( 264264 )  2025/02/12 16:59:31  
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地方のローカル線が存続の危機に直面しており、利用者数の減少や経営難が挙げられる。

一部の住民は普段利用しないにも関わらず、鉄道の存続を求めることに疑問を呈する意見もあるが、鉄道は移動手段だけでなく地域社会や経済にも重要な役割を果たしている。

鉄道の存続は高齢者や学生などの移動手段を確保するだけでなく、地域の不動産価値や経済、観光にも影響する。

ただし、自由な選択権と地域社会への責任感のジレンマがあり、単なる市場原理だけで鉄道の存続を決めるべきではない。

鉄道は社会的価値を持ち、地域の未来を見据えた戦略的な考え方が求められる。

(要約)

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ローカル線(画像:写真AC) 

 

 地方の鉄道路線が存続の危機に直面している。利用者数の減少、経営難、そして自治体の財政負担などが重なり合い、廃線の議論が持ち上がる度に沿線住民からは「なくなっては困る」といった声が上がる。 

 

 しかし、そうした住民の多くは普段の移動手段として自家用車を利用しており、鉄道の利用頻度は低いと思われる。この現象を捉えて 

 

「普段使っていないのに存続を求めるのはおかしい」 

 

と批判する意見もある。果たして、この批判は正当なのだろうか。本稿では、地方鉄道に関するこの複雑な問題を多角的に考察し、単なる「矛盾」として片付けられない側面に光を当てる。 

 

ローカル線(画像:写真AC) 

 

 鉄道の存続を望みながらも、実際には日常的に利用しない――この状況は単なる利己的な行動に過ぎないわけではない。鉄道は「移動手段」としての機能を超えて、地域社会や経済の基盤としても重要な役割を果たしているからだ。 

 

 例えば、沿線に住む高齢者や学生にとって、鉄道は重要な移動手段であり、自家用車を運転できない人々にとっては、鉄道の廃止が通学や通院の困難を招く恐れがある。たとえ自分が車を利用していても、家族や地域住民の生活を支えるインフラとして鉄道の存続を望むことは、不合理な考え方ではない。 

 

 さらに、鉄道は地域の 

 

・不動産価値 

・企業誘致 

・観光振興 

 

にも大きな影響を与える。鉄道が存在することで地域の利便性が保たれ、企業や投資家の関心を引き続き引き寄せることができる。このような地域の発展を支える鉄道の存在は、日常的に利用しない人々にとっても間接的に利益をもたらす。 

 

「普段使っていないのに存続を求めるのはおかしい」 

 

という主張は、鉄道の価値を「利用頻度」という狭い視点で評価している。しかし、鉄道は単なる移動手段ではなく、地域の持続可能な発展に寄与する重要なインフラであり、これを踏まえると、存続を求める声が非合理的だとはいえない。 

 

ローカル線(画像:写真AC) 

 

 一方で、「鉄道を使わない自由」も重要な要素だ。地方では鉄道の利便性が低いため、自家用車というより快適で柔軟な移動手段を選ぶのは合理的な判断である。鉄道のダイヤが少なく、運賃が高く、駅までのアクセスが不便であれば、車を選ぶのは自然な流れだろう。 

 

 しかし、個々の選択が積み重なった結果、鉄道の利用者が減少し、経営が成り立たなくなる。これにより廃線の危機が生じ、「地域に鉄道がなくなるのは困る」との声が上がる。この時、個人の「選択の自由」と地域の「社会的責任」の間にジレンマが生じる。 

 

 公共交通は、個々の経済合理性だけで成り立つものではない。一定の公的支援が必要なインフラであり、利用者が減ったからといって即座に廃止するのは、社会全体の視点から見て適切とは限らない。 

 

 また、過去に鉄道が地域の発展に寄与してきた歴史も考慮すべきだ。鉄道が存在することで沿線のまちづくりが進み、地域に住む人々の生活基盤が形成されてきた。鉄道がなくなれば、その基盤そのものが揺らぎ、地域の衰退が加速する可能性もある。 

 

 

ローカル線(画像:写真AC) 

