( 265224 )  2025/02/14 16:18:12  
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元安芸高田市長である石丸伸二氏が設立した「地域政党」再生の道について、様々な批判がなされている。

その中で、他の地域政党や国政政党の地方支部も同様に、「政策がない」という指摘がされており、再生の道だけが酷評されるわけではないことが示されている。

また、石丸氏自身に対する公選法違反の疑惑や今後の影響に関する憶測なども報道されているが、現時点では法的に「再生の道」の活動を阻害する要因は限定的であるとされている。

最終的に、「再生の道」や石丸氏の取り組みが成功するかどうかは今後の展開次第であり、地方政治の課題を考える上でも注目されるとしている。

(要約)

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記者会見する石丸伸二・前広島県安芸高田市長(写真:共同通信社) 

 

■ 激しい毀誉褒貶と文春砲 

 

 日本政治、「再生の道」は可能か。 

 

 石丸伸二前安芸高田市長が今年の東京都議会議員選挙に向けて立ち上げた「地域政党」「再生の道」。石丸氏ともども激しい毀誉褒貶に晒されている。 

 

 批判者曰く、「政策がない」「寄合所帯で、都議選後のビジョンがみえない」「やりたいことがわからない」。さらにこのような特徴をもつ集団を「政党と呼べるのか」という批判もなされている。 

 

 そこになんと「文春砲」が2週にわたって直撃した。 

 

 眼下の「再生の道」の現状をどのように捉えるべきだろうか。 

 

 筆者の初見の分析については、すでに本欄で記したとおりである。 

 

 ◎石丸伸二氏「再生の道」設立会見を識者が分析、選挙の常識にとらわれない「転職・就職活動」スタイルは功を奏すか?  【西田亮介の週刊時評】| JBpress (ジェイビープレス)  

 

 本稿では、主にその後の展開と、週刊誌報道を受けて予想される事態について検討してみたい。なお「再生の道」の仕組みに関する基本認識は拙稿から現時点では大きく変化していない。 

 

 ただし、原稿を書いてから、筆者と石丸氏の関係に変化が生じた。幻冬舎の箕輪厚介さんのお声がけで3月末までに共著を刊行することになったのである。これまではリハック等での共演が関係の中心だったが、利益関係が生じることになったので、改めて明示しておきたい。 

 

 他方で、筆者は石丸氏のブレーンでもないし、再生の道にも、その構想にも関係していない。この間、幾度かどのように構想したのか尋ねる機会を得たが、基本的に独力とのことだ。 

 

■ 現時点でも10倍近いセレクションに 

 

 「再生の道」はどうか。ちょうど冒頭に週刊誌報道を浴びた2度目の記者会見の直後、収録で同席した。そのときには、エントリー者は490人を超え、500人が射程に入ったと言及していた。490人という数字が報道されているようで、2月16日(日)が締め切りというから、今週末までにどこまで伸びるかが試されている。 

 

 ただ、現時点でも単純計算で10倍近いセレクションを実施できることになる。ひとまず、大きな足がかりと言えるのではないか。 

 

 過去にも維新や、最近では都民ファーストの政治塾があったが、政治の文脈における過去の実績や注目度がかなり異なっている。それだけに、しっかり選抜した候補者を揃えられるというだけでも、「2025年6月の都議選に向けて候補者を擁立する」という目標を「達成」したことになる。過去を振り返ってみても、それほど簡単なことではない。 

 

 ユニークな取り組みとして、新たに「面接官」制を取り入れるという。被選挙権を有さない16歳から24歳までの若者に仕事として面接に同席させるという(ただし、審査それ自体は石丸氏が行い、「面接官」は審査を行わない)。 

 

 有識者を公募の非公開で選抜に当てるということは、政党の公募などでも行われたことがあるようだが、「若者」の活用は前代未聞ではないか。応募があるのか、面接にどのような影響を与えるのか気になるところである。 

 

 以下において、本稿では根強く、また代表的な批判である「政策がない」に焦点を当ててみたい。 

 

 

■ 実は既存の地方政党も「政策がない」 

 

 「政策がない」という批判を行っている者は、「再生の道」が当初から掲げてきた「地域政党として、広く国民の政治参加を促すとともに、自治体の自主性・自立性を高め、地域の活性化を進める」という「Purpose目的」を想起すべきだ。 

 

 定性的で、物足りないという意見や気分は理解できる。 

 

 だが、「地域政党」として相対的に比較してみるとどうだろうか。 

 

 先行する地域政党の都民ファーストと減税日本の綱領に目を向けてみよう。 

 

 都民ファースト「綱領」 

(略) 

