( 265706 ) 2025/02/15 16:07:29 0 00 米価高騰の原因について「コメ不足」とは絶対に言わない江藤拓農林水産相 Photo:JIJI
● 投機筋がコメを買い占めた? 農水省見解が胡散臭い
レアな人気商品を大量に買い占めて抱え込み、価値が高騰したところで一気に売りさばく――。そんな「転売ヤー」が、ついに「コメ」にまで手を出し始めたのかと衝撃が広がっている。
きっかけは、昨年の「令和の米騒動」からコメの価格が一向におさまらず高騰を続けている問題を、国会で繰り返し追及された、江藤拓農林水産大臣が述べたこの言葉だ。
「米はあると。(中略)どこかにスタックしていると考えざるを得ない」(1月31日)
「今回は、今まで米を扱ったことがないような人が参入している気配がある。どこにどれだけあるか、いま、調査を一生懸命かけています」(2月3日)
要するに、コメの生産は十分に足りているにもかかわらず、一部のけしからん投機筋の人々が買い占めて抱え込んでいるために、価格が下がらないというのだ。
この根拠としているのは、「消えた21万トン」だ。農水省は、農協を含む大手の卸の集荷量が低下していることをもって、他の業者がコメをためこみ、本来はあるはずの21万トンが従来の流通から消えたと主張をしている。官僚からの情報に「依存」するマスコミもそんな「買い占め説」を盛んに広めている。
《コメの高騰が続く背景には、一部の生産者や業者が、コメをより高く売れるタイミングまで市場に出さずいるとみられています。そこで、農水省は、備蓄米をJAなどの集荷業者に販売。コメを抱える業者に「価格が下がるかもしれない」とけん制して、市場に出回るよう、促そうという狙いがあります》(テレ朝news 2月12日)
このような話を聞くと、「買い占めているのはどの業者だよ、みんなが困っているときにとんでもないヤツらだ」と怒りが込み上げてくる人も多いだろう。実際、ネットやSNSでは「米を買い占めているのは誰だ」と「犯人探し」まで始まっている。
ただ、個人的にはこの「投機筋の買い占め説」はかなり胡散臭い話だと感じている。
多くの専門家が指摘しているが、この説の大前提である「米自体は足りている」という農水省の主張自体がどうにも疑わしいからだ。
今回の米高騰のきっかけは昨年8月に、スーパーの棚から一斉に米が消えた「令和の米騒動」だ。これは前の年の猛暑の影響もあってコメの供給量がシンプルに減少したことで発生した。
農水省によれば、23年秋の主食用米の収穫量は661万トン。しかし、これに対して需要は705万トンもあったので「40万トンの米不足」が起きていた。それが24年春から徐々に露呈して、夏にはついに店頭からコメがなくなったというわけだ。
それをうかがえるのがコメの在庫量だ。農水省の「民間在庫の推移」を見ると、昨年7月は82万トン。その前年7月の在庫は123万トンなので、41万トン少ない。確かにこちらから見ても「40万トンの米不足」なのだ。
ただ、問題はここからだ。この時期、農水省は「9月になって新米が出回れば米不足は解消します」と盛んにアナウンスをしていたことを覚えているだろう。吉村弘文大阪府知事が備蓄米放出を要請しても、「全国的に見れば需給ひっ迫にない」としてあっさり却下した。
しかし、冷静に考えればそんなうまい話などあるわけがない。9月に出回る新米というのは基本的に10月から食べ始めるものだ。では、例年9月に我々が食べている米はどういうものかというと8月に出回っているものだ。しかし、今回は8〜9月の時点ですでに「40万トンの米不足」に陥っているのでそれがない。つまり本来は10月に食べ始めるはずの新米を、農水省は9月に「先食いしろ」と言っていたのだ。
これが問題の「先送り」でしかないことは、先ほどの「民間在庫の推移」がすべてを物語っている。24年7月の在庫が前年に比べて41万トン少ないことは述べたが、9月になるとどうなるかというと、前年比で50万トンも少ない。10月は44万トン、11月は43万トン、12月が44万トンとほぼ同じ状況が続く。
つまり、農水省は新米が出回ればすべて解決みたいなことを言っていたが、なんのことはない民間在庫的には「40万トンの米不足」が昨年7月からずっと継続していたというワケだ。
これが「米価高騰」に大きな影響を与えていることは容易に想像できよう。
