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フジテレビの株主である米国のダルトン・インベストメンツが、フジテレビの日枝久取締役相談役に辞任を求める書簡を送った。

この会社はアジア投資を中心とする投資会社で、株主であるフジテレビに対して経営陣の改善を求めている。

ダルトン社の創業者は、豊富な投資経験を持つバリュー投資家であり、過去に日本企業への投資を行ってきた。

ダルトン社は日本市場での投資を積極的に進めており、個性的な投資スタイルで成功を収めている。

(要約)

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東京・お台場のフジテレビ本社(写真:共同通信社) 

 

 (黒木 亮:作家) 

 

 中居正広問題に端を発するアナウンサー上納疑惑でフジテレビが窮地に陥っている。そうした中、米国の投資会社、ダルトン・インベストメンツ(Dalton Investments,Inc、以下ダルトン社)が、約37年間にわたってフジを支配する日枝久取締役相談役に辞任要求を突きつけた。 

 

 ダルトン社は、フジ・メディア・ホールディングス宛の2月3日付書簡で、「どうしたら、フジテレビはスポンサー、さらには視聴者の信頼を回復することができるのでしょうか。その答えは明白です。第一に、これが何よりも重要なことですが、日枝久氏がFMH(フジ・メディア・ホールディングス)およびフジテレビの取締役を辞任することです。FMHはプライム市場上場会社であるにもかかわらず、そのガバナンスに根本的な欠陥があることは弊社が以前から主張しています。日枝久氏はFMHおよびフジテレビの取締役会を絶対的に支配しており、影響力を保持しています」と痛烈に指摘した。 

 

 具体的には、日枝氏と彼によって指名された取締役全員の退任、社員OBではない独立社外取締役が取締役会の過半数を構成すること、同社を指名委員会等設置会社に変え、指名委員会、監査委員会、報酬委員会を設置することなどを求めた。 

 

■ ニューヨークの名門校出身者2人が創業 

 

 フジ・メディア・ホールディングス株の7.19%を保有(今年1月後半時点)する大株主のダルトン社とは、いったいどういう会社なのか?  

 

 同社は、日本を含むアジアへの長期投資を中心とする投資会社で、昨年6月末時点の運用資産は43億ドル(約6600億円)。設立は1999年で本拠地はロサンゼルスである。 

 

 同社を興したのは、ジェームズ・ローゼンワルド(James B.Rosenwald 3)とスティーブ・パースキー(Steve Perskey)という2人の米国人で、社名は、2人が知り合ったマンハッタンのアッパーイーストサイドにあるプレップスクール(進学のための中・高校)、ダルトン・スクールにちなんでいる。 

 

 

 ダルトン・スクールは1919年の設立で、卒業生の約35%がハーバード、イェール、プリンストンなどアイビーリーグの大学に進学する名門校だ。2024/25年の授業料は6万4300ドル(約990万円)という高額である。卒業生に、ブリンケン前国務長官、俳優のモンゴメリー・クリフト(アカデミー主演男優賞に3回ノミネート)、ジョン・レノンとオノ・ヨーコの息子のショーン・レノン(ミュージシャン)、世界的美術商ナーマド一族のヘリー・ナーマド(美術商)らがいる。 

 

 母校の名前を自分たちの会社につけているのは、卒業した一橋大学とハーバード大学のスクールカラー、クリムゾン(深紅色)を自社のコーポレートカラーに使っている楽天会長兼社長の三木谷浩史氏を彷彿させる。 

 

■ 村上ファンド的スタイルとは一線を画す 

 

 ダルトン社のCIO(最高投資責任者)を務めるローゼンワルド氏は、名前や家族のインタビューからいってドイツ系ユダヤ人と思われる。ニューヨーク生まれで、現在67歳。ダルトン校を卒業後、難関のヴァッサー大学(ニューヨーク州)に進み、経済学の学士号を得た後、ニューヨーク大学でMBAを修めた。 

 

 スイスのグレース家が経営する国際的投資会社、スターリング・グレース社で投資の腕を磨き、1992年にジョージ・ソロスの資金運用をしていたニコラス・ロディティ氏に出会い、2人で韓国やアジアの保険会社、ロシア、南アフリカなどに投資する複数のファンドを立ち上げた。1999年にダルトン社を設立してからは、主にアジアへの投資を手がけてきた。 

 

 ダルトン社の投資スタイルは、村上ファンドや米国・香港の一部の投資ファンドのように、投資先企業に現金を吐き出させることに一つの重点を置くアクティビスト型とは一線を画している。投資するのは、優れたビジネスを持っているが、本来の価値に対して割安で、経営陣が株式やストックオプションを多く保有し(すなわち経営にコミットし、経営陣と株主の利害が一致している)、賢明な設備投資を行える企業であるとしている。 

 

 なお投資手法は、ロング(買い持ち)が多いが、ショート(カラ売り)も併用し、上に述べた基準に合致する会社はロング、それと逆の会社はショートしている。 

 

