( 265154 )  2025/02/14 14:59:57  
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日本では、コメの価格が高騰しており、これに関連して農水省に対する批判が殺到している。

コメの価格上昇の原因は複数あり、豊作だったはずのコメが不足している状況が生じている。

農水省は適切な対応をしているのか疑問視されており、コメ農家の収入や消費者の“貧困化”も背景にあると指摘されている。

農水省の対応が不十分であるとの指摘もあり、コメの生産量増加や適正な価格設定に向けた対策が求められている。

(要約)

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“豊作”だったはずが 

 

《コメ不足、価格高騰の原因は農水省》、《農水省に国民殺される》──。目下、農林水産省に対する怒りの声がXに殺到している。2月14日、政府が放出する備蓄米に関して数量などの入札概要が公表される予定だ。現在、東京都心ではコメ5キロの小売価格が4000円から5000円台と異常な高値にある。この価格がどこまで下がるのか、はたまた全く下がらないのか、大きな注目が集まっている。 

 

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 どれほど急激にコメの価格が上がったのか、改めて振り返ってみよう。総務省の「小売物価統計調査」によると、2023年には東京23区内でコシヒカリ5キロが平均2300円台で販売されていた。 

 

 2024年に入っても4月は2384円だったが、7月に入ると2600円台を突破。そこから急激に上昇する。農水省は「新米が出回れば価格は落ち着く」と楽観的な見通しを繰り返したが、11月には3985円、12月には4018円に達した。国民から悲鳴が上がるのは当然かもしれない。 

 

 農水省は備蓄米の放出を決め、「コメの価格を大幅に下げてほしい」という国民の切実な要望に応えているかのような姿勢を見せている。だが価格が実際に下がるのか、下がるとしてもどの程度なのかは未知数との指摘も多い。担当記者が言う。 

 

「あくまでも農水省の見解ですが、昨年のコメは豊作だったことになっています。しかもコメの価格は高騰が続いているため、本来であれば順調に集荷され、新米が小売店に届けられるはずでした。ところが現実はあべこべで、年末の集荷量は前年を21万トン下回り、しかもその行方を農水省は把握できませんでした。これが“消えたコメ”問題と呼ばれ、備蓄米の放出と密接な関係があるのです」 

 

 農水省はコメが豊作だったと発表したが、関係者の間には不作説も根強い。同じように江藤拓・農林水産大臣の現状認識を疑問視する声も少なくない。 

 

 江藤農水相はコメが高騰している理由として「米は充分に供給されているのに、市場に出てこないのであれば、どこかにスタックしていると考えざるを得ない」と、卸業者や集荷業者がコメをため込んでいることを示唆した。だが本当に「スタックしている」のか、確たる証拠は存在しない。事実かどうかは断言できない状況なのだ。とはいえ──。 

 

「備蓄米が放出されるのは、『高値で売り抜けようと考えていた集荷業者や卸が貯めこんでいたコメを吐き出させるため』です。決して『コメの小売価格を2300円台に戻す』ためではありません。限定的な放出でもコメは流通すると農水省が判断すれば、消費者が納得できる価格帯までは下がらない可能性もあります。江藤農水相は2月12日の会見で『流通を円滑化するために備蓄米の放出を行う』と断言。価格については『市場で価格が決まるべきものです』と、農水省は責任を取らない姿勢を明確にしました。備蓄米の放出に大きな期待を寄せていると、思わぬ肩すかしを食らうかもしれません」(同・記者) 

 

 

 多くの専門家が「コメの高騰が明らかになった昨夏に備蓄米の放出を決めていれば、今ほど価格は高騰しなかった」と口を揃える。静観を決め込んだ農水省に問題があったことは言うまでもないが、コメの高騰に国民が悲鳴を上げている背景には、他にも「日本人が貧しくなった」という要因もあるという。 

 

 甲信地方でコメを生産する農家は「急激な高騰で消費者の立場からすると高く感じるかもしれませんが、コメ農家としては30年前の価格に戻っただけ。これまでが安すぎたのです」と言う。 

 

「昔から米価は玄米60キロ(1俵)を基準にしていて、1993年に冷夏で“平成の米騒動”が起きた時は2万3607円まで高騰しました。それまで政府は食糧管理法で主食であるコメの安定需給を図ってきましたが、平成の米騒動を契機に95年に食糧法(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律)に改め、コメの需給を市場原理に任せるようになりました」 

 

 以来30年間、米価は下降傾向にあり、コロナ禍の2021年には玄米60キロが1万2804円にまで下がった。 

 

