( 265274 )  2025/02/14 17:14:53  
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ローカル線の存続に関する否定的な意見があるが、その背景には「公共交通は利用者が負担すべき」という前提がある。

しかし、都市の公共交通は多様な支援を受けており、単に利用者負担だけで成り立っているわけではない。

都市の交通は高い初期投資や密度の高い都市構造、補助金や税制優遇などに支えられている。

また、地方のローカル線を廃止することはバスなど代替手段への負担増や地域経済への影響を考える必要がある。

公共交通は収支だけでなく社会の構造の一部であり、持続可能な公共交通を確立するためには適切な政策が必要とされる。

(要約)

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ローカル線(画像:写真AC) 

 

「赤字のローカル線を存続させるのはおかしい」という意見は、鉄道に関する議論のなかでよく聞かれる。採算の取れない地方路線を維持するために税金を投入するのは非効率であり、利用者が少なければ廃止も仕方ないという立場だ。 

 

 しかし、この主張の背後にはある前提がある。それは 

 

「公共交通は利用者が負担すべきものである」 

 

という考え方だ。 

 

 だが、少し立ち止まって考えてみよう。では、利用者が多い大都市の公共交通は、誰が支えているのだろうか。地下鉄やバスが黒字を維持できるのは、単に都市の人口が多いためなのか、それとも地方とは異なる支援の仕組みが存在するのだろうか。 

 

 本稿では、地方と都市の交通維持の仕組みを比較し、「利用者負担」のみに依存した議論がいかに現実を反映していないかを明らかにする。そして、その先にある、新たな公共交通のあり方についても述べる。 

 

ローカル線(画像:写真AC) 

 

 都市の公共交通は、多くの利用者がいるため収益を上げやすい。これは事実だが、それだけが都市交通を成り立たせているわけではない。大都市の鉄道やバスは、さまざまな形で間接的な支援を受けている。 

 

 まず、都市の鉄道網は莫大な初期投資に支えられている。東京や大阪の地下鉄は、建設当初から公的資金を受けて整備されてきた。東京メトロはかつての営団地下鉄を引き継いでおり、その資産は国が整備したものである。大阪メトロも、長い間公営企業として運営されてきた経緯がある。仮にこれらの鉄道を民間企業がゼロから建設・運営するとなると、採算性は大きく変わるだろう。 

 

 また、都市交通が成立する背景には 

 

「密度の高い都市構造」 

 

がある。駅周辺に商業施設やオフィスビルが存在し、公共交通を中心に設計された都市計画が進められ、鉄道会社が展開する不動産事業も収益に寄与している。地方のローカル線にはこうした条件はほとんどない。単に「利用者数の違い」ではなく、都市と地方では前提が異なる。 

 

 さらに、都市交通には多くの補助金や税制優遇が適用されている。例えば、バス事業には燃料税の減免措置がある。都市圏の鉄道事業者も、施設整備や駅周辺の再開発に公的資金が投入されることがある。これらは広義の「支援」であり、都市交通も純粋に利用者負担だけで運営されているわけではない。 

 

 

ローカル線(画像:写真AC) 

 

 ローカル線の赤字問題がしばしば取り上げられるが、その議論の多くは 

 

「鉄道事業単体の収支」 

 

に焦点を当てている。しかし、公共交通は単なる収益性だけで評価できるものではない。例えば、地方鉄道が廃止されると、バスへの転換が進められることが多い。しかし、バスは鉄道に比べて運行コストが低いものの、収容力や利便性で劣るため、利用者がさらに減少する傾向がある。その結果、高齢者や免許を返納した人々の移動手段が制限され、自治体はデマンドタクシーやコミュニティーバスなどの代替交通手段に追加の財政負担を強いられることになる。 

 

 また、鉄道の廃止が地域経済に与える影響も無視できない。鉄道が存在することで観光誘致がしやすくなり、駅周辺の事業者が経済活動を維持できるケースが多い。鉄道の存続による経済効果は、単なる運賃収入を超える場合もあり、その重要性を単独での収益性だけでは測ることはできない。 

 

 さらに、東京の鉄道網全体にかかるインフラ維持費や混雑対策に投入される公的資金額と、地方のローカル線の維持費用を比較した場合、どちらが高額かという問題が浮かび上がる。都市の公共交通もまた、さまざまな形で公的支援を受けており、公共交通の維持には多方面からの支援が欠かせないことが示唆されている。 

 

ローカル線(画像:写真AC) 

 

 ローカル線の存続を巡る議論では、「利用者が少ないから廃止すべきだ」という単純な主張が目立つ。しかし、公共交通を単なる「事業」として捉え、黒字・赤字の二元論だけで語るのは適切ではない。 

 

 公共交通は単なる移動手段ではなく、社会全体の構造の一部である。都市交通は都市計画や公的支援によって支えられ、地方交通は地域経済や高齢化対策と密接に関わっている。その視点を欠いたまま「赤字だから不要」と結論を下すのは短絡的だ。 

 

 むしろ、議論すべきは 

 

「どうすれば持続可能な公共交通を確立できるか」 

 

である。例えば、地方の鉄道を観光資源として活用するモデルや、貨物輸送との組み合わせによる収益向上策、自治体と企業が連携して維持管理を行う仕組みなど、さまざまな可能性がある。都市と地方の支援構造の違いを理解した上で、適切な政策を設計することこそ、真の議論の方向性である。 

 

ローカル線(画像:写真AC) 

 

 結局、「ローカル線の赤字は問題だ」という主張の根底には、 

 

「公共交通は利用者が負担すべきだ」 

 

という単純な前提がある。しかし、都市交通が公的支援や都市構造に支えられている現実を踏まえれば、その前提は成り立たない。 

 

 都市の鉄道が「自立」しているわけではなく、地方の交通維持もより広い視点で考えるべきだ。 

 

 公共交通は単なる事業ではなく、地域社会の基盤を支える重要な要素である。その視点を欠き、単純な収支計算だけで結論を出すことが、いかに短絡的であるかを改めて認識する必要がある。 

 

出島造(フリーライター) 

 

 

 
 

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