 

■ バリュー投資家と債券トレーダーのコンビ 

 

 こうした投資スタイルは、「バリュー投資の父」として知られる投資家で、コロンビア大学やUCLAのビジネススクールで投資を教え、ウォーレン・バフェットが師と呼ぶベンジャミン・グレアム(1894〜1976年)の流れを汲むものだ(バリュー投資はファンダメンタルズ分析にもとづき割安株を探して投資する手法)。 

 

 ローゼンワルド氏の祖父は、グレアム氏の下で銀行と保険会社のアナリストを務め、ニューヨークで日興証券初の外国人社員となって30年間働き、その後大和証券のアメリカ法人でも5年間働いた人物だ。ローゼンワルド氏自身も1972年に14歳で投資を始め、祖父と同じ職場でインターンをして、キリンビールや東京銀行に投資し、利益を上げた。 

 

 またローゼンワルド氏自身、2012年以来、ニューヨーク大学のMBAコースで客員教授として国際バリュー投資を教えている学究肌だ。 

 

 ダルトン社のもう一人の創業者、スティーブ・パースキー氏は、ダルトン校とハーバード大学(東アジア学専攻)で中国語を学び、大学2年のときに台湾で働き、1980年に中国で1年間英語教師をやった。米国に帰国後、シティバンクに入り、アジア企業の米国子会社への融資審査に携わり、5年間勤務。その後、金融工学とトレーディングに強かった米系投資銀行、ソロモン・ブラザーズに移籍し、8カ月後に東京支店に異動。バブル経済真っただ中の東京で債券取引に従事し、1989年にニューヨーク本社に戻ってからは、ハイイールド債の引受けを担当した(ソロモンにも5年間勤務)。 

 

 1990年代は、ロサンゼルスの投資会社ペイデン&ライジェル(Payden & Rygel)でアジアでのハイイールド投資に携わった。カラ売りにも精通しており、不良債権を含むハイイールド投資の抜け目ないプロだ。 

 

 ダルトン社創業後は、1997年からの通貨危機で大量に発生したアジアの不良債権投資で利益を上げ(暴動の最中のインドネシアで携帯電話会社の株を1ドルに対して50セント台で買って、86セントで売ったりした)、2001年の9・11同時多発テロ後に大量発生した米国の不良債権投資でも利益を上げ、2008年のリーマンショック前後のサブプライムローン危機で崩壊した住宅ローン担保証券(RMBS)市場でも、見込みのある案件を拾って利益を上げた。 

 

 

 パースキー氏は、こうした経験を通じて、企業の欠点と改善余地を見抜くのに長けており、そういう意味でローゼンワルド氏と同じバリュー投資家であり、それを日本企業への投資に活用している。 

 

■ 日本というエキゾチック市場でがっつり儲ける 

 

 この2人が結びついたダルトン社は、一言でいうと、アジアのようなエキゾチック市場と宝探し(バリュー投資)が好きなオタク的な投資会社だ。パースキー氏はインタビューで「自分は物語が好きで、岩の下にある宝石を探すことや、珍しい土地に行き、珍しい人びとに会うことが好きだ」と語っている。 

 

 筆者自身も金融マン時代、中東・アフリカで宝探しのような融資案件発掘をやっていたので、欧米のような発達した市場で神経をすり減らして儲けが薄い競争をするより、エキゾチック市場でリスクを取りながらがっつり儲ける面白さはよく分かる。 

 

 ダルトン社が東京に事務所を開設して日本に進出したのは2000年である。当初の戦術は、大量保有報告書を出さなくてもよい5%まで密かに株式を買い集め、5%を超えたところで投資先企業にMBO(経営陣による自社の買収)ないしはMEBO(経営陣と従業員による自社買収)を提案し、高値で売り抜けるというものだった。 

 

 2004年には、製薬会社の帝国臓器製薬の株式5.01%を取得し、MBOを提案した。しかし、経営陣がそれを嫌い、翌年、グレラン製薬と合併し、現在のあすか製薬になった。ダルトン社は株主買取請求権を行使してエグジットしたが、投資収益はほぼゼロだった。 

 

 2006年には、情報通信機材商社、サンテレホンにMBOを提案したが、同社は新株予約権を発行して抵抗しようとした。しかし、株主基準に抵触して東証2部に落ちる可能性があったため、最終的にMBOに踏み切り、その手続きとしてTOB(株式公開買付)を実施した。ダルトン社はTOBに応募してエグジットし、30億円あまりの利益を得た。 

 

 2007年には、エレベーター・エスカレーター製造大手のフジテックと油脂関連製品メーカーの日本精化の株式をそれぞれ15.3%と13.01%取得し、MEBOを提案したが、経営陣や従業員の抵抗に遭い、翌年、提案を取り下げ、保有していた株式の大部分を売却処分した。 

 

 

 
 

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