( 264659 )  2025/02/13 14:59:49  
00

山梨県富士河口湖町には、コンビニの屋根越しに富士山を撮影できる人気の写真スポットがある。

しかし、過度な観光地化により、観光客が道路にはみ出して写真を撮ったり、横断歩道のないところを横断したりするなどの問題が起こった。

これを受けて、町は2024年に巨大な黒い幕を設置して撮影ができないようにしたが、幕は穴が開けられたり破られたりするなどトラブルが相次いだ。

町は現在も幕再設置に慎重な姿勢を示しており、代わりに柵を設置し、マナーを守るよう呼びかけている。

観光客と地元住民の共存を考え、ツーリストシップや観光学の専門家は観光客のマナー維持について議論を進める必要性を指摘している。

(要約)

( 264661 )  2025/02/13 14:59:49  
00

屋根越しに富士山を撮影できると訪日観光客に人気のコンビニで記念写真を撮る人=2024年12月、山梨県富士河口湖町(画像の一部にモザイクをかけています) 

 

幕が設置される前の山梨県河口湖町の富士山撮影スポットで、車道を横断する観光客=2024年4月、山梨県富士河口湖町 

 

山梨県富士河口湖町の富士山撮影スポットに設置された黒い幕=2024年5月、山梨県富士河口湖町 

 

富士山を撮影できる写真スポットに設置された幕に開けられた直径約1センチの穴=2024年7月、山梨県富士河口湖町 

 

富士山を撮影できる写真スポットで張り替えられた茶色い幕=2024年7月、山梨県富士河口湖町 

 

幕が撤去されたコンビニ周辺=2024年8月、山梨県富士河口湖町 

 

山梨県富士河口湖町の富士山を撮影できる写真スポットで、観光客の利用を促すため緑と白に塗り替えられた横断歩道=2024年12月 

 

山梨県富士河口湖町の富士山撮影スポットで、写真を撮る外国人観光客ら=2024年12月、山梨県富士河口湖町 

 

訪日外国人客らで混雑する江ノ島電鉄「鎌倉高校前駅」近くの踏切=2023年7月、神奈川県鎌倉市 

 

記念撮影する訪日観光客ら=2024年11月、山梨県富士河口湖町 

 

 富士山を間近に望む山梨県富士河口湖町に、「コンビニの上に乗っているような富士山を撮影できる」と外国人旅行客の間で人気の写真スポットがある。青と白の店の看板と、屋根越しに見える美しい山肌がマッチした美景を求めて訪れる人は絶えない。 

 

 だが、過熱した観光地化は地元に深刻な悩みをもたらした。道路にはみ出して撮影したり、横断歩道がないところで車道を横切ったり、さらには私有地へのゴミのポイ捨てや無断駐車―。業を煮やした富士河口湖町は2024年、コンビニと反対側の道路沿いに巨大な黒い幕を設置し、物理的に撮影できないようにした。 

 

 幕は約3カ月後に外され、トラブルはいったん落ち着いたが、「警備員がいない時間は無法地帯だ」と明かす住民も。再びマナー違反の横行が懸念されている。(共同通信=高野陽子) 

 ▽「撮りたい」「撮らせない」のいたちごっこ 

 

 撮影スポットは、富士急行の河口湖駅から徒歩3分ほどにあるローソン河口湖駅前店の周辺。富士河口湖町によると、2022年からSNSの投稿が外国人の間で話題になり、人気に火が付いた。 

 

 町は2023年、道路標示や多言語の注意看板を置き、警備員を配置したが、2024年に入ると外国人観光客を中心に撮影者が急増した。それに伴い迷惑行為も増え、周辺住民からは「対策を取ってほしい」との要望が町に届くようになった。 

 

 対応を迫られた富士河口湖町は2024年5月、強硬手段に出る。コンビニと反対側の道路沿いに約20メートルにわたり出現したのは、高さ約2・5メートルの巨大な黒い幕と、支えとなる柱だった。 

 

 渡辺英之町長によると、目的は観光客と車の事故を防ぎ、住民の平穏な生活を守るため。町長は「必要な措置だ」と理解を求めた。 

 

 だが撮影者側の熱意は簡単には衰えず、その後、幕は穴が開けられたり破られたりする被害に何度も遭った。誰かが撮影のために指で押し広げたとみられる。そのため設置から約2カ月後、幕はより丈夫な素材で茶色のものに張り替えられた。 

 

 そして8月半ば、台風7号の接近に伴い幕は取り外された。 

 

