( 265776 ) 2025/02/15 17:31:22 0 00 〔PHOTO〕iStock
人口減少日本で何が起こるのか――。意外なことに、多くの人がこの問題について、本当の意味で理解していない。どう変わればいいのか、明確な答えを持っていない。
100万部突破『未来の年表』シリーズのベストセラー『未来の地図帳』は、20年後の日本人はどこに暮らしているのか?人口減少が10〜20年後の日本のどの地域をどのような形で襲っていくのか?についての明らかにした必読書だ。
※本記事は『未来の地図帳』から抜粋・編集したものです。
地方創生は、お世辞にも順調に進んできているとは言い難い。なぜ、政府の地方創生政策はうまく運ばないのだろうか?この理由をきちんと踏まえておかなければ、社会の作り替えはうまくいかない。
最大の要因は、出発点からのボタンの掛け違いである。
第1の間違いは、安倍首相が人口ビジョンの中で「2060年に1億人程度の人口を維持」と掲げたことだ。これで官僚たちの思考がストップしてしまった。
人口減少に何らかの手を打たなければならないという首相の意気込みは買いたい。だが、子供を出産できる若い女性の激減が決まってしまっている以上、日本の少子化は止めようがない。
この期に及んで出来ることといえば、人口規模を維持せんがための方策を探ることではなく、人口が激減してもなお国を豊かにする手立てを探し、変化に耐えうる社会へと作り替えることだ。目標設定の方向性が違うのだ。
人口減少に対する危機感を強く持っている国会議員や官僚は少なからずいる。しかしながら、国のトップリーダーがこの国に突き付けられた厳しい現実を直視しようとしないのでは知恵の絞りようもない。
社人研の推計では2060年の人口は9284万人で、目標に700万人ほど足りない。この差の辻褄合わせを問われていると受け止めた官僚たちは、外国人労働者の受け入れ拡大のように、根本的な解決につながらないばかりか、日本社会を弱体化させる安易な手法に流れていく。政策はもとより、発想そのものが「現状維持」へと向いてしまうのだ。
こうなると、国家よりも省益が優先される。「地方創生」と銘打てば予算を確保しやすいとばかりに、地方創生とは程遠い政策までが大手を振ることとなる。最近で言えば、人工知能(AI)やビッグデータなど、最先端技術を活用した「スーパーシティ」構想だ。
技術革新を促進し、ハイテク産業の発展につながる政策としては有用であると思うが、インフラ整備だけでも莫大な費用を要する。いまさら全国に何ヵ所建設できるというのか。少子高齢化や人口減少の加速に悩む地域の解決策としての効果は、限定的だといえよう。
第2の間違いは、地方移住者の増大策にしても、地方都市政策の強化策にしても、既存の市区町村をベースとしていることだ。市区町村そのものが立ちゆくのかどうかが問われているのに、政府は都道府県や各市区町村に地方人口ビジョンや地方版総合戦略の策定を求めた。今度は、すでに翳りが見え始めた政令指定都市や県庁所在地に“ミニ東京”としての自立度の高い受け皿を期待している。
政府からの要請に対して、対応できる組織体は都道府県や市区町村しかないことは、紛れもない事実である。だが、突如として宿題を出された市区町村長たちからすれば大変だ。「住民から『明るい展望を示せない人』というレッテルを貼られようものなら、再選はない」と慌てふためき、合計特殊出生率が大きく改善することを前提とした「絵空事の将来図」を発表する自治体まで登場した。
人口減少対策に取り組んでいる姿勢を示すことが重要と言わんばかりに、他の自治体から定住者を引っ張り込むことを目的とした無鉄砲な子育て支援策や、過度な家賃補助といった施策を展開するケースが全国各地で見受けられる。
それどころか、国会議員や地方議員、地域経済界には、地方創生を相変わらずの地域経済活性化策に矮小化し、いつ実現するとも分からない大規模な再開発プロジェクトや大型公共工事計画を掲げる動きも見られる。
いまは、人口が激減していく「国難」に対し、日本の総力を挙げて立ち向かうことが求められるときにある。そんな状況下で、どこの市区町村の人口が何人増えたとか減ったとかを競い合っている暇はない。何度も言うが、日本という国は、日本列島のあらゆる地域が固く結びつきながら営まれている。この国でこれから起こる「不都合な真実」は、現在を生きる人々共通の課題だ。日本列島から人口が大きく減っても、各地で大きな差が開くことなく豊かな暮らしを送り続けられるようにする術を、生活している地域を超えて、みんなで考えていかなければならない。
そもそも市区町村とは人為的な線引きによって誕生したものに過ぎない。人口減少社会が進んでいけば、自治体として成り立たないエリアが日本列島上に広がってゆくが、そこにも人々の暮らしは残る。
地方創生とは、既存自治体を活性化させるための政策でもなければ、ましてや首長、地方議員の生き残りを図るためのものではない。地域ごとに集まり住むため、同一エリア内での引っ越しを余儀なくされる人は少なからず出てくるだろうが、なるべく住み慣れた地域で豊かな暮らしを続けられるようにするための政策なのだ。
つづく「日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」」では、多くの人がまだまだ知らない「人口減少」がもたらす大きな影響を掘り下げる。
河合 雅司(作家・ジャーナリスト)
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