( 263694 )  2025/02/11 15:51:30  
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SNSを積極活用した選挙戦略で知られる石丸伸二氏が東京都知事選で多くの票を集め、地域政党「再生の道」を設立した。

しかし、公職選挙法違反(買収)の疑いが指摘されるなど、論議を呼んでいる。

若者の中で「石丸離れ」の動きもみられ、専門家は石丸氏の政治戦略には話題性を維持することが含まれていると指摘している。

(要約)

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東京都知事選での街頭演説後、聴衆とハイタッチする石丸伸二氏=2024年7月 

 

 SNSを駆使した選挙戦略で東京都知事選では多くの票を集め、地域政党「再生の道」を立ち上げた石丸伸二氏。6日に開いた記者会見では、すでに490人の応募があったことを明らかにした。ただ、都知事選でのライブ配信業者への支払いをめぐっては、公職選挙法違反(買収)の疑いがあることを指摘され、石丸氏自身も「不備があったのは事実」としている。少し前の記者会見では、フリーの記者に厳しい参加条件をつけたことが騒動にもなった。何かと話題が多い石丸氏だが、先の都知事選などで見えた熱狂的な支持者のうち、若者の“石丸離れ”の動きが顕著に出ているという。専門家は「それも織り込み済みでは」と話すが、どういうことだろうか。 

 

*  *  * 

 

「石丸さんにはもうついていけない」 

 

 そう語るのは、東大生の加藤雄太さん(仮名/23歳)。もともとは熱心な“石丸信者”の一人で、都知事選の時は街頭演説にも足を運んだという。 

 

「石丸さんのことは安芸高田市長の時代からSNSのショート動画で見ていました。議員や地元メディアに対し、真っ向からしっかりものを言っていた姿が印象的でした。SNSで身近に感じていた政治家だったこともあって、都知事選の時は街頭演説に10回くらい足を運びました」 

 

 加藤さんはその後も石丸氏を追いかけ、SNS上での配信や、ニュースをこまめにチェックし、石丸氏の動きに注目していたという。 

 

■フリー記者を排除した記者会見 

 

「石丸さんは、自分のゼミや仲間内でもよく話に出てきます。周りの学生たちも、石丸さんが新しい風を吹かせてくれるだろう、と期待する声が多かったんです。世間で石丸さんが話題になっていたこともあって、腐った世の中を変えてくれるのでは、と思っていました」 

 

 そんな中、加藤さんの気持ちを折る出来事があった。石丸氏の新党「再生の道」の記者会見だ。 

 

 石丸氏は会見への参加資格について、都庁記者クラブや雑誌協会に所属する大手メディア以外のフリーランス記者に対しては、「登録者数100万人相当のネット媒体」であるかどうかを基準として設けた。その結果、ほとんどのフリー記者の出席を拒む形となり、会場の入り口付近では、もめる騒ぎとなった。 

 

 さらに石丸氏は会見冒頭でその騒ぎに触れ、 

 

「ラーメン屋の開店前みたいになっていたんですが、あのみな様はどなたなんですかね」 

 

「出待ちなのかな? 私も暇があればお付き合いするのは構わないのですが」 

 

「この後もスケジュールがありまして、可能な限りでいじって差し上げたいと思います」 

 

 などとちゃかすような発言をした。 

 

 

 この一幕に石丸信者も反応した。 

 

 SNS上では、 

 

〈まるで独裁者〉 

 

〈政党自体は面白い取り組みだと思うけど、記者会見がやだな…〉 

 

〈オープンじゃないのはなんかやましいことがあるからなのか〉 

 

 といった言葉が多く見られた。 

 

 加藤さんはこの騒動について、 

 

「あの会見でのフリージャーナリストたちの締め出しというか、条件を設けたのは驚きました。もちろん、フジテレビの一件を含め、取材のマナーなどを見直す必要があるとは思いますが、それでも本来、会見は開かれているべきだし、政治家は開かれた会見で説明する責任がある立場です」 

 

 と話した。 

 

■若者にウケが悪かった「石丸劇場」 

 

「記者を“排除”した会見は、周りの反応も非常に悪かったです。若者的には結構嫌だったと思います。私はSNSだけで回ってくる情報にへきえきしていたから、多くのメディアとSNSのどちらからも情報を得て整理していたんです。情報を統制するようなやり方は、“独裁者”のようなにおいがして、とても嫌だなと。小池百合子都知事と同じような雰囲気を感じました」(加藤さん) 

 

 加藤さんは、その後、石丸氏の“信者”から一歩引いた目線で見るようにしたという。 

 

 こうした若者の動きについて、社会とメディアの関係に詳しい日大の西田亮介教授は、 

 

「石丸劇場は、賛否どちらも巻き起こすことを目的としているのではないでしょうか」 

 

 と指摘し、こう話す。 

 

「大前提ですが、石丸氏に集まってくる人は、高齢者層や働く人など中年男性中心にかなり多様な印象です。そして、石丸氏に集まる人は、一人一人の熱量がとても高いのが特徴的です」 

 

 筆者が以前の取材で、石丸氏のファンだという中高年層に話を聞いた際も、「政治家の支持者」というより「アイドルの追っかけ」に近い感覚で、驚いた記憶がある。 

 

 西田氏がこう続ける。 

 

「『再生の道』の記者会見は、完全に“石丸劇場”でした。始まる前の会見キャンセル騒動から、終了後に石丸氏に向けられた批判、メディアの反応まで、すべてが石丸さんの演出ではないでしょうか。記者クラブの一件は、否定的な意見もありますが、一方で合理的だという意見も多く見られます。おそらく石丸氏は、賛否両論が巻き起こることも織り込み済みだったという印象です」 

 

■専門家「話題に残り続けることが戦略」 

 

 加藤さんのように、SNSで反応していた若者のファンが離れていくのも自然の流れだったのだろうか。 

 

「なにも若者に限った話ではありません。“劇場型”を求めていない人にとってみれば違和感を覚えるでしょう。みなそれぞれに石丸劇場に対しての“耐性”があると思うので、ついていけなくなる人は一定数いると思います。都知事選から半年以上たった今、新たな動きで波風を立てているわけですから、ファンたちに動きがあってもおかしくはないですね」 

 

 ただ、ファンが離れることもすべて織り込み済みとなると、新党を立ち上げ、都議選に臨もうとしている石丸氏の狙いはどこにあるのだろうか。 

 

 西田氏がこう説明する。 

 

「石丸氏からしてみれば、賛否両論ある状態を望ましい状態と考えているのではないでしょうか。そもそも、今の時代は若者に限らず、SNSで情報を取ってくることが主流です。賛否両論巻き起こるのもSNSだし、話題として残り続けるのも結局SNSなんです。自身の“ファン”が減ったとしても、話題に残り続けることに石丸氏の政治戦略の狙いがあると考えています」 

 

(AERA dot.編集部・小山歩) 

 

小山歩 

 

 

 
 

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