( 263641 ) 2025/02/11 14:48:32 0 00 写真はイメージ(gettyimages)
先月30日、埼玉県さいたま市立の小学校を除籍されたトルコ国籍の女児(11)が約半年ぶりに復学した。同市教育委員会が誤って除籍処分としたことについて、竹居秀子教育長は同月28日の定例記者会見で「あってはならないことをしてしまった」と謝罪した。
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約半年間学校に通えず、友だちと一緒に修学旅行にも行けなかった。
「トルコの学校よりも日本の学校のほうが好き。通い続けたかった」
そう、女児は復学を市教委に要請した支援団体「在日クルド人と共に」(埼玉県蕨市)の温井立央(ぬくい・たつひろ)代表に話したという。
女児の一家が来日したのは2022年。難民認定の申請を行い、特定活動の在留資格を取得した。女児はさいたま市立小学校の4年生に編入。しかし、6年生だった24年7月、難民と認定されず、在留資格を失った。
本来であれば、在留資格の有無にかかわらず、通学を希望し、市内在住を証明すれば、通学を継続できたはずだが、市教委は保護者に「日本に居住し続ける意思を証明する書類を求めたが、提出しなかった」として女子児童を同年9月、除籍処分とした。
■川口市では除籍は「ない」
温井さんらが一家の親戚から「女児が小学校に通えなくなっている」と相談を受けたのは昨年12月末だ。「さいたま市に隣接する川口市や蕨市ではそのような話は聞いたことがない。おかしい」と思った。
温井さんは女児が通っていた小学校に除籍の事実を確認したうえで、今年1月23日、さいたま市教委を訪ね、復学を要請した。しかし、「除籍にした理由は間違っていない」という反応だったという。
「市教委は『保護者から難民申請書などが提出されなかったので』と言う。われわれは『そのような書類は必要ないはずです』と伝えたのですが、理解していただけませんでした。対応が変わったのは翌24日朝、東京新聞が報じたことがきっかけだと思います」(温井さん)
在留資格が取り消されると、住民票も抹消され、原則は学籍もなくなる。市教委の担当者によると、温井さんの訪問時は、「学籍を更新するためには入管(出入国在留管理庁)の手続き書類の確認が必要」だと考えていたという。
「メディア報道があって、文部科学省や隣接市に問い合わせたところ、われわれが必要ない書類を保護者に求めていたことを確認しました」(さいたま市教委の担当者)
さいたま市から問い合わせのあった川口市教委によると、在留資格を失った児童・生徒について、小中学校を除籍にしたケースは「ない」という。
「川口市は外国籍のお子さんの多い自治体ですが、就学を希望する方には『国籍を問わず、学びにつなげる』というスタンスを持ち続けてきました」(川口市教委の担当者)
子どもが住む場所が確認できないと学区を決められないので、住民票がない場合はアパートの賃貸契約書など、居住実態がわかる資料を提示してもらう。ただ、保護者が日本語をあまり理解できず、資料を見せてもらえないケースもあるという。
「日本語の会話がある程度できる人に間に入ってもらい、大家さんと連絡をとり、子どもが確実にそこに住んでいることを証明してもらうこともあります」(同)
■文科省は周知の徹底を
外国人の子どもの人権問題に取り組む河野優子弁護士は、在留資格のない子どもであっても教育を受ける権利があることに関して、次の点に言及する。
日本が批准する「子どもの権利条約」は、すべての子どもの教育を受ける権利を明記しており、条約の解釈指針である「一般的意見(23)」は、在留資格の有無に関わらないことを明確にしている。
「教育を受ける権利の遵守に忠実であるならば、安易な除籍処分はあり得ません」(河野弁護士)
内閣総理大臣答弁書(11年12月16日付)は、「我が国の公立の義務教育諸学校においては、在留資格の有無を問わず、就学を希望する外国人児童生徒を日本人児童生徒と同様に無償で受け入れる」としている。
文科省は12年7月、外国人の子どもの就学機会の確保に当たっての留意点について、次のような通知を出した。
「仮に、在留カード等の提示がない場合であっても、一定の信頼が得られると判断できる書類により、居住地等の確認を行うなど、柔軟な対応を行うこと」
さいたま市のケースでは、市教委はこの通知を「拡大して読んでしまった。われわれの認識不足に尽きる」として、今年1月24日、野津吉宏学校教育部長と菱沼孝行学事課長が謝罪した。先の温井さんは、こう指摘する。
「今回はたまたま、われわれに連絡があって除籍された児童がいることが発覚した。さいたま市ではずっとそのような対応が続いてきた可能性がある」
河野弁護士は、先の答弁書の内容に反して、児童・生徒が学校に通えないケースがほかにもあるとすれば「問題は極めて大きい」という。
「教委に在留資格の有無が優先するかのような考え方があれば、それを変えていく必要があります。文科省は直ちに、在留資格がなくても通学できることの周知を再度徹底すべきです」(河野弁護士)
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)
米倉昭仁
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