今こそ「東京大改革」の旗を私たちは掲げる。 

「東京大改革」とは、首都東京を、将来にわたって、経済・福祉・環境などあらゆる分野で持続可能な社会となりえるよう、新しい東京へと再構築すること。東京の魅力ある資産を磨き直し、国際競争力を向上させること。都民一人ひとりが活躍できる、安心できる社会にステージアップすることである。 

そのための大原則を「都民ファースト」「情報公開」「賢い支出(ワイズスペンディング)」とする。私たちが自らの名に「都民ファースト」を冠するのは、都政の第一目的は、都民の利益を最大化すること以外にないと考えるからである。一部の人間、集団の利益のために都政があってはならない。 

(略) 

(都民ファースト「綱領」より引用) 

 

 減税日本「綱領」 

基本理念 

• 行政の無駄を不断に見直し、徹底した行財政改革により税を国民に還元する。 

• 議員はパブリックサーバントであるべきで、高額報酬を求めたり、指定席化により広く市民が議員になることを妨げたりすべきでない。 

• 税源委譲・財政自立を伴う真の地域主権および住民自治を推進する。 

基本政策 

• 各種減税の実現 

• 税源、課税権の委譲を含む地域主権の推進 

• 真の住民自治の推進 

(減税日本「綱領」より引用)  

 

 両者はそれぞれ地域政党としてそれなりに長く活動を行っている。都民ファーストは2017年設立。減税日本に至っては2010年で、維新に勝るとも劣らない歴史を実は有している。 

 

 それだけになにはともあれ読者それぞれが自身の目で一読してみるべきだが、都民ファーストの綱領は長大な質的描写で構成されている。引用部分はその一部だが、数値目標等は含まれていなかった。 

 

 減税日本は上記のとおりである。なお、その他に、「政策」というページがあり、「(1)減税」「(2)議員のパブリックサーバント化」「(3)一人の子も死なさないナゴヤ」「(4)中央集権打破」が打ち出されているが、(3)を除くと、「綱領」との大きな違いは認められず、むしろ重複が気になるところである(このバージョンが2022年版で最新版ということのようだ)。 

 

 これらは本格政党ではなく、地域政党であって比較の対象としていぶかしむ向きもあるかもしれない。 

 

 それでは、次に国政政党の地域支部を見てみよう。 

 

 国政政党の代表例ということで、まずは自民党の地方支部に注目してみることにしたい。 

 

 自民党東京支部(正式には「自由民主党東京都支部」のホームページを見てほしい。そこには、「東京が、もっと好きになる」という巨大なキャッチコピーが大きく表示されるばかりなのだ。 

 

 「綱領」は存在するが、やはり具体的な数値目標などは掲げられておらず、「新しい憲法の制定を」といった地方政治との関係や意図を図りかねる項目が目を引くが、東京都に特化した主張などはあまり見当たらないように見える。 

 

 自民党大阪府連はどうか。 

 

 同府連のサイトを開いて見ると、流石に2つの首長、それぞれの議会過半数、衆院小選挙区のすべての議席を維新に握られているという、他党も同様だが極めて厳しい情勢だけあって、「次世代をつなぐ先進都市へ 命を守る。未来を創る。」というキャッチコピーのもと、「命を守る。」「未来を創る。」のそれぞれのサブカテゴリに、規制緩和によるスーパーシティ構想や、子供への未来投資と給付型子育て政策などの政策が主張されている。ただし、やはり数値目標や達成年度のようなものは示されていなかった。 

 

 野党第一党にも目を向けておこう。 

 

 立憲民主党東京都連のサイトを訪れてみると、こちらには綱領に類するものが見当たらないかわりに、都連としての近況が更新されていて、「都議会政治倫理審査委員会」(ただし、表題と本文の間で、表記揺れが認められる…)の設置提案の談話を出したことなどが紹介されている。 

 

 大阪はどうか。立憲民主党大阪府連のサイトもほぼ東京都連と同様で、近況が目に付くが、独自の綱領などは見当たらなさそうだ。 

 

 他の国政政党でいえば、東京公明党は会員専用コンテンツが中心のようだが、公明党大阪府本部のサイトは、独自の政策の打ち出しこそ弱いものの、現代的なサイトで、発信が広がりをもっているかどうかはさておくとして、頻繁に更新されている様子がうかがえる。 

 

 「再生の道」だけが政策を欠いているわけではなく、先行する地域政党や国政政党地方支部も同様の傾向にある。特に、都民ファーストの綱領や自民党東京支部の方針を見ても、具体的な政策より理念が強調されている。 

 

 要するに、「再生の道」に限らず、先行する地域政党や国政政党地方支部も広くやはり「政策がない」(か、ネットで公開して広く多くの有権者等に読ませる気がない)のである(ただし、大阪維新の会を除く。さすがに大阪を本拠地として、過去10年以上にわたって活動してきただけに、同党のサイトは政策含めて大変充実している)。 

 

 

■ 「再生の道」だけが酷評されるような状況か?  