 

「鉄道が不要なら廃止すべき」という論理は、市場原理に基づくものだ。需要がないなら供給をやめるべきだという考え方だ。しかし、鉄道は単なる市場経済の原理だけで評価できるものではない。 

 

 自動車を基盤とする社会は、効率的に見えるが、その裏には多くの課題が存在する。公共交通の衰退は、高齢者や障がい者の移動困難を引き起こし、環境負荷の増大を招き、地域の分断を助長することになる。 

 

 さらに、鉄道は災害時に代替輸送手段としての重要な役割も果たすことがある。大規模な自然災害の際、道路が寸断される中で鉄道が復旧のカギとなることがある。リスク管理の観点からも、鉄道の存続には一定の価値がある。 

 

 では、こうしたジレンマにどのように対処すべきか。ひとつの解決策として、鉄道を単なる移動手段としてではなく、地域の「総合インフラ」として活用する方法がある。例えば、沿線の公共施設や商業施設と連携し、鉄道を利用することで得られるメリットを創出することだ。また、デジタル技術を活用し、オンデマンド型の鉄道運行を導入することで、より柔軟な運行体系を構築できる可能性もある。 

 

 さらに、自治体や企業は積極的に鉄道の価値を再評価し、財政的支援や運行形態の見直しを行う必要がある。住民も、鉄道の存続を望むのであれば、定期的に利用する意識を持つことが求められる。 

 

 鉄道は単なる移動手段ではなく、地域の文化や歴史、経済活動と密接に結びついた重要な存在だ。「使わないなら不要」という単純な二元論で片付けるのではなく、鉄道の役割をより広い視野で捉え直すことが、持続可能な地域社会の構築に繋がるだろう。 

 

ローカル線(画像:写真AC) 

 

 鉄道の存続を願う人々が普段は車を利用していることを「矛盾」と捉えるのは、あまりにも単純すぎる。鉄道には利用者数だけでは測れない社会的価値があり、その存続は地域全体の持続可能性に直結する問題である。 

 

 単なる市場原理に基づく議論ではなく、地域の未来を見据えた戦略的な視点が求められる現状において、「使うか、使わないか」だけでなく、「どう活かすか」を深く掘り下げることが、鉄道と地域の未来を切り拓くための重要なカギとなる。 

 

 最後に、SNSとテクノロジーを駆使して社会課題の発見と解決を支援するソーシャルスタートアップ・Polimill(東京都港区)が2024年4月に実施した「赤字の地域鉄道を公費で維持するべきか?」というアンケート調査の結果を紹介する。この調査は、社会デザインプラットフォームSurfvote(ウェブサービス)を通じて実施され、調査対象はSurfvoteのアカウントを持つユーザーで、最終的な有効票数は54票だった。以下に投票結果と一部コメントを紹介し、前回同様、本稿を締めくくる。 

 

●公費を投入して維持していくべきである(42.6%) 

「赤字であろうが、その路線を利用しないと困る人もいる。他に交通手段があればいいが、他の路線もバスも自転車や車がない人もいる。公費を投入して維持していくべきであると思います」 

 

●公費は投入するべきではなく、採算が取れない路線は廃線もやむを得ない(35.2%) 

「採算が取れないならば路線を維持するコストがもったいないです。その周辺に住む方々の多数同意が取れるのであれば廃線するべきだと思う。国は財政難なので削れるところから削るべき」 

 

●その他(14.8%) 

「ケースバイケースだと思います。過疎化がかなり進み再興する気配が全くない地域で赤字のまま走らせてもコストがかさむだけになってしまうと思います。ただ町おこしなど副産物的に再興できる要素があればコストをかける価値があるときもあると思います」 

 

●わからない(7.4%) 

「そこに住んでいる住民、特に自家用車のない高齢者などのことを思うと公費を投入して維持するべきだと思う一方、赤字にしかならない電車を走り続けられるほど日本の経済に余裕はないとも思う。なのでどちらにも賛成ができなかったので、その地域ごとに慎重に検討するしかないと思う」 

 

出島造(フリーライター) 

 

 

 
 

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