 町は幕を再び設置するかどうかについて「様子を見ながら判断する」としている。そんな中、秋ごろから車道を行き来する人が再び見られるようになった。しかし、町は幕の再設置には踏み切っていない。代わりに柵を2024年10月に増設し、12月にも新たな柵を完成させた。さらに、危険な車道往来を減らして横断歩道の利用を促そうと、塗装を緑と白に変えて目立つようにした。 

 

 

 ▽「無法地帯」嘆く住民も 

 

 2024年12月25日、コンビニ周辺には、外国人旅行者が絶え間なく訪れ、雪化粧姿の富士山をスマートフォンで撮影していた。駐車場も県外ナンバーのレンタカーで常に満車状態だった。多くの観光客が緑と白に塗り替えられた横断歩道を利用していたが、車道を渡る人の姿も一部見られた。 

 

 アメリカから旅行中のジョアン・ウェインガートさん(73)と夫のローランド・フィリップスさん(65)は、台湾出身の友人から教えてもらったといい「幼い頃から富士山を写真や絵はがきで見ていたので、とてもうれしい」と笑顔。黒い幕が張られていたことは知っていたといい、その上で「町が観光客を歓迎し、富士山の美しさを共有するよう後押しすることが重要だ」との考えを話した。 

 

 近隣住民の中には、幕の設置について「生活を守るためには有効な対策だった」と評価する声が上がる。別の住民は現状を「警備員がいない時間は無法地帯だ」と嘆き、「観光客による車道横断でいつ事故が起きてもおかしくない状態。住民の安全を確保できる追加対策がなければ、再設置のための協議が必要と考える」と話す。 

 

 ▽オーバーツーリズム、京都や鎌倉では 

 

 旅行者の増加で住民に悪影響が出るオーバーツーリズムは、これまでも有名観光地でたびたび起きている。 

 

 世界文化遺産の寺社が集まる古都・京都では、2013年の東南アジアからの旅行者に対するビザ発給緩和や格安航空会社(LCC)の就航で外国人観光客が急増した。対策に力を入れる京都市は、海外からの旅行者が日本を訪れる前に、海外の旅行会社を通じて観光マナーを周知したり、ユーチューブやグーグルで「京都」を検索するなど関心があるとみられる利用者向けに広告を出したりしている。市内では、ポスターやデジタルサイネージでも「舞妓を無断撮影しない」「路上喫煙をしない」といったマナーを案内しており、担当者は「粘り強く続けていく」と話した。 

 

 神奈川県鎌倉市では、人気バスケットボール漫画「スラムダンク」のアニメ版に登場した江ノ島電鉄の踏切周辺に観光客が殺到し、トラブルが増えた。その状況は山梨県富士河口湖町と似ており、鎌倉市によると車道にはみ出ての撮影やゴミのポイ捨て、私有地への無断侵入が相次いだ。2018年ごろから住民の苦情が出るようになり、2022年12月に同作品の映画が公開されると旅行者が爆発的に伸びた。 

 

 

 地元では2023年から24年にかけて、誘導員を配置したり、ピクトグラムとともに日本語、英語、中国語、韓国語で注意事項を記した看板を置いたりした。鎌倉市観光協会のHPでも多言語パンフレットを掲載して注意喚起をする。その結果、マナー違反は減り、観光客も歩道から撮影するようになったという。 

 ▽観光客と観光地、両立のために 

 

 各地でオーバーツーリズム対策に取り組む「一般社団法人ツーリストシップ」の田中千恵子代表理事は、観光客と地域住民の暮らしを両立させるため「マナーを守れない旅行者が増えるようなら罰金を含めた条例制定も考えるべきだ」と話す。 

 

 田中さんが強調するのは「観光客だけが楽しければいいとの発想では、観光地が持ちこたえられない」ということだ。高い満足度を維持し、持続可能な観光を実現するためには「住民の暮らしを想像し、路上では静かにするなど振るまい方の議論につなげる必要がある」と話した。 

 長崎大の深見聡准教授(観光学)は、山梨県富士河口湖町が幕を設置したことについて「町は地元住民の意思を尊重するべきで、それに基づいた判断だった。やむを得ない」と評価する。ただ同時に、設置の根拠がはっきりしなかったとも指摘し、今後も対応基準があいまいなままなら旅行客にとっては現地訪問を諦める理由にならないとして「中長期的に見ると効果的な対策にはならないだろう」と指摘した。 

 

 富士河口湖町によると、最近では観光客は撮影の順番を守り、ごみのポイ捨ても減少、全体的にはマナー違反は改善しているとみている。渡辺町長は「よほどひどくならなければ、現状で楽しんでほしい」と当面、幕を再設置しない考えだ。 

 

 

 
 

IMAGE