 

 なぜ、このような政策という意味では大変お粗末な状況になってしまっているのだろうか。 

 

 さしあたり2つの仮説を挙げることができる。ひとつは日本の地方政治は、首長と議会それぞれが直接選挙で選ばれる二元代表制で、首長が政策を推進するアクセル役、議会はブレーキ役という性格が国政よりもはっきりしている。それだけに地方議員が集った「一般的な」地域政党が政策を打ち出す理由があまりはっきりしないことである。 

 

 政策は首長候補者や現職が提示したほうが実現に近く、国政政党相乗りで推薦する場合など、国政とは異なる地方独自の文脈もあるだけに、むしろ地方では国政政党の地方支部として集ったほうが組織として結集する理由や特色を打ち出しやすいということである。 

 

 もうひとつは端的に怠慢の可能性だ。よく知られているとおり、地方政治、なかでも議会選挙への関心は低い。投票率が5割を割ることは常態化しており、総じて極めて低い水準である。無選挙や議席数+1、そして定数割れといったあまりに無風で無音の選挙が実施されるようになっている。 

 

 ◎総務省「地方議会の課題に係る対応等について (参考資料)」 

 

 日本の選挙運動期間は短く、その期間に関心が集中する。低投票率で、「いつものメンバー」が当選するような選挙が常態化しているとすれば、圧倒的多数の無党派層には眠っていてもらったほうが、「いつものメンバー」にとっては圧倒的に都合が良い。したがって地方政治に特化した組織としての情報発信に注力する意欲を失っているように映る。 

 

 このとき先行する地域政党や国政政党地方支部と「再生の道」を比較したときに、「再生の道」に対して「政策がない」という批判が成立するだろうか。最後発の「再生の道」だけを酷評するのはいささか酷というものにも思われる。 

 

 最後に公選法違反疑惑である。 

 

 

■ 仮に起訴された場合の影響は?  

 

 『週刊文春』が2月13日号と翌2月20日号で前者は見開き2ページ、後者は本文トップで4ページにわたって報じているものである。 

 

 筆者は本件に関してなんら独自情報を保持していないが、ワーストシナリオは次のようなものになるだろうか。 

 

 刑事告発が受理され、起訴された場合には、公選法違反の有罪率は高いため、公民権停止となる可能性もある。ただし、石丸氏は候補者ではなく、都議選への影響は限定的と考えられる。 

 

 詳しく見てみよう。 

 

 すでに都知事選の選挙違反取締本部は解散しているが、市民団体による刑事告発が報じられている。刑事告発が提出され、受理された場合には、捜査が行われ、起訴か不起訴かが決まり、後者のはっきりした理由は示されない。 

 

 日本の場合、起訴に至ると良かれ悪しかれ9割を超える高い割合で有罪判決が出されることが経験的に知られている。 

 

 文春報道の公選法違反疑惑は、石丸氏本人というよりはもっぱら陣営に向いているようだが、その場合にも連座で公民権停止となる可能性があり、次の東京都知事選挙において石丸氏が立候補できなくなってしまうかもしれない。 

 

 ただし言うまでもないことだが、刑事告発の受理から判決確定までには相当の時間がかかる。今夏、6月22日投開票の東京都議会議員選挙までに判決が確定するとは考えにくいし、なにより石丸氏は候補者ではない。極論すれば、法的には現在の「再生の道」の活動を阻害する要因はほぼないのではないか。 

 

 ありうるとしたら、社会的な評判の毀損に伴うレピュテーション・リスクだろう。ただ、肌感でしかないが、石丸氏周辺の熱量は高い。 

 

 公選法違反は、必ずしも金額ありきではなく、悪質性などが評価されているので、どうなるかは「わからない」としか言いようがないのだが、かりに選挙違反が認められるような場合にも、既存政党の支持層とさほど重複しない石丸氏の支持層においては却って結束が固まるようなこともありえるのではないか。 

 

 ネットでは石丸氏を擁護する声も大きいように見受けられる。 

 

 このような課題も抱えながら、ネットとリアルが融合した新しい取り組みである「再生の道」はどこへ行くのだろうか。 

 

 石丸氏と「再生の道」の取り組みそれ自体もさることながら、本稿で注目したような地方政治におけるそもそもの政策の不在のように、既存の政治課題を逆照射するケースもありそうだ。 

 

 石丸氏と「再生の道」が壮大な挑戦として成功するのか、それとも風車に挑む騎士のように終わるのか。今後の展開を引き続き注視したい。 

 

西田 亮介 

 

 

 
 

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