では、国際的なモータースポーツ運営の現実、東京都の都市政策、そしてF1がもたらす経済的影響力を踏まえ、この構想を多角的に検証する。さらに、シンガポールGPやラスベガスGPといった他国の事例を参考にしつつ、日本における都市型F1の可能性を探る。
モナコ(画像:写真AC)
F1の市街地レースにはいくつかの成功事例が存在する。代表的なものとして、モナコGP、シンガポールGP、そして2023年に復活したラスベガスGPがある。これらのレースは、市街地を閉鎖して一時的なサーキットを設営し、都市の魅力を最大限に活用する形で開催されている。
では、東京はこれらの都市型レースに適しているのか――。
FIAの基準によれば、F1を開催するためには特定の安全基準を満たしたコース設計が必要だ。市街地コースであっても、
・一定の直線距離やコーナーの幅 ・ランオフエリア(クラッシュ時の安全確保のための空間)
を確保しなければならない。お台場エリアに関していえば、広い道路があるものの、コース設定にはいくつかの課題が存在する。
まず、F1の魅力のひとつである高速ストレートを設けるには、お台場の道路網はあまりにも短いという問題がある。次に、ランオフエリアの確保が必要だが、市街地レースにおいては十分な安全エリアを確保するためのスペースが限られている。また、観客をさばくための大量輸送手段も必要であり、ゆりかもめやりんかい線のキャパシティでそれに対応できるのかという懸念もある。
これらの要素を考慮すると、「お台場でF1」というアイデアは単なる思いつきにとどまらず、詳細な設計と調整を必要とすることがわかる。
シンガポール(画像:写真AC)
F1の開催には膨大な費用がかかる。ラスベガスGPの場合、総投資額は約5億ドル(約763億円)に達し、コース設計だけでなく
・インフラ整備 ・観客席の設置 ・安全対策 ・マーケティング費用
などが含まれている。
仮に東京でF1を開催するとなった場合、誰がこのコストを負担するのだろうか。
現在、F1を開催している国々では、政府や自治体が資金提供を行っているケースがほとんどだ。しかし、日本では国がこのようなイベントに資金を投じることは考えにくく、東京都が主導する形になる可能性が高い。しかし、東京都が巨額の税金をF1に投入することに対して、都民の理解を得られるかは不透明だ。
また、F1の収益構造にも課題がある。F1の収益の大部分は放映権収入に依存しており、日本GP(鈴鹿)がすでに存在するため、東京で新たに放映権を確保できるかは不明だ。チケット販売についても、シンガポールGPでは1枚数万円以上のチケットが売れるが、果たして日本で同じ価格設定が可能なのか。さらに、東京には多くのグローバル企業があるが、F1のスポンサーとしてどれほど名乗りを上げる企業が現れるかも予測がつかない。
ラスベガスGPが実現した背景には、カジノ資本の強力な後押しがあった。東京での開催も、同様に資本力を持つプレイヤーの支援が必要になるだろう。
鈴鹿(画像:写真AC)
堀江氏は「カジノとセットでF1を開催するべきだ」と提案したが、これはラスベガスGPの成功事例をモデルにしたものだろう。しかし、日本のカジノ政策を考慮すると、このアイデアが実現するのは容易ではない。
日本では、IR整備法に基づき、カジノは厳格な管理の下で運営される。大阪のIRは2025年の万博後に開業を予定しているが、東京には現時点でIR計画は存在しない。仮に東京にカジノを誘致するにしても、法改正や地元の合意形成に時間がかかるため、F1との組み合わせを短期間で実現するのは難しい。
さらに、ラスベガスのように
「カジノ収益でF1を支える」
というモデルは、日本にはそのまま適用できない。日本のカジノはインバウンドを主要ターゲットとしているが、F1観戦者とカジノの顧客層がどれほど重なるのか、慎重に検討する必要がある。
2024年7月7日、イギリス中部のシルバーストン・サーキットで開催されたF1イギリスGPで優勝し、喜ぶメルセデスのルイス・ハミルトン(画像:AFP=時事)
「お台場でF1を開催する」というアイデアは、実現に向けて非常に高いハードルが立ちはだかっている。コース設計の問題や、莫大な財政負担、収益構造に関する課題があるのはもちろん、カジノとの相乗効果の不確実性や、国や東京都の政策的優先順位も考慮しなければならない。
一方で、東京が世界的な都市であることを考慮すれば、F1開催が都市のブランド力向上に寄与することは間違いない。しかし、現実的な方法としては、フルスケールのF1ではなく、フォーミュラE(電動レース)の誘致や、デモ走行イベントの開催から始める方が適切だろう。
堀江氏の発言は一見すると突飛な提案に思えるかもしれないが、日本のモータースポーツ産業にとっては重要な論点を投げかけている。東京でのF1開催を実現させるためには、単なる熱意だけではなく、緻密な戦略と現実的な調整が必要不可欠だ。
小西マリア(フリーライター)
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