( 265979 )  2025/02/16 05:20:20  
00

2017年の自衛隊音楽まつりの様子が紹介されている。

自衛隊は人員不足や任務の増加により、行事の負担が大きくなってきている。

自衛隊音楽まつりなどの行事の必要性や効果、負担について再検討が必要とされており、特に音楽まつりは取りやめを提案している。

(要約)

( 265981 )  2025/02/16 05:20:20  
00

2017年の自衛隊音楽まつりの様子(写真・陸上自衛隊ホームページより引用) 

 

 全国の自衛隊の基地をはじめ、自衛隊は国民向けのイベントをよく開催する。自衛隊音楽まつりといったものだが、これらは今後も続けるべきだろうか。観閲式や航空基地祭も今までどおり開催してよいものか。 

 

 実は、自衛隊は余裕がなくなっている。海外派遣などの任務拡大や人口縮小による人員不足などにより、従来どおりの業務実施は不可能となりつつあるのが現状だ。 

 

 となれば、各種の行事は見直すべきである。行事負担から実任務が滞り、隊員が疲弊する事態にすでに至っているからである。 

 

■負担が大きい行事も 

 

 では、自衛隊にはどのような行事があるのだろうか。 

 

 まずは国家の公式行事がある。皇室行事をはじめ国家が主催する式典には自衛隊が必須だ。儀仗や礼砲、堵列(とれつ、隊員が並んで人垣を作ること)、音楽隊は、他の省庁では代替できないためだ。 

 

 防衛省が主催する行事もある。陸上自衛隊(陸自)の中央観閲式や海上自衛隊(海自)の観艦式、航空自衛隊(空自)の航空観閲式といったものである。 

 

 最近は西暦が3で割れる年は海自、翌年は空自、翌々年は陸自と輪番で実施している。 

 

 自治体行事への協力もある。オリンピックやさっぽろ(札幌)雪まつりでの作業支援である。開会式などへのブルーインパルス派遣を含めてもよい。 

 

 これら行事の負担は大きい。動員規模は1000人を超えることは珍しくない。拘束期間もむやみに長い。自衛隊は失敗を病的に嫌うため、事前訓練や予行を何回も実施するからである。 

 

 ただし、こうした行事の開催負担は、これまでは問題とはならなかった。自衛隊に余裕があったためだ。 

 

 自衛隊は2000年ごろまでは、今から見ればヒマを持て余していた。冷戦時代も例外ではない。ソ連と対峙していたものの、自衛隊の業務量はたいしたものではなかった。 

 

 冷戦後に始まる海外派遣も常態化はしていない。湾岸戦争(1990〜1991年)後に行われた機雷処分やカンボジアPKO(国連平和維持活動)はあくまでも一過性の出来事にすぎない。 

 

■対中国、北朝鮮…本来の業務が格段に増えた 

 

 隊員数も不足はなかった。以前には予算上の定数はおおむね満たしていた。確かに好景気となると隊員募集は厳しくなった。ただ、若者の数が多い時代であり、採用水準の実質的切り下げで人数のつじつまを合わせていた。 

 

 

 しかし、今では行事と任務の並行実施は難しくなっている。 

 

 まず、仕事が増えた。中国軍の活動は積極的であり、かつてのソ連とは比べものにならないほどだ。並行して北朝鮮が発射する弾道弾への監視も続けなければならない。 

 

 中東・アデン湾をはじめとする海外派遣や日米間と、さらにはオーストラリアやヨーロッパとの共同訓練も日常化している。 

 

 人員も減った。人口減少から隊員募集は年々厳しくなっている。今の人員規模の維持はすでに不可能だ。加えて、部隊から人もいなくなっている。自衛隊強化の名目で、高級司令部や機関を増設し、そこから隊員を引き抜かれたためだ。 

 

 そのため行事と任務が衝突する事態も生じている。2024年1月1日に発生した能登半島地震での災害派遣は、自衛隊行事の影響を受けた。 

 

 発生直後の1月7日に、落下傘部隊による「降下訓練始め行事」を予定していた。そのため災害派遣で力を発揮する大型ヘリCH-47の能登への投入数が制約される形となった。予備機を含めれば6〜7機を行事に割いている。 

 

 これは陸自が保有する49機の1割以上、うち飛行可能状態にある可動機数の2割以上に相当する。 

 

■音楽まつりをやる意義と効果は?  

