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フードインフルエンサーの動画投稿をきっかけに、ドバイチョコレートが2025年の新たなスイーツブームとして注目されている。

これはドバイ在住のサラ・ハムーダさんが副業で始めた手作りチョコレート「FIXチョコレート」が、フードインフルエンサーの動画投稿をきっかけに世界的なトレンドとなり、多くの注文を集めている。

日本でもドバイチョコレート風の商品が増えており、他のアジア諸国でも人気を集めている。

成功の背景にはドバイの多国籍な環境や創造性があり、他にも注目されるチョコレートブランド「CO Chocolat」なども登場している。

(要約)

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フードインフルエンサーの動画投稿をきっかけに人気に火がついた(写真提供:ドバイ経済観光庁) 

 

 ティラミス、生キャラメル、タピオカ、マリトッツォ――。これまでたくさんのスイーツが話題となり、新しいブームを生み出してきた。2025年、その本命と目されるのが、「ドバイチョコレート」だ。 

 

 昨年12月くらいから、日本でもドバイチョコレートと銘打たれた商品が登場するようになり、カルディやドラッグストアなどで購入したという人もいるのではないだろうか。サクサクとした食感、濃厚なピスタチオ風味が特徴のドバイチョコレートだが、それらは本場ドバイで売られているドバイチョコレートを模倣して作られたもの――ということはあまり知られていないかもしれない。 

 

■副業で始めた手作りチョコレート 

 

 では、本場のドバイチョコレートとは何か? という話だが、始まりはドバイ在住のイギリス系エジプト人、サラ・ハムーダさんが副業として始めた「FIXチョコレート」を祖とする。 

 

 今回、ドバイ経済観光庁を通してサラさんに取材を申し込むと、「自宅での小規模な作業から始まったことが、これほどまでに大きな話題になるとは夢にも思わなかった」という回答が返ってきた。当の本人も、ここまで世界的なトレンドになるとは想定外だったというのである。 

 

 FIXチョコレートは、カリッとしたクナーフェ(小麦粉から作られた細麺状の生地)にピスタチオとタヒニ(生の白ゴマをすり潰し練ったもの)ペーストを組み合わせた「Can't Get Knafeh of It」など、いくつかのラインナップからなるチョコレートブランドだ。 

 

 食用ペイントによって彩られたデザインに象徴されるように、すべてが手作業で作られるため大量生産はできず、当初はオンラインショップのみで買うことができるチョコレートだった。 

 

 だが、「1週間に1本ほどしか売れないときもあった」とサラさんが振り返るように、スタートダッシュに成功したわけではない。 

 

 きっかけは、2023年12月にフードインフルエンサーのマリア・ヴェヘラさんが投稿したTikTokの動画だ。FIXチョコレートをザクザクと食べるASMR(聴覚や視覚への刺激によって感じる、心地よいとされる脳の感覚)動画を投稿したところ3万件近い注文が殺到。たちまち世界的な注目を集めるようになった。 

 

 

■実際に食べてみた感想は?  

 

 実は筆者も、FIXチョコレートを食べる機会があったのだが、ガリッザクッとした食感に驚いた。ペーストも粗く設計されているため、なめらかだけどジャリっとした独特の食べ応えがあり、たしかにASMRとの相性が良いと感じた。世界的にブレイクするとあって味も美味しい。 

 

 ただ、中東菓子は基本的に甘く、このFIXチョコレートも例に漏れずかなりの糖度を誇る。一回で食べ切るのは、よほどの甘党でない限り厳しいとも付言しておく。 

 

 マリアさんの投稿を機に、似たような動画を投稿する人が世界各地で続出したのは想像に難しくないだろう。例えば、食事系動画「モッパン」が人気の韓国では、FIXチョコレートの咀嚼動画がひんぱんに投稿されるや、爆発的な人気を獲得。地元の菓子店やコンビニでも、このトレンドを取り入れる動きが見られ、類似商品が多数存在するようになる。 

 

 その後、日本を含む他のアジア諸国にも流行が広がっていくことになるのだが、いち早く、日本に構える韓国風カフェでドバイチョコが展開されたのは、こうした背景を汲むからだ。 

 

 実際、ドバイチョコレートの世界的な人気は目を見張るものがある。2024年11月14日付のイギリスの新聞「The Independent」内では、「The viral Dubai chocolate craze has reached Europe – what makes the bar so special?」(話題となったドバイ発のチョコレートブームがヨーロッパに到来—そのチョコレートが特別な理由とは? )と題され、「ドイツ西部のアーヘンで、雨の木曜日に何百人もの人々がこのチョコレートを入手するために、数時間並んだ」といった記述があるほど。 

