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国民民主党の玉木雄一郎氏による減税政策、維新による教育無償化政策、そして安定した政権運営を目指す石破政権など、政治の構図が複雑化している中、2025年の参院選に向けた動きが注目されている。

玉木氏と前原氏の間に対立があり、維新と自公が協議するなど、野党の戦略が焦点になっている。

(要約)

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国民民主党の玉木雄一郎氏(写真は2024年12月3日の定例会見の様子)(写真:日刊現代/アフロ) 

 

 減税を掲げる国民民主党、教育無償化を推進する維新、そして安定した政権運営を模索する石破政権。過半数を得ていない自公政権では、野党の動きがカギを握る。こうした中、12日には自公と維新が、高校授業料無償化の具体策を協議すると報じられた。前原誠司氏の維新への鞍替えが招いた国民民主党の玉木雄一郎氏との対立を軸に、2025年の参院選に向けた政界の構図を元プレジデント編集長が政局を読み解く。 

 

「自民と交渉をすることについて、『政府にすり寄った』『野党分断の先棒を担いでいる』と批判をされるが、心外です。私は、今の今まで、自民党にすり寄ったことは一度もありません。ただただ、国民の生活にとって何がベストなのか。そのことだけに基づいた行動してきた」 

 

 この発言は、2023年9月に行われた国民民主党の代表選挙での玉木雄一郎氏のものだ。今でも同様の発言をしているが、この発言は同代表選挙でのライバル、前原誠司氏(現、日本維新の会共同代表。当時、国民民主所属議員)からの批判を念頭に置いたものだった。 

 

 かつて前原氏は「自民党と対峙し、『非自民・反共産』の枠組みで政権交代を目指す」と主張していた。ガソリン税の負担を軽減する「トリガー条項」の凍結解除について岸田文雄首相が検討を明言したことを受け、与党が提出した予算案に玉木氏が賛成する判断をしたことを、前原氏は痛烈に批判したのだ。 

 

 玉木氏の掲げた「減税政策」についても、前原氏は「成長減税ってなんなの?と私は思います。本当にプラスになるのか。これまでも減税は効果を生んでいないのは自明のことであります」「税収が増えた分は(若者減税ではなく)教育無償化に使う」と批判を繰り返していた。 

 

 前原氏は、かねてより政権交代の必要性を訴え、小選挙区制度を活用した強い野党の形成を主張してきた。小選挙区制度では、一票でも多く獲得すれば当選できるため、対立構造が明確になり、政権交代の実現可能性が高まる。この仕組みを前提に、政権交代可能な政治体制の確立を目指してきたわけだ。 

 

 

 一方で、玉木氏は、小選挙区での敗北を補う形で比例代表に着目し、現実的な選挙戦略を構築しようとしていた。一定の得票を確保することで、第三極としての影響力を高める方針を掲げたのである。 

 

 しかし、前原氏は代表選で敗北した後、『ノーサイドにしよう』(ラグビー用語で、試合後は対立を忘れて敵味方の区別をなくそうという意味)と発言したにも関わらず、国民民主を出ていき、日本維新の会の共同代表に就任した。 

 

 代表選が終わった直後の「ノーサイドにしよう」という前原氏の発言を信じ、むしろ周囲の前原氏の批判をなだめていた玉木氏であったが、騙し討ちのように飛び出した前原氏に対して、「絶対に、前原さんは許せない」と強い憤りを抱える事態となった。 

 

 前原氏はこれまで、政権交代の必要性を強く主張し、自公政権に対峙する姿勢を取ってきた。しかし現在、『教育無償化に関して、石破茂首相に直談判して協議を持ちかけたのは前原氏だ』(維新関係者)とされる。この動きが事実であれば、政権に対抗する立場を貫いてきた過去の発言との整合性が問われるべきだ。 

 

 前原氏は、自分が主導権を握れない立場にいる時は、政府と明確に対峙し、野党勢力の結束を求めていた。しかし、これでは自らが維新の共同代表として執行部の一員となると、政府に対して融和的な姿勢を見せるようになったと言われても仕方ないだろう。 

 

 

 今、自民党と公明党が連立を組む石破政権は、衆議院で過半数を取れておらず、安定した政権運営のために、どの政党が信頼できる協力相手となるのか慎重に見極めているフェーズだ。 

 

 今年夏の参議院選挙の結果がどうであれ、衆議院では与党単独で過半数を維持できていない状況が続くことになる。 

 

 自公政権からみた「国民民主」は、強い結束力を維持しているように思われている。玉木氏の女性スキャンダルが報じられた直後に首班指名が行われたが、党内では動揺することなく一致団結した対応を取った。この迅速な対応により、党の内部統制の強さが改めて示された。 