確かに、新米が出回った昨年9月、スーパーの棚にはコメは戻ってきた。しかし、それはあくまで「先食い」の結果であり、表面的な問題の解決にすぎない。民間在庫の「40万トン米不足」は絶賛継続中なので、米の取引に関わる人たちの多くは「去年の今頃に比べてだいぶ少ないな」という品薄感がある。
そうなれば当然、取引価格も上がることは言うまでもない。そこに加えて、商売人としてはまた昨年夏の米騒動のようなことが起きてもいいように、リスクヘッジとして「いつもより多く在庫を抱えておくか」となるのでさらに価格は釣り上がる。結果、我々の手元に届くときは、「5キロ4500円」なんて目を疑うような高値になってしまうのである。
● 国民の目を背けたい農水省 絶対に「コメ不足」と言わないワケ
こういう構造的な問題がある中で、「投機筋がお茶碗32億杯分のコメを買い占めているぞ!」と言われても正直ピンとこない。というか、「農水省にとって都合の悪い話から目を背けさせるために、卸業者に罪をなすりつけているんじゃないの?」と穿った見方さえしてしまうのだ。
なぜかというと、今回の米価高騰は「農水省にとって都合の悪い話」が大いに関係しているからだ。それは今回、「40万トンの米不足」を引き起こしてきた減反政策についてだ。
「おいおい、そんなもんは2018年にとっくに廃止になったよ」と失笑する人もいるかもしれない。しかし、農水省は減反政策廃止後も、主食用米の全国の生産量の「目安」を示しており、米から転作する農家に補助金まで出して、主食用米の生産量を絞っているのだ。
そして、この動きは近年加速していた。例えば、21年秋の主食米の収穫量は702万トンだった。需要はだいたい年間700万トンと言われているのでトントンだ。しかし、それが翌22年秋になると30万トンも落ち込んで、670万トンになる。「主食用米の作付面積が125万1000ヘクタールと21年産より5万2000ヘクタール減ったことが背景にある」(日本経済新聞 2022年12月16日)からだ。
では、なぜ農水省は廃止になった今も「減反」に執着し続けるのかというと、「生産調整をすることで米価を安定させて米農家を守るため」だという。しかし、一部の専門家やジャーナリストたちはこれはあくまで建前に過ぎず、実際は「JAの利益を守るため」だと指摘している。
減反が進んで「米不足のムード」が定着すれば当然、売り手市場になる。では、売り手は誰かというと、米農家ではない。
日本の農家は海外のように大規模化も進んでいないので、個人の零細農家ばかりだ。そこでJAが「概算金」を払って農家から米を引き取り、卸売業者と取引をする。しかも、減反が進めば兼業農家や「土地売却農家」が増えるので、それらの預金がすべてJAバンクに入る。
つまり、減反政策で一番潤うのは、実は農家でも国民でもなく、JAだというのである。
実際、令和6年産米の相対取引価格(JA全農などと卸売業者との間の取引価格)は2万4665円(12月速報値)。一方、令和4年産の相対取引価格は1万3920円なので1万円以上も上がっている。
もちろん、農家に払われる「概算金」も上がっているが、ほとんどは大規模農業ビジネスをしているわけではなく、個人農家でもともと赤字。物価高騰で肥料や燃料も上がっているので、大した恩恵はない。しかし、JAは「中間マージン」で扱う量も膨大なので、相対取引価格が高騰すればするほどうまみも大きい。
もちろん、これにはいろんな意見があるだろう。ただ、どういう理屈をつけようとも、食料自給率38%という異常事態にもかかわらず、我々の血税をつっこんで米の生産を絞ろうという「減反政策」は異常だと言わざるを得ない。
世界では、食糧をたくさん生産して国内の需要が十分に賄えるようになってから、「あまったら海外に売る」が常識だからだ。
わかりやすいのは、インドだ。
ご存じのようにかの国は14億もの人々がいる。それだけいれば、食糧確保が大変だと思うだろうが、食糧自給率は100%。それを支えているのが「米」だ。農水省の資料によれば、インドの米生産量は中国に迫る勢いで、23〜24年で1億3400万トンである。ただ、消費に関しては1億1500万トンという感じで、供給量がかなり上回っている。
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