 

 この問題はどのように解決すればよいだろうか。 

 

 もはや、行事を見直すしかない。今の自衛隊には従来規模の行事はできない。その現実を考慮しながら、任務や規模と衝突しない水準まで整理を進めるしかない。 

 

 必要性があるか、効果は期待できるか、負担は過大ではないかとの観点から再検討するしかないのである。 

 

 具体的にはどのような行事を見直すべきか。何よりも自衛隊音楽まつりは取りやめるべきだ。これは年1回、3日間の日程で陸海空自衛隊が武道館で行う公演会だ。ただ必要性は低く、効果は期待できず、負担は大きい。 

 

 実は、その必要性が明確ではない。「なぜ音楽まつりを実施しなければならないか」がない。「音楽隊があるから公演をする」程度である。 

 

 目的とする自衛隊の存在の周知と隊員の募集効果も期待できない。音楽まつりを続けても自衛隊への理解を積み増す機会とはらない。 

 

 募集効果に関しては皆無だ。「入隊のきっかけは音楽まつり」と言う隊員を見たことがない。これは音楽員も同じだ。彼らは最初から自衛隊音楽隊を就職先と考えている。「音楽まつりを見て入隊」とはならない。 

 

 

 観客入場の抽選倍率も広報の効果あるという証明にはならない。自衛隊は「倍率6倍の人気行事」と宣伝しているが、それはキャパ1万人の武道館に3000人ずつしか入れないので倍率が上がっただけである。 

 

 筆者の体験でも今ひとつである。自衛隊工事の御用聞きで関係先にはあいさつ代わりに広報行事の案内や手配もしていた。そこで(それなりではあるが)人気があったのは、観艦式や富士火力演習のチケット、南極の氷の配布だった。 

 

 これらは自衛隊と利害が必ずしも一致せず、率直に意見を交わす関係の団体からも手配を頼まれた。ただ、音楽まつりのチケットがほしいと言われたことは一度もなかったのである。 

 

■観閲式も今のままでよいのか 

 

 隊員への負担は無視できない。演者は陸海空の音楽隊だけではない。一般隊員からも太鼓の要員として100人以上をかき集めている。しかも彼らは専従である。1年単位で訓練などの日常業務から離れて太鼓の練習をしている。金銭面でも、武道館の利用料金が発生する。 

 

 結局、続ける理由がない。確かに陸海空音楽隊員の交流は必要だろう。ただ、それは音楽隊限りでやればよい。自衛隊の行事として続ける必要はない。 

 

 中央観閲式も見直す必要がある。必要性は高いが効果は限定的であり、負担も大きい。観閲式とは内閣総理大臣による陸海空自衛隊の閲兵である。最近では埼玉県の朝霞駐屯地で3年に一度実施している。 

 

 この行事の必要性は十分にある。自衛隊の最高指揮官は文民であり、自衛隊は文民政府に隷属する。それを明示する行事だからだ。また外国向けには世界有数の軍事力を誇示する機会であり、国民に向けても防衛政策や募集のよい広報となっている。 

 

 ただし、効果は限定的でもある。演習場の塀の内側で実施するため露出は少ない。防衛省関係者と各国武官、限られた数の国民が見るだけになっている。 

 

 さらに、負担が極めて大きい。現地予行を含めれば5万人日を消費している。陸海空の参加隊員数は4000人を超えており、実施の10日前には朝霞に集合して予行を繰り返し本番に当たる。その際には人員輸送や宿泊、給食を支援する隊員も必要になる。 

 

 加えて、参加部隊は1〜2カ月前から所在地で事前練習もやっている。整列と行進の能力向上といった実務上は無益な訓練に力を入れるのだ。 

 

 

 海自の参加部隊であれば、午後はすべて訓練である。整列と「軍艦マーチ」を何回も繰り返す。任務に影響が出ないようにと、千葉県柏市にある第3術科学校に入校中の自衛官を参加者に仕立てているものの、期間中は本来の教育は進まない状態になる。 

 

 内容も不毛である。整列では「横から見て、靴先が一直線になっているか」を重視する。そのため列両端から糸を引っ張って確認する。 

 

 下士官以下は「担え銃」で行進するが、その角度を一致させる矯正も無駄に厳しい。隊員の右前腕、右上腕、小銃に巨大な三角定規を当てて角度を修正している。参加しない教育課程の自衛官はその不毛さを「◯◯課程でよかった」と口々に言い合っていた。 

 

 なお、空自でも不人気だ。不毛な訓練に加えて序列の問題もあるという。朝霞で予行を何度も繰り返すうちに、前を進む海自の珍妙な旧海軍号令や挙動動作に混乱し引っ張られてしまう。それを毎度注意されるのでうんざりするとのことである。 

 

 そのような状況であれば、やり方は変えた方がよい。まず、頻度や実施水準は切り下げるべきだ。実施は国家的慶事に限定する。その際も、整列や行進の練習や予行はやらない。当日集合で本番のみの1発勝負にする。それなら1万人規模にしても負担とはならない。 

 

 また、実施するなら効果の最大化も図るべきだ。露出を増やすため、例えば皇居前広場で実施し、交通規制したうえで内堀通りを1周させる形はどうか。軍事パレードとは本来そういうものである。 

 

■近隣住民に迷惑をかける 

 

 航空基地祭にも改める余地がある。必要性は高く、それなりの効果は上げているが、近隣に迷惑をかける問題がある。 

 

 陸海空自衛隊の基地は一般開放を行う。これは基地周辺の住民や自治体の理解を得るためだ。基地は騒音を出す迷惑施設であり、塀の中で何をしているかは今ひとつわからない。そのような疑念を払拭するために年に1回、土日を選んで出入りを自由にしている。 

 

 

 
 

IMAGE