( 263744 ) 2025/02/11 16:50:36 1 00 ホンダと日産自動車の経営統合が破談になり、世界の自動車市場での競争がますます激しくなっている。 |
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ホンダと日産自動車の経営統合が「白紙」となった。昨年末の基本合意から1カ月あまりでの打ち切りは「1+1=2」とはならない深い溝を感じさせる。なぜ協議は破談となったのか。そして、日本の自動車産業はどうなるのか。経済アナリストの佐藤健太氏は「熾烈な競争を繰り広げる世界の自動車業界をにらめば、単独での生き残りは難しいだろう。統合見送りによって『日の丸勢』の先行きは混沌と言える」と見る。
やはり、というのが大方の見方ではないだろうか。昨年12月23日、ホンダと日産自動車は経営統合に向けて本格協議に入ると発表した。両社が傘下に入る形で2026年8月に持ち株会社を設立し、経営統合による効率化とともに相乗効果を発揮させていくというスキームだった。
世界の自動車市場で存在感を高める米テスラや中国のBYDなど新興EVメーカーの台頭をにらめば、単独での生き残りは簡単なことではない。ホンダと日産が統合後、「世界第3位の自動車メーカー」となるスケールメリットを活かして競争力を高め、遅れるEV(電気自動車)分野などでの失地回復を目指すのは当然の流れと言えた。
だが、昨年末の記者会見で気になったのは、ホンダの三部敏宏社長が「締結した合意はあくまでも経営統合に関する検討を正式に開始するという段階であり、その実現に向けてはまだ議論すべき点が存在する。率直に申し上げれば成就しない可能性も『ゼロ』ではない」と語っていた点だ。
三部社長は「両社が統合することで、あらゆる領域で化学反応が生まれることによるシナジー効果の可能性は想定以上に大きいことが再確認できた」と強調した上で、業績不振の日産に対する「救済ではない」と説明した。にもかかわらず、「その前提条件としては、日産のターンアラウンド(事業再生)の実行が絶対的条件になる」とクギをさしていたのだ。
たしかに数の上では、販売台数(2023年)が世界7位のホンダ(398万台)と日産(337万台)が経営統合すれば、首位のトヨタ(1123万台)、「フォルクスワーゲン」(923万台)に次ぐ世界3位の自動車グループが誕生する。三部社長は「世界トップレベルのリーディングカンパニーになることが可能」としたが、2024年9月中間連結決算で純利益が前年同期比93.5%減と低迷する日産の状況は深刻だ。
日産の内田誠社長は「実質的に我々がターンアラウンドできない、断念した、ということはない。2026年に日産が350万台レベルであっても利益が出るような会社に再生する。その道筋をつけていくのが私の責務だ」と説明したが、2024年11月に公表した全従業員の7%にあたる9000人リストラや世界生産能力の2割削減などの経営立て直し策は具体的ではなく、踏み込み不足にも映る。
2月5日時点の時価総額は、ホンダが約8兆円、日産は約1.5兆円だ。5倍ほどの差が生じているのだが、日産は「対等合併」にこだわった。世界で10万人以上の従業員と家族を抱える日産の経営陣からすれば、ホンダによる「救済」はプライドが許さなかったのかもしれない。
ただ、北米市場で販売が好調なハイブリッド車(HV)を投入できず、EVは中国勢との競争で劣る日産に残された選択肢は極めて少ないのが現状だ。事業再生が条件としていたホンダ側は具体化させない日産の姿勢に不満を募らせ、日産の子会社化案を打診したのは当然だろう。
子会社化案に反発した日産の内田社長は2月6日、ホンダの三部社長との会談で経営統合協議を打ち切る方針を伝えたが、そもそも社内からも「売れるクルマがない」との声が漏れる日産がどのように経営を立て直すつもりなのかわからない。両社は2024年3月に自動車の知能化・電動化時代に向けた戦略的パートナーシップに関する覚書を締結し、様々な領域で具体的な協議・検討を重ねてきた。同8月には次世代ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)向けプラットフォームの領域における共同研究契約も締結している。