 

 また、2024年6月18日のCNNの記事「Meet the woman behind Dubai’s viral super-chunky chocolate bar」(ドバイで話題の超クランキーなチョコレートバーを作った女性)という記事の中では、「南アフリカではチョコレートの闇市で高額で売られている」というギョッとするような情報まで紹介されている。 

 

■販売サイトにアクセスが殺到 

 

 こうした“FIXチョコレート狂騒曲”とも言える熱気は、ドバイ本土にも連鎖し、定価68.25ディルハム(約2700円)でオンラインサイト「Deliveroo」のみで売られていた同商品は、1万円を超える高値で転売されるケースにまで発展。 

 

 

 FIXチョコレートは、ドバイのショッピングモールで売られたり、国際交流の一環で国外のイベントで販売されたりすることもあるが、基本的にはオンラインサイトでしか販売していない。「その味を一度食べてみたい」「高値で国内外に転売したい」といった動機を持つ人々が、発売と同時にアクセスするという社会現象になっているという。 

 

 冒頭で触れたように、日本でもFIXチョコレート風ドバイチョコレートが多数登場するようになってきた。高級トルコスイーツブランド「divan(ディヴァン)」も、2025年1月から「ドバイチョコレート」の発売を開始。銀座松屋などで購入できるように、ここ日本でも着実にドバイチョコレートのトレンドの波が押し寄せ始めている。だが、元祖であるFIXチョコレートが海を渡る機会は、まだ先になりそうだ。 

 

 世界的トレンドになったとはいえ、もともとは自宅の作業から始まった副業的プロジェクトだ。現在、スタッフの数は50人まで増えたが、世界的な進出に対しては慎重。類似商品が登場することについても、「似たような商品が登場しているのを見ることもありますが、それは私たちが前進し続けるべきだという良い刺激になっています」とサラさんは余裕をもって答える。 

 

 「地元のお客様だけでなく、国際的なお客様にも私たちのバーを届ける機会を得られたことは、信じられないほど素晴らしいことです。日本の皆さんにもFIXが生まれた地・ドバイを訪れて、現地でオリジナルの味ーー製造から3日以内のフレッシュな状態を楽しんでほしいです」(サラさん) 

 

■ドバイという土地柄が生んだ創造性 

 

 また、この成功の背景には「ドバイという野心と創造性を育む特別な街であることも大きい」とサラさんは続ける。 

 

 ドバイは多国籍の人々が暮らし、交流する街だからこそ、いろいろなものを受け入れる度量がある。アイデアを尊重し、自由にやることを推奨する風土がある。革新性があったからこそ、FIXチョコレートはASMRから人気に火が付くという、新しい潮流を生み出したとも言える。 

 

 また、街の大きさがコンパクトゆえ、住民たちの間で話題が広がりやすい。面白いものが生まれれば驚き、経済的にも余裕がある人が多いため購入することをためらわない。 

 

 

 こうした気質は行政にも通じるところがあり、ドバイのハムダン皇太子専用のFIXチョコレート(「FIX x Fazza」というブランド)まで作ってしまったというのだから驚きだ。 

 

 面白がる気質があるこそ商品が話題になりやすい。そして、世界中からたくさんの旅行者が訪れることで、FIXチョコレートのような話題の商品が世界へ広がっていく。 

 

■新たに注目のチョコレートブランドも 

 

 実は、現在ドバイではもう一つ話題になっているチョコレートブランドがある。 

 

 フィリピンにルーツを持つ2人の姉妹が共同経営する「CO Chocolat(コ・ショコラ)」は、 上質なカカオとココナッツシュガーやデーツシュガー、サトウキビといった天然甘味料によって、チョコレートを製造。高血圧の人や糖尿病を患う人も安心して食べることができると評判を呼んでいる。 

 

 「CO Chocolat」には、現在までUAE、フィリピン、シンガポール、カタール、クウェート、イギリス、アメリカなど40人を超える投資家が集まり、彼女たちの取り組みを支援しているそうだ。自国民でなくても、可能性を感じたらサポートする。これもまた、ドバイという場所ならではの野心と創造性と言えるだろう。 

 

 FIXチョコレートが世界的トレンドになったように、今後は“ドバイ発”の冠が付くスイーツが増えるかもしれない。ドバイチョコレートは、その嚆矢となりそうだ。 

 

我妻 弘崇 :フリーライター 

 

 

 
 

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