 

 現在、国民民主党の意思決定は玉木氏、榛葉賀津也幹事長、古川元久代表代行兼国対委員長の3人によってほぼすべてが行われているようだ。 

 

 党内の主要な決定がこの3名を中心に進められる背景には、前原氏の維新への離党、大塚耕平氏が名古屋市長選挙に出馬したこと、岸本周平氏が和歌山県知事となったことが影響している。 

 

 これらの主要人物が離れたことで、国民民主は「玉木党」としての一体性を、良くも悪くも強める結果となった。 

 

 最近の傾向としては、より「減税」についての比重が重くなってきたことであろう。ムダの大きい「取って配る」という従来の自民党の補助金ビジネスモデルから脱却できるだろうか。石破政権にとって、ぜひとも引き込みたい相手ではあるものの、掲げられた減税の額が大きく、飲み込むと自身のバラマキをやめる必要がでてくるのは頭の痛い問題だ。 

 

 一方、日本維新の会は、党内対立が長引き、分裂含みの展開である、と自公政権は眺めているようだ。馬場伸幸前代表の退任を巡る対立が尾を引き、前執行部を追い出した経緯を不満に思う議員も少なくない。 

 

 前原誠司氏の合流後も、党内での不信感は解消されず、党勢の立て直しには至っていない。維新が掲げる教育無償化などの政策も、一部の主婦層には支持されるものの、米国・ワシントン大学の調査などによれば、各種研究データからは「少子化を加速させる」こともわかっており、広い層からの支持は得られていない。今は無償化政策が単なる財政の無駄遣いとみなされる傾向も強く、有権者の評価は厳しい。 

 

 大阪を中心とする維新の地盤も弱体化が進んでいる。地方選挙ではかつての圧倒的な勢いを失い、党勢回復の道筋が見えない状況が続く。 

 

 地方政治において維新の影響力が低下し、政策実現の推進力も落ちている。大阪府内の支持基盤が揺らぐ中、他地域への拡大戦略も成果を上げられず、党内には危機感が漂っている。 

 

 維新の問題点として、政治姿勢の矛盾が指摘されている。創設者である橋下徹氏は、前執行部の公費による会食を厳しく批判し、それを口実に旧執行部を排除する動きを見せた。 

 

 しかし、現在の執行部は飲食を伴う政治活動を続けており、透明性の確保とはほど遠い状態である。党内では、カフェでの打ち合わせなど無駄を省く方針が掲げられたものの、実際には旧体制と変わらない政治運営が続いている。 

 

 政局のための政局を繰り返し、実質的な政策議論が後回しにされているのが維新の現状であり、いつ分裂するかもわからないだろう。 

 

 とはいえ、国民民主の減税と違い、維新の教育費無償化(税金負担)は必要とされる税額が少なく、自民党としてもビジネスモデルを変える必要がない。頼りになる相手ではないが、目の前の予算案を可決させるには好都合だろう。ただ、与党にすり寄ることに反対する名目で、国民民主を飛び出した前原氏の整合性が問われる場面になりそうだ。 

 

 

 今の玉木氏にとって、最大の課題は参議院選挙を勝ち抜くことである。まずは東京都議会議員選挙を乗り越え、次の国政選挙に向けた足場を固める必要がある。 

 

 連合東京を通じて立憲民主党と連携する選択肢もあるが、その可能性は完全に排除されている。蓮舫氏、手塚仁雄氏、長妻昭氏といった東京の立憲民主党の主要政治家は、共産党との連携を厭わないリベラル路線を貫いている。政策の方向性が大きく異なるため、協力関係を築く余地はない。 

 

 そこで玉木氏が選択しようとしているのは、小池百合子東京都知事との連携である。小池百合子知事の政治手腕と国民民主の減税路線を掛け合わせることで、都議選での成果を最大化し、その勢いを参議院選挙につなげる戦略を描いている。 

 

 小池知事は、主婦層の支持を幅広く集める力を持ち、国民民主党にとっては貴重なパートナーとなりうる。都議選での成功が、次の参議院選挙での躍進に直結するため、玉木氏は小池知事との関係強化に注力している。 

 

 国民民主は「対決より解決」を掲げ、石破首相を苦しめる政策を前面に押し出している。ただし、年収の壁の決着額、ガソリン減税の行方次第では、高まり続ける有権者からの期待は一気に失望、そして怒りへと転じる恐れがある点には注意が必要だろう。 

 

執筆:ITOMOS研究所所長 小倉 健一 

 

 

 
 

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