( 262854 ) 2025/02/09 18:20:02 1 00 英国がEU離脱(ブレグジット)して5年が経過し、期待された効果が得られず経済の低迷や貧困が拡大している。 |
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英国がEUから離脱(ブレグジット)して間もなく5年になる。期待された効果は得られず、経済の低迷や貧困が広がり、国民からは後悔する声も上がっている。政治も混迷を極め、EU離脱を強硬に主張した新興の右派勢力が躍進し、昨年は14年ぶりに政権交代が起こる事態となった。一体、英国はどこに向かうのか。日経新聞の編集委員である小平龍四郎氏が解説するーー。
英国は2016年の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱「ブレクジット」を決め、20年1月末に実施した。それから5年。英国社会にはブレクジットへの後悔の念が静かに広がり、スターマー首相は「リセット」を掲げEUとの関係改善に動く。米国でトランプ大統領が誕生し、ウクライナや中東、台湾などで地政学リスクが高まるなか、欧州地域の結束と安定はきわめて重要だ。英国とEUは新時代の建設的な関係を築けるだろうか。
英調査会社ユーガブの1月下旬の調べによれば、ブレクジットが「間違いだった」との回答が全体55%、「正しかった」とする33%を大幅に上回った。EU再加盟を望む声も増えている。離脱後の英国経済が期待に反して低迷していることが背景にある。
2019年から現在までに英国のモノの輸出は年率で0.3%しか伸びていない。これはOECD(経済開発協力機構)加盟国の平均4.2%を大幅に下回る。輸出の4割を占めるEU向けは手続きが煩雑になり、約2万の中小事業者はEU向け輸出を完全にやめてしまったという。EUからの輸入のコストも上がったため生活費が上昇、市民は不満を強める結果となった。中期的にブレクジットは英国の輸出を22%減少させ、輸入を14%減らす要因になるとの試算もある。また、経済成長率を5%下押しする要因になるとの指摘もある。
一方、ブレクジットの機運をもり立てた移民問題は、ポーランドなど中東欧からの移民は抑制できたものの、かわってインドやアフリカ諸国からの移民が増えた。結果として「移民が労働者の職を奪っている」という不満はあまり解消されていない。
昨年7月の総選挙で14年ぶりの政権交代を実現した労働党のスターマー首相は、EUと関係の「リセット」を掲げ、関係改善の機会を探っていた。今年2月5日には非公式のEU首脳会議の晩さん会に招待を受けて出席。欧州各国のリーダーたちと主にウクライナ支援を含む防衛問題について議論を交わした。
スターマー首相の「リセット」を欧州諸国は基本的には歓迎しつつ、具体性に欠けるため、不満の声も聞かれる。2月のEU首脳会議をきっかけに、具体的な関係改善に向けてペースを上げられるかどうかが問われるところだ。
何よりも求められるのは政治の強いリーダーシップだ。しかし、労働党は定数650の下院のなかで400超の議席を有しているとはいえ、スターマー首相の政権基盤は必ずしも盤石ではない。
英国内ではブレクジットへの後悔が高まる一方、EU離脱を主導した政治家のひとり、ナイジェル・ファラージ氏率いる右派政党「リフォームUK」への支持が、各種世論調査で与党労働党に肉薄する現象も見られる。一方、米トランプ政権に近い実業家のイーロン・マスク氏もリフォームUKへの支持を表明するなど、外部からの撹乱要因もある。
さらに「親ビジネス」を掲げたスターマー政権だが、大規模な増税を表明などにより、経済界からの批判も高まりつつある。選挙公約を破ったとして総選挙の再実施を求める請願が高まったこともある。肝心の経済成長も24年7~9月期の実質GDPが前期比ゼロ成長に下方修正され、およそ半年前の総選挙後の労働党への期待ははげ落ちてきた。
分断が進む世界にあって、欧州の安定はきわめて重要だ。ウクライナ支援を途切れさせないためにも、英国とEUの関係は欠かせない。ブレクジット後の英国はアジアとの関係強化に動いた。先進的・包括的環太平洋経済連携協定(CPTPP)への加入はその具体的な成果だ。日本は同連携協定の主要国であり、次期戦闘機開発でも英国との協力関係を深めている。EUとの関係改善も後押しすべき選択肢だ。
小平龍四郎
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