「それと同時に生産性の向上を目指す農地の大規模集約化が進められ、耕地面積が小さい農家はコメ作りを辞めていきました。その間、米価は下がり続けたので、農地を集約した大規模農家ですらコメで稼ぐことが難しくなり、中山間地域には休耕田が増え……。米価は昨年の夏前から急に上がり始め、12月には玄米60キロが2万3715円まで上昇しました。現在の価格は消費者にとっては高い額かもしれませんが、コメ農家からすれば30年前の水準に戻っただけという認識です。それが高いと感じるのは、この30年間で日本人の“貧困化”が進んでしまったという側面も無視できないと思います」(同・農家) 

 

 先の「小売物価統計調査」を見てみよう。90年代の価格で資料として残されているのは「複数原料米(ブレンド米)」の5キロ。調べてみると、確かにコメ農家の男性が指摘した通り、1989年から1991年までは5キロ4900円台で販売されていたことが分かる。今の感覚ではかなり高額な金額だ。 

 

「『平成の米騒動』は1993年の梅雨が長期化し、夏になると日照不足と長雨の悪影響でコメの収穫が不安視されたのが端緒でした。当時、コメの需要は1000万トンでしたが、収穫されたのは783万トン。23万トンの備蓄米を放出しても“焼け石に水”でした。小売物価統計調査を見ると、翌年の94年は5キロの複数原料米が6161円と文字通りの高騰を示したのです」(前出の記者) 

 

 だが幸か不幸か、平成の米騒動が終息に向かうと豊作が続く。コメの緊急輸入も価格を押し下げ、1997年に複数原料米は5キロ4489円となり、1983年の価格まで後退した。 

 

 米価が下がれば、当然ながら農家の生活は苦しくなる。97年11月、米どころ東北地方のブロック紙・河北新報は「コメ価格続落 ああ無情/実るほど頭抱える…生産者 採算割れも心配/流通業者 値引き競争激化」との記事を掲載した。 

 

 記事によると、97年10月に行われた自主流通米の入札でササニシキやひとめぼれなど東北のコメは60キロ1万6000円から1万7000円。数年前は2万円台が当たり前だったといい、40代のコメ農家は「毎年50万円ずつ粗収入が減っている。1万5000円がギリギリの採算ラインで、これ以下になると農業を辞めるしかない」と深刻な状況を訴えた。 

 

 

 ところが、さらにコメの価格は下がり続ける。2000年代にデフレ経済が日本を襲ったことが原因だ。2002年に5キロの複数原料米は2000円台となり、06年には1996円と遂に2000円を割った。 

 

 日本食糧新聞は2002年9月「米穀流通特集:コメ需給、価格底ばい続く・消費は年々大幅減」との記事を掲載。とうとう02年度産のコメは8月に行われた自主流通米の第1回入札会で60キロ1万5964円となり、河北新報の取材に応じたコメ農家が危惧していた「1万5000円の採算ライン」すれすれの価格となった。 

 

 コメの価格も下落を続けたが、日本人の“稼ぐ額”も同じように下落した。先に「1989年から1991年まで5キロの複数原料米は4900円台だった」ことを触れたが、この頃の平均給与は463万6000円から465万3000円の間だった。 

 

 ところがデフレ経済が進行すると、平均給与も右肩下がりとなった。2014年には419万2000円となり、90年代と比較すると40万円近い収入が失われたことになる。 

 

「さらに近年は実質賃金の下落が深刻化しています。2022年度以降は消費者物価の上昇が賃金の上昇を上回る状況が続いているほか、労働者全体に占めるパートタイマーの割合が増加したことで実質賃金の下落を招きました。また22年からは円安基調となり、物価が軒並み上昇。もともと年金や健康保険といった社会保障費の負担に世帯が厳しさを感じていたところ、食料品の値上げが襲いかかったというわけです」(同・記者) 

 

 輸入が大半を占める小麦粉がウクライナ戦争の影響で急騰したのは仕方ないだろう。しかし自給率の高いコメの価格に、国民が安定を求めるのは無理のない話だ。 

 

 多くの専門家が「実質的に継続している減反を廃止し、コメの生産量を増やし、余剰分は輸出。また農家が生活できるよう収入の補填を行うべき」と口を揃えているにもかかわらず、農水省の反応は鈍いと言わざるを得ない。日本人の貧困化が進んでいることに対する政府の対応も同じだろう。 

 

 関連記事【スーパーのコメが「5キロで5000円」の異常事態に…「新米が出回ればコメ問題は解決」と繰り返してきた「農水省」に批判殺到】では、コメ価格の高騰を食い止められなかった農水省の問題点について詳報している。 

 

註:図表1-8-2 平均給与(実質)の推移(1年を通じて勤務した給与所得者) 

 

デイリー新潮編集部 

 

新潮社 

 

 

 
 

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