内田氏が生き残り策を模索する中でホンダとの経営統合の道を見いだしたのはトップとして苦渋の判断だっただろうが、社長として自社の役員らをまとめる腕力が不足し、「現状打破」に向けた動きをスピーディーにできなかったのは深刻と言える。協議が破談した両社が分野ごとの協業などは引き続き進める可能性もあるが、日産がこのまま身動きができない状況となれば存在感の低下に拍車をかけるのは必至だろう。
激変する世界の自動車産業の中、日産とのスピード感の違いにホンダが苛立ったのは自然と言える。そもそも、ホンダのエンジニアには「日産の技術はいらない」(40代社員)との声が充満していた。日産は「e―POWER」という独自のハイブリッドシステムを持つが、高速走行には適さないと指摘されてきた。一方のホンダのハイブリッド車は1月にシビック・ハイブリッドが「2025北米カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞するなど北米市場で好調と言える。
ホンダの現場社員に話を聞けば、「部品共用化のコストメリット、ソフトウェア開発の費用分担などを考えれば、日産と一緒にやる意味はある」とは言うものの、統合よりも「提携」レベルが望ましいとの声が少なくない。その意味では、経営統合の道が閉ざされたのは許容範囲としても、その後もタッグを組めない状況が続けば両社にとって少なからずダメージとなり得る。
脱炭素に向けた電動化の流れが世界で加速する中、「日の丸勢」の勢いは芳しくない。価格競争力のある中国勢のEVはシェアを拡大し、日本のメーカーは押されっぱなしだ。調査会社「マークラインズ」によれば、世界のEV販売台数(2023年)の首位はテスラ(約175万台)で、2位は中国のBYD(約145万台)、3位は「フォルクスワーゲン」(約73万台)と続く。日本勢は16位に日産(約13万台)、23位にトヨタ(約9万台)、28位にホンダ(約2万台)と低迷している。
ホンダは2040年までに世界での全新車をEVや燃料電池車(FCV)に切り替えると発表しているが、そのためには巨額の開発費が欠かせない。想定を超えるスピードで新興メーカーが攻勢を仕掛ける中、ホンダが単独で上昇できるだけの力を発揮するのは至難の業と見られているのも事実だ。今回の経営統合協議の打ち切りは、ホンダのEV戦略が見直しを迫られることを意味する。
残念なのは、両社のトップから「破談後」にどうするつもりなのか見えないことだ。ブルームバーグは関係者のコメントとして日本は「現時点でのリストラ策では不十分で公表に向けて強化を図る」と報じているが、筆頭株主の仏ルノーや、買収を模索しているとされた台湾・鴻海精密工業との関係をいかにするのか。ホンダは独自路線を貫くのか否かに市場は注目している。もちろん、経営統合協議の打ち切りは現時点で「正式発表」というわけではないが、歴史的な再編が頓挫したのであれば「次の一手」を早急に示すべきだろう。
トヨタには生産性向上で重要な「7つのムダ」がある。必要のない加工や在庫など生産現場における7つの無駄を指し、高い生産性やコスト削減などを徹底している。
あまり一般には知られていないが、事務系職場にも「7つのムダ」がある。決まらない会議や報告のためだけにつくる資料、自分の安心のための根回しなどが列挙されている。トップを走る「世界のトヨタ」の生産方式に通じるものだ。
今回のホンダと日産の破談を見ると、この中の「上司のプライドのムダ」「マンネリのムダ」「ごっこのムダ」をどうしても思い出してしまう。他の生き残り策という代案を示しているのであれば良いかもしれないが、協議開始から破談に至るまでの過程に「今まで大丈夫だったから」というマンネリやプライドは本当になかったのか。「統合ごっこ」になっていなかったのか。両社は真剣に考えるべき点と言えるだろう。
いずれにしても、統合計画の白紙化に伴い日本の自動車業界は混沌とする。激動の世界を見渡せば、「井の中の蛙」に過ぎない存在と気づくまで時間はかからないのではないか。両社の「次の一手」に注目したい。
佐藤健太
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